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空の色は変化し続ける、ということだけが変化しない。~宵と暁の空~  作者: 来夢創雫
任務 「襲撃任務004:善悪の隙間 選ばれし者の島」
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「境界の空」

「隼斗はカズ兄さんより甘いかもしれませんね」

「何か言ったか?」

「いいえ、独り言です。あ、もうじき朝ですよ」


 政悟の視線の先では、東の空がわずかに色づきはじめていた。


 夜の帳が薄くなり、濃紺から群青、そしてかすかな白へと変わっていく。

長くて冷たい一夜が、ようやく終わろうとしていた。


「宵と暁って違うんですよね。この前イハラさんが教えてくれました。隼斗はどっちの空が好きですか?」


 夜明け前の風が、ふたりの間をすり抜けていった。隼斗は弟の横顔に目をやり、少しだけ息を吐いて口を開いた。


「おかしなコト聞くんじゃねぇよ。そんなもの変わらないだろうが。だいたい、イハラはいつも細かいこと言うよな。お前、あいつと話してて楽しいか?」


「楽しいですよ。イハラさんって博識で、いろいろと教えてくれるし。あ、もしかして、隼斗は宵と暁の違いが分からないんですか?」


 政悟は少しだけ口元を緩めたが、笑っているわけではなかった。遠くで鳥の声がひとつ、夜明けを告げるように響く。


「そんなわけないだろ。ええと、そうだ、俺が好きなのはこんな空だ。ほら、東の空が白みはじめているだろ。そしてあっという間に明るくなる。次第に明るくなる空を見ながら、昇ってくる太陽に望みをかける。俺の人生もきっと明るくなるだろう、ってな」


「へぇ、隼斗らしいですね。僕は、宵です。昼間の喧騒が過ぎ、じきに訪れる漆黒の闇に思いを馳せる時間が好きなんです。もしかしたら月が出ているかもしれない。星が見えるかもしれない。いや、何も見えなくてもそこには『何か』がある。なんて考えるんです」


「お前、変だぞ。いきなりどうした?」


 隼斗は眉をひそめながらも、どこかで政悟の言葉に引っかかっていた。ふだんの任務なら気にしないはずの違和感が、今回だけは消えない。


「相手が武器も待たない無抵抗な人間だときついですね。それも、ほとんどが子供だったし」


 政悟の言う通りだった。

 今回の相手は武器も持たない、それも政悟とさほど変わらない子供が多くいた。いつもは無表情な政悟が少しだけナーバスになっている―――そう隼人は思った。

 

 様々な任務をこなすにつれて、政悟は人を殺すことに慣れてきたように見えたが、そうではなかった。政悟の中では、悪とされる人間をのみを殺しているつもりだったのだ。


「ああ、二人ともここにいたのか。早くここから離れろってさ。さぁ、帰るぞ」


 シンイチが足音を忍ばせて近づきながら、いつもの軽い口調で声をかけてきた。けれど、その顔には笑みがなく、声色もどこか沈んでいた。


「死体を数えた時に、子供が二人足りなかったらしいな。海にでも落ちたのか」


 静まり返った空気が、ほかの班員の言葉をやけにくっきりと響かせる。


「どうやって海まで行ったんだよ。逃がした奴がいたのか?」

 誰ともなく、呟きが漏れる。


「だいたい、あいつらは何者だったんだ?」


 会話というよりは、自分たちに言い聞かせるように――。


「誰かが子供を逃がしたのか。まぁ、俺達には関係ない話だな。絶対に躊躇しない隼斗と、班の中で一番腕のいい政悟が仕留め損ねることはないから」


 皮肉にも聞こえるその言葉に、風が吹いた。葉が擦れる音が、微かに耳を撫でる。


「ええ、そうですね」


 隼斗が答えるよりも早く、政悟が淡々と応じた。けれどその声には、どこか乾いた響きがあった。


「でも、どうして子供まで殺さなきゃいけないんだ」

 シンイチが、ぽつりとこぼす。誰にともなく、ただ虚空に投げかけるように。


「俺たちは……何をやっているんだろうな」


 その問いに、隼斗も政悟も、何も言わなかった。


 沈黙が重く降り積もる。ただ遠く、カラスの鳴き声がひとつ、夜の帳に吸い込まれていった。


「今回のことは絶対に喋るな。同じ班の仲間にも、だ」


 任務終了の報告の前、繰り返し何度も念を押された言葉が、耳にこびりついて離れない。

 まるで真実というものに鍵をかけるように。記憶ごと、封じ込めるように。


 ――――――――――――


「三人ともご苦労だったな」


 家に戻った後、和大がねぎらいの声をかけた。

 その声は、いつものように朗らかだったが、三人の顔には疲れのような、何か言い知れぬものが滲んでいた。


「和兄さんは、宵と暁、どっちが好きですか?」

 不意に、政悟が口を開いた。

 その声は静かだったが、どこか熱を含んでいた。


「宵と暁? そうだなぁ……俺は、どんな空も好きだよ」


 和大は少し考えるように天井を仰いで、ゆっくり言葉を紡ぐ。


「灰色の雨雲に覆われた空も、入道雲がもくもくと広がる夏の空も、月の照らす夜空も、宵も、暁も。どれも必要なものだ。色々な人間がいるように、どんな空だって、ちゃんと意味がある。必要なものさ」


 その言葉を聞いた政悟は、ほんのわずかに唇の端を持ち上げた。


「和兄さんらしい答えですね」

 政悟の目が、ふと窓の外に向く。


 そこには、夜と朝のあいだ――まだ青とも白ともつかない、あの淡い空が広がっていた。

 宵と暁、そのはざま。

 そこに、今の自分たちがいるような気がした。


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