「沈黙の武装」
任務当日の夜。
居間の中央に広げられた地図と、タブレットに映る現地の監視映像。
全員が座り込み、真剣な表情で画面に見入っていた。
「現場は港の一角、使われていない積み出し用の倉庫群だ」
和大が地図上を指しながら言った。
「監禁されているのはこのコンテナブロックの一つ。該当箇所には昼間、複数の人間が出入りしているが、夜になると周囲の動きはほぼ止まる」
「つまり、夜間は少人数で警備してるってことか?」
シンイチが確認する。
「ああ。敵は5~7名。全員武装している可能性あり。コンテナ内の被害者数は不明だが、少なくとも4人以上。移送される前の今夜が唯一のチャンスだ」
「出入り口は?」
イハラが短く問う。
「コンテナ南側に搬入口があるが、通常は施錠されてる。俺と隼斗で周辺を攪乱して、シンイチが裏手から侵入する。イハラは情報遮断と通信の妨害を。政悟、お前は突入後、監禁されている人の救出につけ。侵入と救出が第一。戦闘は避けろ」
政悟がうなずいた。
「救出が完了したら?」
隼斗が問う。
「被害者の安全を確認した時点で、残りの敵を抹殺する」
和大の声は静かだった。
「抹殺って言い方、最近だんだん板についてきたな」
シンイチが苦笑する。
会議は短く、静かに終わった。決行は3時間後だった。
作戦会議のあと、政悟は台所に飲み物を取りに立った。冷蔵庫から缶ジュースと取り出すと、ふと、後ろからシンイチの声がした。
「なあ、政悟」
「はい?」
「今日、怖くないのか?」
政悟は一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐに静かに答えた。
「怖いですよ。だけど、行くって決めたんです」
「正直でよろしい」
シンイチは笑って、政悟の隣に並んだ。
「前に誰かが言ってたんだけどさ。任務に向いてる奴ってのは、恐怖と同居できる奴だって。
でもまぁ、できれば、無傷で帰れ」
「僕、そんなに無茶しそうですか?」
政悟が笑った。
「するよ。年齢のわりに冷静すぎる顔してるくせに、中身が熱い」
「別に、熱くなんかないですよ」
シンイチは少しだけ目を細めた。
「そうか? だったら、昨日のお前の目は何だったんだ」
政悟は返事をしなかった。ただ、静かに冷蔵庫から出した缶ジュースのふたを開けた。
作戦会議が終わり、それぞれが静かに準備を始める。
緊張感の漂う家の中で和大は小さく息をついて立ち上がった。
居間の端、畳の下に手を伸ばす。畳を持ち上げ、板の節目に沿って鉄のリングを引いた。ギィ、と軋む音とともに、小さな床下収納の蓋が開く。
下には、二重底の構造になった木箱があった。
上段には乾パンや保存食、医薬品。
その下に、重ねて隠されていたのは、黒い布で包まれた銃器類たち。
和大が布をめくると、分解されたライフルと数丁の拳銃、無線機、スモーク弾、予備マガジンが静かに姿を現した。
「床下の湿気、意外と馬鹿にならないな。防湿材増やすか」
イハラの声が後ろから響く。
和大はうなずいてそれらにゆっくりと手を伸ばした。
「屋根裏の方も見ておいた方がいいだろうな」
隼斗が言いながら、和室の天井を見上げた。
ふすまの上、天井の一角には、小さなハッチが取りつけられていた。ハッチを開けて登ると、暗い屋根裏に細工された木箱が置かれていた。中には、折りたたみ式のスナイパースコープと狙撃用の銃、サプレッサーが眠っていた。
政悟はナイフを取り出し、刃を確かめている。手馴れた動きだった。迷いのない手つきに、和大がわずかに目を細める。
「屋根裏の装備品、問題ないか?」
シンイチが天井裏にいる隼斗に問う。
「ああ、問題ない」
「いいか政悟、いざと言う時は逃げろ」
和大がはっきりと告げた。
「いざってときなんて来ないですよ」
政悟はナイフを鞘に収め、立ち上がった。
沈黙が落ちる。全員は無言のまま装備を身に着け、互いの目を見た。