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空の色は変化し続ける、ということだけが変化しない。~宵と暁の空~  作者: 来夢創雫
任務「潜入任務007:「信仰の影 潜入の3日間」
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「偽装の初日~職場実習1日目①」

翌日


「高校生の職場体験って。僕、もっとカッコいい任務がよかったなあ」


 政悟は寝転がったまま、天井にぼやいていた。ちゃぶ台では、八真人が黙々とPCの画面をスクロールしている。

 政悟が何を言っても、いつものように無反応。


「ねぇイチくん、これ、どうしたの?」

 政悟は近くに置かれた、畳まれたままの作業服を手に取った。


「まさか本物?」


「貸し出し用を手配した。入退室のICカードも複製した。隙を見て忍び込む」


「さすが、完璧。仕事が速いね」

 政悟は半ばあきれながら、作業服を眺めた。


「なんか、これ着ておとなしく仕事してたら、もう戻ってこれなくなる気がする」


「それが理想だ。疑われるな、目立つな、余計なことをするな。上手く溶け込むんだ」


「はいはい」

 八真人は反応を示さず、別のファイルを差し出した。


 施設周辺の地図と、搬入スケジュール、スタッフの顔写真が整然と並んでいる。


「え、待って。これ全部覚えるの?」


「そうだ」


「うっわ」

 政悟はうなだれながらも資料に目を通し始めた。


 しばらくして、不意に手が止まる。

「ねぇ、イチくん」


「何だ」


「中学のとき、職場実習どこに行った?」


 政悟がふと思い出したように問いかけると、八真人は手元の資料を片付けながら短く答えた。


「銀行だ」


「うわぁ、ぴったりすぎるね」

 政悟はにやりと笑う。


「なんか黙々と、お札数えてそう」


「実際には触らせてもらえなかったけどな。代わりに帳簿の整理と、窓口対応のマニュアルを延々読まされた」

 八真人は淡々と答える。


「でも、黙々とやる作業は嫌いじゃない。それに――銀行強盗を撃退するシミュレーションなら、好成績だった」


「……え、なにそれ」


 政悟が一瞬きょとんとしたあと、吹き出す。


「イチくん、それもう職場実習の範囲を超えてるよ」


「で、お前は?」


「僕はホームセンターだったよ。いろいろな工具とか、ねじとか、便利グッズとかあって楽しかった。パートの人たちも、みんな親切だったし」


「まぁ、そうだろうな」

 ふっと口元が緩んだかに見えた八真人の顔を見て、政悟も微笑んだ。


 そのとき、廊下から足音が近づき、白いワイシャツにスラックス姿のイハラが姿を見せた。


「おい、そろそろ行くぞ」


「はい」

 外に出たイハラは、服装とは合っていないラフなスニーカーを履いていた。その姿が、どこから見ても『教師』にしか見えない。


「イハラさん、すっかり先生みたいですね」


 政悟が言うと、イハラは眼鏡を押し上げながら口をとがらせた。


「みたいじゃなくて、先生だ。ちゃんと先生と呼べ」

「はぁい、先生」


 政悟はどこか楽しげに返事をしながら、イハラの後ろにぴょこぴょことついていった。


 その背中を見送りながら、八真人も無言のまま歩き出す。


 職場実習――とは名ばかりの、緊張と探りの3日間が、静かに始まろうとしていた。

――――――――――――――――――

 建物の外観は、倉庫とオフィスを組み合わせたような中途半端な作りだった。隼斗と霞、そしてシンイチがいる建物とは、ほんの数10メートルの距離だ。


 倉庫の外壁には大きな企業ロゴと、「人に優しい暮らしを、あなたとともに」の標語が掲げられている。

 事務所のドアを静かに開くと、思わず政悟は一瞬、足を止めた。入口には観葉植物が配置され、壁紙は淡いベージュ。清掃が行き届いていて、ほこりひとつない。

 3人の姿を確認した受付の女性が笑顔で頭を下げ、澄んだ声で挨拶をくれる。


「職場実習の学生さんですよね。今日はよろしくお願いします。こちらへどうぞ」


 受付を抜けて案内されたのは、細く長い廊下。その先にグレーのドアがあり、3人は倉庫内に入った。倉庫内には軽作業場が広がっていた。作業姿のスタッフたちが、静かにパッケージに商品を詰めたり、伝票を貼ったりしている。

その一角に設けられた小さな応接スペースで、3人は短い面談を受けた。


「初日は見学が中心です。安全第一で、簡単な作業や雑用をお願いする予定です」


「はい、よろしくお願いします」


 イハラが頭を下げ、政悟と八真人もそれに倣った。


「なんか緊張しますね」

 ごまかすように笑いながら、政悟はふと横を見る。


 八真人はずっと無言で、資料の隅にメモを取り続けていた。


 この場所は確かに「会社」だった。だがその奥に、もっと深くて重い何かが、静かに横たわっている――そんな気配があった。


 作業場の見学を一通り終え、3人は休憩の時間を与えられた。


 休憩室で、政悟は出された紙コップの麦茶を手に、ぽつりとつぶやいた。

「……隼斗、大丈夫かなぁ?」


「隼斗さんがミスするとか、ありえないだろ。何が心配なんだ」

 八真人が首を傾げる。


「イチくん、わかってないなぁ」

 政悟は麦茶をぐるぐる回しながら、わずかに唇を尖らせた。


「あの人だよ、霞さん。隼斗が、女の人と一緒に任務なんて、できるのかなあって思って」


「ああ、なるほど」

 八真人がようやく合点がいったようにうなずいた。


「確かに、隼斗さんは女性というカテゴリに、過剰反応していたな。任務に支障が出る可能性は――」


「イチくん、支障って言っちゃってるよ……」


 政悟は思わず笑いながら、ふっと表情を緩めて続けた。


「いや、ほんとに。霞さんってたぶん、優しいけどちょっと怖いっていうか……」


「確かに心配だな」

 と、いつの間にか背後に立っていたイハラが静かに言った。


「そもそもあの二人は恋人を装って潜入するんだ。あの隼斗が……恋人、だぞ? まぁ、お前たちも気を抜くなよ。俺はこれで帰る予定になっている。近くで別作業をしているから、何かあればすぐに連絡しろ」


「はい」

 二人は顔を見合わせてしっかりと頷いた。


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