閻魔様過労死して異世界転生をする。
ここは地獄の入り口、死者にとって最後の審判を下し今後の自分の身の振り分けをされる場所。ここにいる人たちはすでに数々の審判を受けてこの場所に立っている。ここにいる人間の魂の数は約300万、ここにくるまでの間もっととんでもない数があったはずだがその数は他の神の審判によって数を減らしてきた。
ここは閻魔の館すでに死後28日が経過して5番目の裁判が行われる場所である。
そこには血で染められた色をした着物を着た男が机に肘をつけながら人魂に向かって話しかけている。
「では、貴様は女を騙すつもりではなかったというんだな?」
「はい!私はあいつを愛していました。しかしどうしても仕事の都合で別れるしかなかったんです!」
男がため息混じりにそう聞くと人魂がそう言って否定する。その否定の言葉を聞くと机に座っていた男がプルプルと震え出して顔を真っ赤にしている。それに呼応するかの如く突然地面が大きく揺れ始める。
「嘘をつくんじゃぁないっ!」
ばぁん!と大きい音を立て机を叩く。叩いた衝撃で机が手のひらの形に凹んでしまっている。
「私はずっと見ていたぞ!貴様が金を欲しさに女を騙しているのを!見よ、これがその証拠だ!」
男の言葉に反応して近くにあった鏡が映像を映し出す。そこには生前の見覚えのある光景が広がっていた。
『へへっ、バカな女を騙すのは簡単で助かるぜ。ちょっと困った顔をすればすぐに金を出す。こんな調子なら、夢のマイホームまでの貯金もすぐに貯まっちゃうなぁ〜w』
その光景には人魂も覚えがあったのか見るからに狼狽えている様子が見られている。
「貴様は!私だけでなく、数多くの女にも嘘をつき金を騙し取っていたな!そんな嘘をつく舌はこうしてやるっ!」
そう言うと男は徐に人魂の方に手を伸ばして、まるで何かを掴むような動作をする。すると人魂から舌が飛び出し、限界まで引き延ばされた後引きちぎられてしまった。
「〜〜〜〜っ!〜〜〜〜〜!」
舌がなくなったからなのかは先ほどまでの嘘をつくような言葉は聞こえなくなり、身悶えている人魂。そこに最後の審判が下る。
「貴様のような奴は変成王の前に私が裁いてやるっ!貴様は地獄行き!大叫喚地獄へ行き地獄の獄卒たちにその身を打たれてもらえ!」
そう言い放つと人魂がいる床が抜け落ちていく、その先は本物の地獄。この人魂はこれから指定された地獄に落ちて死ぬほど辛い刑罰を食らうことになるだろう。
人魂がいなくなり、そこには男しかいなくなる。
ふーっ、と一息をついて伸びをしている。
「つっかれたぁ〜。ここ最近死者の数が多すぎて困っちゃうよなぁ。あんまり休めていないし。」
そんな言葉を吐いていると、横にある垂れ幕から女性の鬼が現れる。
「お疲れ様です、閻魔様。少しお休みになられては?かれこれ300時間は働き詰めですし。」
「いやぁ〜、後もうちょっとだけ頑張るよ。結構ここにきてから審判を待ってくれているものもいるみたいだし」
「そうですか。ですが、何かあればすぐにお呼びください。」
「おう!ありがとう。」
そう言ってすぐに次の審判の準備をする。
・・・少し眠たいなぁ。いかんいかん自分は閻魔なのだからシャッキとせねば。
そう言って次の仕事に取り掛かろうとして、思考を切り替えようとした時に視線が変わっていることに気がつく。
あれ?もしかしてヤバいのでは?
閻魔様っ!?・・・・えん・・ま・!
