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空の色は変化し続ける、ということだけが変化しない。~宵と暁の空~  作者: 来夢創雫
任務「排除任務009:「脅威の芽 封じられたバイオテロ」
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「暗刻の前線」

 人気のない裏道沿い、古びた公園のベンチに腰かけて、政悟はスマホを伏せた。和大に電話をしたが、忙しいようで繋がらない。

 木の葉を揺らす風が涼しく、日差しの下では汗ばむ肌にも心地よかった。だが、その涼しさがどこか、少しだけ冷たくも感じられるのは、たった今聞いた名前のせいかもしれない。


「政悟」

 名を呼ばれて振り向けば、イハラが立っていた。

「どうしたんだこんなところで、今日、学校は?」


「今、終わったところです……あれ? イハラさんこそ、隼斗たちと一緒じゃなかったんですか?」


「俺は別行動だよ」


 そう言ってイハラは政悟の隣に座った。政悟は先ほどの会話を思い出した。


「あの、通報者を匿おうとしている人がいるみたいです。班長に伝えようと電話したんですが、出なくて……どうやらその相手、カワキタって言うTNTの人みたいです。表に出ない国の組織の人って、さっき電話で話してたので。そこで、僕、思い出したんです。前に行った島の任務の時……」


「おい、ちょっと落ち着け。誰かが通報者の研究員を逃がそうとしているのか? だいたい島の任務ってなんだ?」

 イハラが怪訝な顔をする。


「あ、イハラさんは島の任務にいませんでしたね。僕とシンイチさんと隼斗で行った任務なんですけど。そこで他の隊員が話していたんです。『カワキタさんには会ったよ。まだTNTで頑張ってる』って。多分その人が通報者を逃がそうとしているみたいです」


 隣に座るイハラは、少しだけ目を細めて、ゆっくりと息を吐いた。


「カワキタ……か……。それはちょっと厄介かもな」


 その呟きに、政悟はわずかに眉を寄せた。


「知っている人、ですか?」


 イハラは肩をすくめ、曖昧な笑みを浮かべた。


「ああ、名前を聞いたことがある。確か、カワキタって、自由に動く人間だって。でも……政悟、この件は、誰にも言わない方がいい」


「え?」


「TNTの人間が関わってるとすれば、安易に動くべきじゃない。もしも、そのカワキタが班長の知り合いだったらどうする? 和大のことだ、上に報告する前に何とかしようと言うだろう。念のため俺の方で確認しておくよ。まずは俺一人が動く。この件は俺とお前だけで、抑えておこうか」


 公園の砂場では、小さな子どもたちが無邪気に叫び声を上げて遊んでいた。政悟はちらりと視線を向けてから、ゆっくりと頷いた。


「わかりました。イハラさんに任せます。それで、僕はどうしたらいいですか? TNTの内部に、別ルートがあるってことですよね」


 イハラはわずかに目を伏せて、ゆっくりと首を横に振った。


「その可能性もある。でも憶測で動くのは危険だ。政悟はこのまま、対象者の監視を続けてくれ。カワキタが接触してくるかもしれない」


「はい。何かあったら、イハラさんにすぐ連絡します」


「対象者の会話はリアルタイムで聞いているのか?」


「いいえ、学校があるので、録音したものをあとでまとめて……。でも、この状況だと、リアルタイムで聞いた方が良いですよね?」


「いや、さすがに学校で聞くのはな……。まぁ、相手はただの研究者だ。お前のやり方で問題ないよ。いくらカワキタがTNTの人間とは言え、すぐには動けないだろう。学校では勉強に集中すること、いいな?」

 イハラの声は、あくまで落ち着いていた。


「はい」


 政悟はそう言って立ち上がった。イハラも少し遅れて立ち上がり、軽く背中を叩いてくる。


「無理はするなよ」

 イハラの声はいつものように穏やかだった。


 政悟が公園を後にしようとしたその時、スマホが震えた。画面には「和兄(かずにい)」の表示がある。通話に出ると、和大の落ち着いた声が響いた。


「政悟、今どこだ?」


「イハラさんと近所の公園にいます」


「ああ、イハラも一緒か。さっき、本部から連絡があった。研究員以外の関係者が逃げ出す可能性が出てきたらしい。予定が早まったが、これから排除の任務を行う。俺と隼斗、シンイチも現場に向かうが、お前たちも来られるか?」


 政悟はイハラに視線を送る。事情を察したのか、イハラは軽くうなずいた。


「はい、わかりました。イハラさんと現場に向かいます」


「そう言えば、さっき電話したか?」


「あ、それは……」

 和大の問いに、政悟は一瞬言葉を詰まらせた。イハラが「何も言うな」とでも言うように、そっと首を横に振る。


「いえ……解決しました」


「そうか、じゃあ。急で申し訳ないが集合してくれ」


「はい」



 任務地は郊外の開発区に建つ、外国資本のシェアラボだった。外見はただの二階建ての研究施設だが、内部には情報収集や非合法な実験の拠点として整備されており、今回のターゲットはその中に潜伏する関係者――おそらく武装した人員7名ほどと想定されていた。


 夜間、施設周辺の人通りが途絶えた頃、和大、隼斗、シンイチが先に合流地点に到着していた。間もなく、政悟とイハラが並んで現れる。イハラは手袋をはめ直し、政悟はどこか緊張の面持ちだ。


 その姿を見た隼斗が、眉一つ動かさずに口を開く。

「なんでお前ら、一緒なんだ?」

 あくまで淡々とした口調だったが、視線にはわずかな棘が混じっていた。


 政悟が答えかけたその時、イハラが一歩前に出て、冷ややかに言い捨てた。

「たまたまだ。文句があるなら後にしてくれ。仕事中に雑音は不要だ」


 その返答に、隼斗は肩をすくめ、それ以上は何も言わなかった。まるで、もとから期待などしていないような反応だった。


 その間に、和大が周囲の警戒を終え、低い声で指示を出す。


「ターゲットは建物内部、二階のラボに3名、監視と出入口付近に4名。確認次第、順次排除に移る。イハラ、政悟は東側を回り込んで侵入口を確保。俺と隼斗、シンイチで裏手から入る。3分後に同時突入。いいな?」


 全員が無言でうなずいた。任務が始まる。互いの温度差と緊張が空気に漂う中で――。



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