表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

第1話 恋のボルテージ

夕焼けが校舎をオレンジ色に染める帰り道、高校二年生のユイは隣を歩く親友のサクラに言った。


「ねえ、知ってる? 私たちの生活を支える、大切なエネルギーのこと」


サクラはイヤホンで音楽を聴きながら、生返事をする。


「んー? ああ、女子力発電のこと?」


ユイは少し驚いた。


「え、サクラもそんな言い方するんだ?」


サクラは片方のイヤホンを外し、当たり前でしょう? という顔でユイを見た。


「だって、そうでしょ? 女性の魅力が上がるとエネルギーが発生するって。小さい頃から教わるじゃない」


「うん、そうだけど……改めて考えると、なんだか不思議だなって」


ユイは自分の胸に手を当てて、少し頬を赤らめた。


「可愛いって褒められた時とか、好きな人にドキドキした時とかに、あのエネルギーが生まれるんだもんね」


「そうそう。そして、そのエネルギーをこのリストバンドが電力に変えてくれる」


サクラは自分の左手首につけた、シンプルな銀色のリストバンドを見せた。ユイも同じものをつけている。


「スマホの充電も、家の電気も、元は私たちの女子力なんだから」


「本当にすごい仕組みだよね」


ユイは感心したように頷いた。


「女子力が上がる時と下がる時の落差が大きいほど、たくさんの電力が生まれるって言うし」


その時、二人の前を、バスケ部のエースでユイが密かに想いを寄せているカイトが、汗を拭きながら通り過ぎた。


ユイは思わず息を呑んだ。カイトはユイに気づき、にこりと微笑んで手を振ってくれた。


「あっ……!」


ユイの顔は一瞬で真っ赤になり、心臓がドキドキと音を立てた。すると、彼女のリストバンドの小さなランプが、チカチカといつもより速く点滅した。


「ほら見て!」


ユイは興奮気味に自分のリストバンドをサクラに見せた。


「やっぱり、カイトくんを見ると、いつもより発電量が多い気がする!」


サクラはクスッと笑った。


「恋の力は偉大ってことね。カイトくんは、ユイにとって最高の発電機なのかも」




別の日、放課後の公園のベンチで、ユイは少し困っていた。いつも持ち歩いている音楽プレイヤーのバッテリーが、完全に切れてしまったのだ。


「あーあ、また充電忘れちゃった……」


女子力発電が当たり前の今でも、たまにこういうことがあるのだ。


そこに通りかかったのは、偶然にもカイトだった。彼は自主練の帰りらしく、少し息を切らせている。


「どうしたの、ユイ?」


カイトが自然な様子で声をかけてくれた。


「あ、カイトくん……実は、音楽プレイヤーの充電が切れちゃって」


「そうなんだ。何か聞きたい音楽でもあった?」


ユイは少し迷ったが、勇気を出して言った。


「うん、カイトくんのおすすめのバンドの曲、すごく気になってて」


カイトは嬉しそうに笑った。


「そうなんだ! よかったら、僕のイヤホンで一緒に聴く?」


ユイの心臓はまたドキドキと高鳴った。カイトが差し出したイヤホンの片方をそっと受け取る。二人は肩を寄せ合い、カイトの音楽プレイヤーから流れるアップテンポな音楽に耳を傾けた。


ユイはカイトの横顔を見つめた。優しい笑顔、時折聞こえる息遣い、共有している音楽……その全てが、ユイの胸に温かい感情を灯していく。リストバンドのランプは、先ほどよりもさらに明るく、安定して点滅していた。日常的に意識することはないけれど、確かに自分の女子力がエネルギーに変わっているのを感じる。


しばらく音楽を聴いた後、カイトがふとユイのリストバンドに目を留めた。


「ユイのリストバンド、今日はいつもより明るいね」


ユイは少し恥ずかしそうに笑った。


「そうかな? カイトくんといると、なんだか少し嬉しいから」


カイトは少し驚いた顔をした後、照れたように目を逸らした。


「僕も、ユイとこうしてると、なんだか落ち着くんだ」


その時、ユイはふと思いついた。


「そうだ!」


彼女は自分の音楽プレイヤーを取り出し、カイトに向き直った。


「カイトくん、ちょっとお願いがあるんだけど……目を瞑ってもらってもいいかな?」


カイトは不思議そうな顔をしたが、素直に目を閉じた。


「いいけど……どうしたの?」


ユイは深呼吸を一つして、ドキドキしながら自分の顔をカイトの顔にゆっくりと近づけた。彼の温かい息遣いが、すぐそこに感じられる。ユイの心臓はどんどん高鳴り、リストバンドのランプは眩しいほどに輝き始めた。


「あのね……私の女子力で溜まった電力を、ちょっとだけ音楽プレイヤーに分けてもらいたくて……」


ユイは恥ずかしそうな声で言った。


「カイトくんと二人で一緒に音楽を聴いた記念に」


カイトは目を瞑ったまま、少し驚いた気配がした。


「なるほどね……ユイらしい発想だ」


ユイはさらに顔を近づけ、自分のリストバンドを音楽プレイヤーの充電ポートにそっと重ね合わせた。直接的な接触はないものの、 最高潮に高まった彼女の女子力エネルギーが、目に見えない流れとなって音楽プレイヤーへと注ぎ込まれていくような感覚があった。


しばらくすると、音楽プレイヤーの電源ランプが、微かに点灯した。


「あっ! 点いた!」


ユイは思わず歓声を上げた。顔を離すと、カイトはゆっくりと目を開けた。


「本当に充電できたみたいだね」


カイトは驚きと温かさが混ざったような笑顔を見せた。


「すごいな、ユイは」


ユイは照れながらも嬉しかった。


「ありがとう、カイトくん」


二人は再びイヤホンを分け合い、今度はユイの音楽プレイヤーから流れる音楽を一緒に聴いた。さっきよりも少しだけ音量が小さいけれど、二人の間には、言葉にできない温かさが満ちていた。


充電された音楽プレイヤーから再び流れるメロディーは、二人だけの秘密の合図のように、公園を二人の世界に置き換えた。それは、恋する女の子の勇気と、それを受け止める男の子の優しさが、日常にささやかな魔法をかけた瞬間だった。


ユイは思った。女子力発電は、私たちの生活に欠かせないもの。そして、そのエネルギーを生み出す特別な感情は、きっと、もっと温かくて、大切なものなんだ――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