そう言って自分の体が倒れ込むのを認識しながら、だんだんと意識が深い暗闇へと落ちていく。
「で、見てもらった通りお主、過労死で死んだんじゃ。」
「は?」
そう言って水鏡に映った死ぬ瞬間の自分を見ても全く理解することができなかった。
ちなみにこの水鏡で私の最後を見せてくれている老人は、最高神様。いろいろファンキーな方で様々な場所や人の前に出てはその力を振るうものだから数多くの呼び名がありすぎる為、わかりづらいから私たち神は最高神様と言っている。
「いやぁ〜、数多くの神話で神って死んできたけど、儂初めてじゃよ過労死で神が死ぬ瞬間を見るの。
ってか神が過労死とか、ちょーウケるんですけど!」
「いえ、全くウケないです。そんな神の死でゲラゲラ笑わないで、いいから早く私を生き返らせてくださいよ。」
「いや、無理じゃぞ?」
行き帰りの催促をしたら、急に真面目になり、真剣な面持ちで話し始める。
今まで最高神様のそんな真面目な顔を誰も見たことがない。私たちの知っているこのお人はいつもニタニタとタチの悪い笑みを浮かべながら、女性天使のケツを揉みしだいたり、人間の前に降臨したかと思えば碌でもないことを言って戦争の火種を投下したり、その後始末を他の神がやっている中一人で茶をしばきながらお茶菓子を頬張っているお人だ。
そんなお人がこんな顔をするなんて・・・・
「いや、そんな下らない事言ってないでさっさと生き返らせてくださいよ。さぁ!はよ!」
「いだだだだだ!!!!髭を引っ張るな、髭を!わしのキュートでプリチーなお髭になんてことをするんじゃ!」
「なにがキュートでプリチーですか、小汚い箒みたいなものでしょう。さぁ早く戻してください、仕事が溜まっているんですから。」
「いちちちち、酷い事するのぉ〜。だから無理じゃっていってるじゃろう!もうお主死んでしまっているから無理なの!」
「・・・・・・・・・・・・ガチ?」
「ガチ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ほんと?」
「本当」
「うそうそうそうそうそうそうそうそ」
「ほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんと」
膝から力が抜けていくのを感じる、立っていられない。視界がぐにゃぐにゃと歪んでいくのを実感する。さっきまでのアホなやりとりとは打って変わって閻魔の顔は青ざめている。
そんな様子を見ても最高神は説明を続ける。
「おわった・・・・がちでしんでんじゃん・・・」
「死んでしまったものは生き返ることは出来ない。これは神であっても同じこと。人間界で死ねば神として天界に送還されるだけなんじゃが、天界で死んでしまってはのぅ。そうすることもできんのじゃ」
「・・・そうしたら私はこれから、魂だけとなって審判されるんですね。・・・ふふっ、閻魔大王が地獄の審判を受けるなんてとんだブラックジョークですね」
「他の十王もビビるじゃろうな。まさかかつての同僚の審判するとは。・・・まぁ、そう悲観するな。実はな生き返る術がないことはないんじゃ。」
「・・・そんなことがあるんですか?」
まぁ、座れと最高神の言葉に従いその場に座る。いつの間にかこの場にはちゃぶ台とお茶、お饅頭が出てきている。二人で茶をしばきつつ話は始まる。
「お主も知っておるじゃろう、最近の人間の死者が多いことを」
「そりゃ、過労死になるまで見てますもん知ってますよ」
「実はの今わしの管轄する世界で一つ問題が起こっとてな、転生者って知っとる?」
「あぁ、知っていますよ。別の次元の魂を他の世界に送り出すことですねよ?」
「そうそうそれそれ、それでな、その転生者がその世界で色々と悪さをしてるんじゃよ」
「へー、だから最近死者の数が多かったんですね。」
転生者制度。数百年前から始まったこの制度は最高神様のお言葉から始まった。なんでも素晴らしい人間讃歌が見たいと言っていた為に出来た制度である。ーーーーーーちなみに私はその時最高神様の後ろの本棚に数々の人間界から取り寄せた本があるのを見逃さなかったーーーー
