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「正義の境界」

どんなに凶悪な犯罪者でも、法律のもとでは守られる。

正式な逮捕状、適切な手続き、そして与えられる人権。

たとえ残虐な殺人を犯しても、逮捕されたその瞬間から「保護される側」になる。


――理屈ではわかる。

でも、本当にそれでいいのか。


 愛する家族を無惨に殺され、生き地獄のような毎日を送る遺族がいる。

 声を上げる力すら失いながら、それでも加害者の「反省」と「更生」に期待しろという。


 性犯罪や強盗などでも、被害者は一生癒えない心の傷を負うが、加害者の中には、出所後も何事もなかったかのように再犯を繰り返す者が確かに存在した。


 反省などしない者がいる。刑務所で三度の食事を与えられ、屋根のある部屋で眠り、出所すれば何事もなかったようにまた人を傷つける。

 厳罰化には「人権侵害だ」「加害者にも未来がある」と声をあげる者がいる。


 ――では、被害者には? もうその未来すら奪われているというのに。


そして、また誰かが泣き叫ぶ。壊される。人生を踏みにじられる。

変わらない法律、守られるべき命が守られない現実。


そんな中、一部の国民の中から『前科者による再犯は、簡単に市民生活の中へ戻した国の責任だ』という声が上がり始めた。誠実で真っ当に生きている人が苦しむ世の中になっている。再犯が予見されたにもかかわらず野放しにするのはおかしい。


だから、気づいた人たちがいたのだ。


「更生」を待つのでは遅すぎる。「被害を増やさない」ことこそ、真の正義だと。再犯率が上がれば社会的不安を高めるだけ。

そうして、TNTの任務は増えていった。


表には出せない。けれど確かに存在する、もうひとつの選択肢。


正義とは――誰のためにあるのか。

それを問い続ける者たちの、静かな戦いが始まった。


―――だが、対象者は罪を犯した人間だけではない―――


ある日、新しい任務があると招集がかかった日のこと。


任務内容は『密かにTNTを抜ける計画を立てている奴がいる。その人物の排除をしろ』というものだった。


一通り説明した和大は「俺は殺したくないんだが」と、言った。彼は犯罪者ではない。時間をかけて話せばわかってくれる。説得してうちの班に引き入れれば、命を落とすことはないとまで言い出した。


「彼は上からの任務を忠実に行っただけだ。それに、彼は元警察官なんだ。南雲誠四郎という名前もある。いわば仲間みたいなもんだろう?」


和大が付け加えると、空気が一瞬、固まった。


「南雲誠四郎……か」


隼斗が低く呟いたその声は、周囲にも聞こえた。彼は続ける。


「いや、どこの誰であれ、TNTの脅威になる存在は、排除するべきだろ。勝手な離脱や情報漏洩は処分対象になる――加入前に説明を受けたし、誓約書にもサインしたはずだ。あれは飾りじゃない。勝手に抜けた奴は、いずれもっと大きな問題を引き起こす。話せば分かるなんて、そんな甘さでやっていける場所じゃない」


隼斗は頑なに譲らなかった。譲れるはずがなかった。TNTの存在が世間に知られたらどうなるか。自分たちが、どれだけ命を削って任務を果たしているか。簡単に抜けられるようでは、自分たちの首を絞めるだけだ。


――TNTの誓約書。あの日、隼斗が自分の名前を書いた瞬間、すべてが変わった。もう後戻りはできないと、静かに腹を括った。兄の、あの時の静かな眼差しが、今も隼斗の脳裏に焼き付いている。


「……しかし、相手の言い分も聞かず、いきなり排除するのはな……」

和大の声は苦かった。


「班長が嫌なら、俺が排除する」

隼斗はまっすぐに言った。


和大は隼斗を見つめ、その場にいた政悟、イハラ、シンイチ、八真人は、ただ黙っていた。


『……わかった。班長命令だ。任務を遂行する。南雲誠四郎を……排除してくれ』


静寂を裂くように響いた和大の声は、かすかに震えていた。


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