閻魔様に泣かせないものなんてない
集められた約100人の編入生たちは各々静かにその場で試験官からの説明を聞いていた。
静かな会場を一瞥して試験官は今回の試験内容を発表する。
「それではまずグループの区分けを行います、発表するグループに移動してください。」
そうしてグループの発表がされた、グループは転生特典で決められており、身体チート組、魔法チート組、生産チート組、スローライフチート組、テイマーチート組、キャラチート組という6グループに分けられる。
編入生たちはそれに倣い、バラバラに別れていく。数の比率としては身体、魔法が多い感じか。他にはスローライフが少し多いって感じか。
私もそろそろグループに属そうかと考えていると隣にいたハクノから声がかかる。
「そういえば、君はどうゆう特典を選んだの?人の心を折る、精神操作系?」
「君って、、、そういえば名乗ってなかったな。私の名前はエンマよろしく。あと私は地獄の鬼じゃないんだから、変なものは選ぶかよ」
「よろしくね、エンマ君!地獄の鬼に合うと思うけどなぁ。でもそれじゃないって考えるとどんな特典なのか気になるなぁ〜」
どんな特典、どんな特典、あれ?私ってどんな特典に該当するの?閻魔大王としての力は使えるわけだから魔法?いやでもこれ魔力とかそうゆうので出してるわけじゃないから魔力を込めろとか言われたらめっちゃ困るし、、、、、
「ま、まさか特典なしですか?」
「い、いや、特典というか私ってガチの閻魔大王だからなんて特典に該当するのかさっぱりで」
「ん?閻魔大王?エンマ・・・あ、あぁ〜、、、うわ〜痛、、キャラになりきっているのきっつ〜」
閻魔大王と言ったらハクノが急に顔を引き攣り始め、体を先ほどより数センチ遠くに移動して引いている。
推しの体を借りて好き勝手やっているお前の方がよっぽどだろと言いたいが、グループ分けの時間が限られているため早くグループを決めなくてはならない。
「とりあえず、キャラチート組に入ればいいんじゃない?最悪後から変更することも出来るし。」
「まぁ、時間もないしもうそこでいいか」
そんなこんなで私とハクノはキャラチート組と呼ばれるグループに入ることになった。そこには15人ほどの人たちがおり、他のグループの人たちも美男美女がいたが、こちらの方が容姿は整っているものが多いだろう。
「すまない、遅れてしまった。」
「遅いですわよ、私だけではなく他のものの時間も奪っている自覚がおあり?」
そう言って扇子を私たちに向けてくる一人の少女は、煌びやかなドレスを身にまとい、金髪の美しい髪が特徴的な女の子だ。まるで絵本の中から飛び出してきたお嬢様って感じが雰囲気から出ている。遅れてしまったことに関してはこちらが一方的に悪いため頭を下げて謝罪する。
「すまない、これから気をつける。」
「ふん、どうですかね!あなたのようなドン臭い顔の方が約束を守れるとは思えませんが・・・」
そう言い放ちそっぽを向いて遠くの方へ行ってしまった彼女を見送りつつ、隣にいたハクノに耳打ちをする。
「なぁ、一般お嬢様も混じっているみたいだけど、どんなチートなんだあれ?」
「あれはですね、悪役令嬢転生です。ゲームにしろ、本にしろ、数々の女の子に夢を与えてきた題材によく出てくる主人公をいびるのが役割なんです。これから待っているひどい展開を回避して本来主人公が落とすはずだったヒーローたちを落とすのが一般ウケするんですよ」
「へー、でもあれじゃ展開を回避できないんじゃないか?悪役まんまだろ」
「確かに、あんまり悪役になりきる人いなんですけどねぇ・・・」
そんなことを話ししていると他の試験を終えた試験官が私たちのグループへやってくる。他のグループを見てみると皆合格をしたみたいで、流石は特典を貰っているだけはある。
「では、ここの試験を開始します。キャラチート組は非戦闘職の方も多いですから、戦闘系の技量は試験致しません」
そりゃ、そうか戦闘に自信があるキャラになっているのなら他のグループにでも行けばいいしな。
「試験内容は演技力を披露してもらいます。好きなキャラクターになっている以上、そのキャラの特徴、動き方などができなければいけません。」
試験内容を聞き私は固まる、演技と言われてもできる気がしない。そもそもキャラクターになりきっていないから演じるもクソもない。
・・・後少し恥ずかしいし
これは流石にと思い隣にいたハクノを見てみると自信満々なご様子で、今から演技の練習をしている。
「ちなみに今回私のチートスキル『キャラクター名鑑』を使い試験します。演技が終了次第、能力が判断して合格を言い渡します。それでは試験開始します」
試験開始から約1時間が経過した。これまで様々な人たちが試験を受けたが皆合格。本当にキャラになりきっていて素晴らしい演技をしていた。
「次、ハクノ・アルバート!」
「はい!私は『ダーリン私にキスをして❤️』というゲームに登場する幸薄白乃というキャラクターです!よろしくおねがいします!」
「はい、それではどうぞ」
あいつもとはサラリーマンだろ演技とかはできるのか?それも中身ただのおっさんなのだから女の子の演技なんかはできないと思うんだが・・・
そんな失礼なことを考えているとハクノの演技が始まる。ハクノは目を潤わせ、頬を赤く染めた。その白い髪の中に赤い顔がとても印象的で、ここにいる他の編入生達も皆ハクノに目が奪われる。その後試験管の方へ近づき耳元でそっと呟く
「わたしっ、、試験管のこと好きになっちゃった、、、この気持ち、受け取ってくれる?」
反応を伺うような、でもちょっと不安な、思いを伝えるのがやっとな気持ちに会場の全ての人が目を奪われハートを作り続々と倒れ込みビクンビクンしているカオスな空間が出来上がっていた。彼らの妄想の中で今ハクノからの好意を受け取っているのだろうか
私も少しはクラっときたが、すぐにこいつがオッサンなのだと思い出すとその反応をする気も起きなかった。
・・・さて、キャラクター名鑑の反応は・・・
『あぁ、俺もハクノのことが好きだ!俺とお付き合いしてください!!!』
合格のようだ、てかあの能力明確に意思が宿っていないか?