また、この制度は色々条件があり、まず管轄する世界の神は、その世界に転生者を送ることができない。これはその世界で起こっている問題を解決させるために、その世界の神が色々なチートを持たせてしまうためであり、世界のバランスの崩壊を防ぐためでもある。他にも、送り込んだ神はその転生者に干渉することが出来ないなどがある。神様wikiから抜粋
神によっても転生者を選ぶ時に適当だったりするからなぁ。他の世界に送りつけるのは良いが、何か問題が起こった時にその神では対処するのが出来ないから結局仕事が増えるだけじゃないかと問題視されてたっけ。だからこの転生者制度って奴は地獄組からも反対意見を出したんだよなぁ。
「ん?でも他の神が送りつけたのなら、最高神様が降臨すれば良いじゃないですか」
その当たり前の疑問をぶつけてみると、最高神様の顔がどんどんと脂汗まみれになっている。目は左右に泳ぎすぎて、もはや見えないくらいに往復しているし、持っている茶碗もガクガクに震えてお茶がびちゃびちゃと自分にかかっている。
「まさか・・・!送ったんですか!?自分の世界に!?」
「だだだだだ、って、最強キャラがいっぱい無双するところみたいじゃん!でも送られてくるのはやれ、身の丈にあった能力だの、スローライフを楽しみたいだのあんまりパッとしないやつばっかなんじゃもん!だからめっちゃ強いやつを送りまくって楽しんどっただけじゃ!儂は悪くない!パッとしない人間を送ってくる他の神が悪い!」
「こんの、くそじじぃ〜!いっつも面倒ごとばっかり起こしやがって。歩く災害じゃねぇか!」
「いだだだだだだ、眉毛を引きちぎろうとするんでないっ!なぁ〜頼むよ〜、他の神にバレたら折檻なんてもんじゃないくらい怒られるのじゃ〜、お労しい老人を助けると思ってさ!儂の世界を良くしてくれたらなんとかお主も生き返らせてやるから、なっ!悪い話ではないだろう?」
私の足元にしがみついてくる、ゴミクズジジィを見る。涙をうるうるとさせているが全くもって可哀想だとは思えない。むしろ他の奴らにバレて仕舞えば良いと思っている。しかし私もこのままだと生き返ることが出来ない。
初めから答えが決まってしまっているな、これ
「わかりましたよ、やれば良いんでしょ。ただし問題を解決した暁にはしっかりと生き返らせてもらいますからね」
「おぉー!やってくれるか!うんうん、もちろん生き返らすとこの最高神約束しよう。ではでは、早速送り出す準備をするからのそこで立っておれ。」
そういって最高神は転生の準備をし始める。足元には光が漏れている召喚陣が構築されており、他の世界と繋がり始めているのがわかる。
約束するっていうけど散々やらかしまくっているからか、あんまり信用できなぇな、このジジィ
「そういえば、問題解決って何すれば良いんですか?」
「ん〜まぁ簡単じゃよ。その世界で猛威を振るっているある転生者を倒して欲しい、その転生者の名前は『 』じゃ」
突然最高神様の声にノイズが走る。まるで何者かから妨害されているかの如くその転生者の声を聞くことが出来ない。最高神様はそのことに気がついていない様子で魔法陣の続きを始めている。
なんとかこのことを伝えようと声を出そうとすると声が出ないことに気がつく、なんとか伝えようともがいていると、足元にあった魔法陣から強い光が放たれ始める。閻魔は魔法陣を見てみるとすでに次の転生の体へと吸い込まれ始めている。最後の力を振り絞って声を出そうとして最高神様の元を見てみると、すでにこちらの事は興味がないようで横になってテレビを見ながらケツを掻いている。
「それじゃ〜第2の人生、いや神生?を楽しむんじゃぞー」
そう言って手を振る最高神を最後に閻魔は最大の力を振り絞り
「ふざけんなよ!クソハゲジジィィィィィィィィィ・・・・・・・・・」
その言葉を最後に閻魔大王は異世界へ吸い込まれるように落ちていった。
次回の投稿はまだ未定ですが、割とすぐに出すような気がします。お楽しみにしていてください!