「影の集う島」
都市の外れにある、築50年の一軒家では、朝からにぎやかな声が聞こえていた。
ちゃぶ台には湯気の立つインスタントのカップスープと、焼けたばかりのトーストの香りが漂い、政悟が台所と居間の間をせわしなく動いていた。
「隼斗、ごみは分別してくださいって、前にも言いましたよね?」
「俺じゃねぇよ。なんで俺って決めつけるんだ? 和兄かもしれないだろ」
「和兄さんは昨日からいないでしょ。あと、これ可燃じゃないです。紙パックは洗ってから資源に」
政悟が手にしたのは、ジュースの空きパック。彼は紙パックをシンクに置き、ごみ袋の口をきゅっと結んで、勝手口へと足を運んだ。
そのとき──
「ただいまー」
玄関のドアが開き、和大とシンイチが入ってきた。
「お、朝から兄弟喧嘩か?」
シンイチが靴を脱ぎながら笑うと、隼斗が不貞腐れた顔で
「違ぇし。こっちは身に覚えのない容疑をかけられた被害者だ」
和大が苦笑しながら台所を覗き、「コーヒーあるか?」と聞く。
「入れてありますよ。インスタントですけど。シンイチさんの分も持って行ってください」
政悟が答える。
和大は軽く片手をあげて礼を言い、マグカップを二個もって居間に向かった。
「で? 朝からわざわざここに呼んだってことは、どうせ任務だろ」
和大から受け取ったコーヒーを一口すすってシンイチが聞いた。
「ああ、任務の話だ。今回の任務はシンイチと隼斗、政悟にお呼びがかかった」
「え、三人だけですか?」
政悟がわずかに眉を上げる。
「そう。あの訓練をパスした中でも特に銃の腕が立つ人間を選んだようだ。他のチームからも精鋭が集まるらしい。任務の内容は現地で説明するそうだから、任せたぞ」
「現地説明かよ。やばそうだな」
隼斗がため息をついた。
実際、銃器の扱いにおいて、班で最も腕が立つのは政悟だった。その次がシンイチ、続いて隼斗、八真人、イハラ。和大は体格を活かした近接戦闘が得意で、銃に関しては平均的だ。ただし、圧倒的なスタミナの持ち主で、敵も仲間も疲れ始める中、彼だけは衰えを見せなかった。
一方、政悟は射撃に関しては非の打ち所がないが、スタミナに課題があった。持久戦になると疲労が露骨に表れ、そのたびに仲間たちが自然と彼をフォローする形になる。
ただ、隼斗だけは違う。政悟に特別な配慮をせず、他の大人と同じように扱った。
――――――――――――――――――
数日後、
3人が指定された場所は瀬戸内海の小さな島だった。
そこには、全員で20数名程の精鋭が集められていた。これから行われる任務は別の島で行うが、深夜になるまでこの島で待機するよう告げられた。
「熊でも駆除するのか?」
「瀬戸内海に熊はいないだろう」
「じゃあイノシシか」
集まった面々の顔にはまだ余裕が見えて、軽口を叩きあっている。
「あれ? もしかして、一緒に訓練した人だよね?」
「うわー懐かしいな。久しぶり。あの訓練はきつかったなぁ。みんなどうしているんだろ」
「俺、川北さんには会ったよ。まだTNTで頑張ってるって」
「そっかー」
まるで同窓会のような会話をする者もいる。
そんな中……
「キミって噂の美少年?」
「確かに綺麗な顔をしているね」
「この外見で残忍に射殺するんだって? すごいギャップだな」
あれからいくつか合同で任務を行った。そのたびに、政悟は他のチームの班員から色物を見るような目で見られていた。本来、他の班員とは必要最低限のコミュニケーションしかとらない。だが、明らかに異質な政悟の容姿は注目の的だった。政悟は軽く俯き、肩をすくめた。からかわれることにも慣れてきたつもりだったが、やはり視線の重さは気になる。
そんな彼の前に隼斗がすっと立ち、軽く咳払いをして男たちの会話を遮った。
「まぁ、腕は確かですから」
隼斗が政悟を庇うように、男たちとの間に割って入る。




