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第18話 シェアハウスの女子力バランス

アヤネが暮らすシェアハウス「陽だまりの家」は、築50年の古い一軒家をリノベーションしたものだ。リビングにはいつも誰かしらがいて、会話と笑い声が絶えない。住人は個性豊かで、それぞれ異なる輝きを持つ女性たちだった。


朝が弱いデザイナーのマイは、締め切りが迫るとリストバンドが薄いグレーになるが、新しいアイデアが生まれると、一転して鮮やかなシトラスイエローに輝く。いつも笑顔で料理が上手な保育士のメグミは、子供たちの笑顔に接している時、リストバンドが柔らかいマゼンタ色に光り、家中に温かいエネルギーを供給している。そして、アヤネはというと、自分のリストバンドがどう光るのか、いまいちよく分からなかった。平均的な発電量で、特に目立つ色でもない。それが彼女の少しばかりの悩みだった。


ある日のこと、リビングの電力が突然不安定になった。照明がちらつき、電子レンジの動きも鈍い。メグミが心配そうにリストバンドを見ると、いつも穏やかなマゼンタ色が、今日は少し疲れたようにくすんでいる。


「あれ? 私、今朝もたっぷり寝たはずなのに……」


マイも自分のリストバンドを見て、ため息をついた。


「もう! 私のリストバンド、全然発電してくれない。締め切り前でピリピリしてるからかなぁ」


部屋全体の電力が低下していることに、アヤネはすぐに気づいた。この家は、住人たちの女子力発電で電力を賄っている。誰かの女子力が落ちると、全体に影響が出るのだ。


その日の夕食時、メグミは元気がなく、食欲もあまりないようだった。いつもならみんなを笑顔にする彼女の手料理も、今日はどこか控えめだ。マイもまた、デザインのアイデアが浮かばずに焦っている様子で、リビング全体にどこか重い空気が漂っていた。


アヤネはメグミの分厚い絵本や、マイの散らかったデザイン画をちらりと見た。メグミはいつも子供たちのために絵本の読み聞かせの練習を熱心にしているし、マイも夜遅くまでデザインと格闘している。みんな、それぞれの場所で頑張っているのに、なぜだろう?


その夜、アヤネはこっそりメグミの部屋を訪れた。メグミはベッドに横になり、リストバンドをじっと見つめていた。


「メグミさん、疲れてるの?」

「ううん、そういうわけじゃないんだけど……なんか、最近、これでいいのかなって思っちゃって。子供たちと接するのは楽しいけど、私、本当にちゃんとできてるのかなって」


メグミのリストバンドは、さらに光を失っていた。それは疲労ではなく、自己肯定感の低下からくるものだった。


翌日、アヤネはキッチンで何かを始めた。慣れない手つきだが、みんなが好きなメグミのレシピ本を広げ、材料を並べていく。マイがリビングでぼんやりとスマホを見ていた時、キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた。


「アヤネちゃん、何作ってるの?」


マイが覗き込むと、アヤネは少し照れながら答えた。


「メグミさんが疲れてるみたいだから、何か温かいもの、作ってあげようと思って。これ、メグミさんの得意なスープです」


アヤネはマイに、メグミが最近描いたという絵本を指差した。


「マイさん、これ見てください。メグミさんの絵、すっごく可愛いですよね。子どもたち、絶対喜ぶのに、メグミさん、これでいいのかなって悩んでるみたいで」


マイは絵本を手に取り、ページをめくった。確かに、メグミの絵は温かく、子供たちの笑顔が目に浮かぶようだ。マイのリストバンドが、僅かに色を取り戻した。

その日の夕食は、アヤネが作った温かいスープと、メグミが少し元気を出して作ったサラダが並んだ。食卓を囲む中で、アヤネはそっと提案した。


「ねえ、マイさん、今度メグミさんの絵本、デザイン手伝ってあげない? マイさんのデザイン、きっともっと素敵になるよ!」

「え? 私が?」


マイは驚いた顔をしたが、絵本を見つめるその瞳には、少しずつ好奇の光が宿っていた。そして、アヤネはメグミに向かって言った。


「メグミさんの絵本、私、子どもたちに読み聞かせしたいな。メグミさんの優しい声で読み聞かせしたら、きっとみんな、もっと笑顔になるよ!」


メグミは、アヤネの言葉にハッと顔を上げた。彼女のリストバンドに、ゆっくりと、しかし確実にマゼンタ色の光が戻り始めた。それは、誰かのために頑張ることではなく、**「誰かに必要とされている」**という温かい感情から生まれる光だった。


その夜、陽だまりの家の電力は、かつてないほど安定していた。リビングの照明は明るく、電子レンジも快調に動いている。アヤネのリストバンドは、相変わらず特別に目立つ光を放っているわけではない。しかし、その光は、他の住人たちの多様な輝きを、優しく包み込み、そして繋ぎ止めている、まるでハブのような役割を果たしているように見えた。


アヤネは、自分の女子力が「誰かを輝かせ、繋がりを生み出す力」なのだと、この日初めて理解した。特別な才能や派手な輝きがなくても、それぞれの個性を尊重し、支え合うことで、家全体の女子力は無限に広がっていく。シェアハウスの「陽だまり」は、一人一人の小さな光が集まって、大きな温かさを作り出す場所だった。雨上がりの空が、少しだけ明るく見えた。

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