「にひひひ〜〜、合格したよ〜」
試験が終わりピースをしながらこちらの方へ向かってくるハクノ。自身に違わぬ演技力を見させてもらった。意外とこいつはできるやつなんじゃないか?
「ぐふっ、、、か、かわいい、、あ〜〜〜ハクノちゃんまじ結婚してぇ、、、あぁ〜この世界来てよかったぁ〜〜〜〜・・・っは!ゴホンでは次、エンマ!」
「頑張ってね!エンマ君!」
「まぁ、頑張ってくるよ」
よだれを垂らして恍惚な顔を晒している試験官に呼ばれて前にでる。
「エンマです。閻魔大王をやっていたので特典はないんですけど大丈夫ですか?」
「は?・・・・あぁ〜〜〜もしかしてそうゆう設定?・・・・・大丈夫ですよ。偶像的なものでもきちんと判定は出るので」
「・・・もういいです」
なんだろう誰も私が閻魔大王だと理解してくれない。もしかしてこのチートが跋扈する世界では私の名前を語っても、そうゆう名前を被っている転生者で済ませられてしまうのかもしれないな。
さて思考を切り替え演技のことに集中する。と言っても私自身閻魔大王としての演技なんて知りもしないので普段、悪人達に対して怒っていることをすればいいか・・・
エンマが俯き始めると突然世界に暗雲が立ちこめる、空気が重くなり始め、地面が揺れ始める。顔は赤くなり、髪は怒髪天を着くかの如く逆立ち始めた。その形相は誰もが地獄にいる鬼を彷彿とさせた。
「では、判決を言い渡す。・・・・・地獄行き!貴様は罪のない人々を傷つけすぎた、その罪許すまじ!よって貴様は地獄の獄卒達からその身を永遠に引き裂いてもらう!・・・・・・・・・・・・・・・・・って感じでどうですか?」
最後の言葉を皮切りに世界が元の状態に戻る。しかし世界が戻ったからと言ってここにいる人たちが元に戻ったわけではない。そこに広がるは阿鼻叫喚、地獄の王の気迫に当てられたもの達は皆、何かのトラウマを刺激されている。泣いて謝るものもいれば、全力で逃げようとしているものもいるくらいだ。ハクノや試験官を見てみると
「許してください部長、発注ミスをしたのは私の責任です。、、、え?責任を持って買い取れ?そんな無茶言わないでくださいよ!腕時計300本なんてどうしろっていうんですか!?」
「働かなくてごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、、、、、え?今すぐ出ていけ?そんな私お金ないよぅ、助けてよう!!!」
無心に何かに謝っている二人を見てしまい自分のやってしまったことのヤバさに気づいたエンマはそれはもうしょっぱい顔をしていた。すぐに気を取り戻さないと大惨事になると思ったエンマは耳に手を当てある人を呼ぶ。
「すいません、エンマです聞こえますか?」
『んほー、やっぱりチートキャラが無双する話は痛快じゃわい。あとヒロインが可愛くて、ちょっとエッチなのがええんじゃのぅ〜ほほほぉ〜』
「最高神様!最高神様!」
『なんじゃい!こんなええ時にぃ!・・・って閻魔かどうしたんじゃ珍しいのお前が神様通信を使ってくるなんて」
「ええちょっと大惨事になってしまいまして・・・・・」
『なうほどのぅ、お前にしては珍しい失敗じゃな』
「はい、なのでどうせ暇している最高神様にどうにかしてほしくて」
『暇って、お前儂そんなに暇じゃないんじゃぞ』
「さっきラノベ読んでましたよね?」
『なんじゃ!なんじゃ!ちょっとした休憩をするのも許されんのか儂は!そうかいそうかいどうせ皆んな儂のことは仕事でしか見てないんじゃね!儂の気持ちとか皆んな無視するんだ、へーそう、そうゆうことなら儂もこれから馬車馬の如く働くから!仕事中の儂のかわいいユーモアも聞けない厳しい職場になるけどいいんだ!』
「はい、むしろイライラする話を聞かなくて済みます。なので早くしてください」
『イ、イライラってお前、天使ちゃん達には結構人気なんだよ?』
「いえ、むしろ息が臭いから話しかけないで欲しいって愚痴ってましたよ」
『う、う、う、うわ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!み、皆んな嫌いなんじゃ〜〜〜〜〜!』
ブツン、と汚い泣き声を最後に神様通信が切れる。そうすると同時に空から大量の雨が降ってくる。雨が全ての人の気持ちを洗い流しこの場をリセットする。しかしこの雨少ししょっぱい気がするのは気のせいだろうか?
最高神様がこの場の様子を見て慈悲深い涙を流してくれたおかげでこの場の全員狂気に飲まれずにすみ、全員が気を取り戻すのに数分がかかった。
「で、結局合格なのかい?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。え、えっと・・・・こ、これは!」
『合格にするんで地獄行き勘弁してもらってもいいですか?』
「ご、合格です」
「良かったですね!エンマ君!一緒の学園に通えますよ!これからよろしうお願いしますね!」
「ふっ、あぁよろしく頼む」
そう言って今日の出来事は終了した。明日は学園の入学式早く家に帰って支度をしないとな
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