私が好きなのは君だよ
年齢は大学生くらいかなーとざっくりしてます。深く考えずにお読みください
好きな人からナイフを手渡された。刃渡り十二センチくらいの鈍く銀色に光る果物ナイフ。
「これでキミの好きな人殺してきて」
語尾にハートがつきそうな程甘ったるい声で、全然甘ったるくないことを言われる。
こんな刃渡りの小さなナイフで人を殺せるんだろうかとか、そうなると私はあなたを殺すことになるんだけどとか、色々思ったけどあまりの事態に上手く言葉が出せない。
「じゃないと俺、キミのこと監禁してどこにも行けないようにしないといけなくなるんだ」
悲しそうに言っているけど、彼の瞳は笑ってた。何がそんなに愉しいのか。きっと彼にとってはどっちでもいいのだろう。私が好きな人を殺してくるのでも、彼が私を監禁して閉じ込めるのでも。
私にとってはどちらでも良くないのだけど。
っていうか、私の好意全然伝わってなかったんだなぁと同級生でもある彼を見つめながらぼんやりと淋しくなる。
「出来ない? なら、代わりに俺が殺してくるから相手を教えてくれる? どんなにキミのことを調べても付け回しても誰かまったくわからないんだ。キミの周りの男は俺くらいしかいなくてさ」
いや、そこまでわかっててなんでその相手が自分だって気づかないのかな。彼は頭も良くて感情の機微にも敏感だし目端が効くタイプの人間なのに。私は思わずじーっと彼の顔を見ながら首を傾げてしまう。
目がふたつ、鼻がひとつ、口もひとつ。みんな同じパーツを持っているのに形と配置が違うだけでこんなに奇跡みたいな造りをしてる。でも信じられないくらい鈍い。
「あなたの願いは何でも叶えてあげたいと思ってるけど、それは私には叶えられないよ」
なんだかその瞳を見てる内に意地悪がしたくなって、そんな思わせぶりなことを言ってみる。きっと彼は勘違いを加速させるだろう。思い余ってそのナイフを私に向けるかもしれない。
危険な思考回路を持つ人を煽るなんて私も大概正気じゃない。
「っ、どうして……! その男がそんなに好きなのか」
苦しそうに胸元を抑えて彼は吐き出した。うん、大好きだよって言えばきっと簡単に解決する。言ってみようかな。
「うん、大好きだよ」
「そんな……!」
私がふっと笑いながら言うと見蕩れるみたいな仕草をした彼が悲しげに吐息を漏らす。あー、全然きづいてないね、これ。まさか自分だなんて思いもしてない。一応ちゃんとアピールしてたんだけどな。彼のために料理の特訓をしてお昼ご飯のお弁当作ってみたり、慣れないながらに上目遣いで甘えてみたり。男の友人も作らなかったのに。まあ元々いなかったけど。
「……そいつのどこが好きなの」
そんな自虐的なこと聞いちゃうなんてこの人、案外ドMなのかな。私は軽くSっぽい人が好きなんだけど。まあ彼の好みがそうならばちょっと頑張ってみるのもやぶさかでは無い。
どこが好き、かあ。全部って言ってしまえば手抜き感があるけど、事実全部好き。勘違いしいなところもどうしてか妙なところで自分に自信がないところも。かわいい。こんな私に好かれちゃってかわいそう。
「頭のいいところ、かな」
彼の機転の良さとか、もちろん単純に勉強ができるところも尊敬してるし、言葉選びとか、本当に些細な部分だけど私の癖をくすぐる。そういうところから私は少しずつ彼のことが好きになっていた。まさか好きな人を殺してこいって言っちゃうほど病んでるとは知らなかったけど。
「俺も、頭はいい方だよ?」
「知ってるよ」
だって君のことだもんね。当然当てはまるに決まってる。ふふ。なんかちょっとおかしくなってきた。
「なに、その顔、そいつのこと思い出してるの? その顔は俺といる時だけ見せてくれると思ってたのに……!」
え? ああ、まあ、そうだね。あなたといて、あなたのことを考えてるからね。間違ってない。こんなに敏いのになぁ。なんでだろう。その憎くて憎くてたまらないと思ってそうな男が自分だってことに気づかないのは。
「君がどうしても言わないっていうなら俺、君を殺して自殺する」
あららら。発想がどんどん過激になってしまう。いやそれ以前からかなり過激ではあったけど。
「監禁するんじゃなかったの?」
「俺は……、君の心も欲しい。だから監禁するだけじゃ満たされない。だったらいっそ一緒に死んで生まれ変わろう。今度は双子がいい。生まれてから死ぬまでずっっと一緒だ」
ゆりかごから墓場まで、か。ちょっとそれも素敵だなって思ったけど、生まれ変わる保証はどこにもないし、全然現世で両想いなので死ぬ必要がない。双子じゃ結婚出来ないし。血の繋がりが欲しいのかな?
「ダメだよ。あなたは将来ある若者なんだから」
そもそも私は今のあなたが好きなわけだし。やっぱり生まれ変わりは却下だな。双子じゃ愛を貫くのも大変な問題だ。今の方がハードルはかなり低い。
「君のいない人生に価値なんてない」
あ。
……ん?
「刺さってないよ?」
私の手から簡単にナイフを奪い取ると(力が入ってなかったので当然ではある)彼は私の胸元に突き刺そうとして、手が震えている。
いや、まあ刺されたい訳では無いけど。好きな人に付けられた傷ってのもまあ、記念になるかな。とか思ってたら彼の手からぽろりとナイフが落ちる。そのまま膝から崩れ落ちた。
「こ、殺せるはず、ないだろ……君が好きで好きで、何よりも大切にしたいんだから、殺せるわけない……」
彼の目からぽたぽたと大粒の涙が溢れる。ばかだなぁ。もう。
一応危ないのでナイフを遠くに蹴飛ばして、彼の打ちひしがれた頭を抱きしめた。こんなに追い詰めるつもりはなかった。本当に。
「私が好きなのは君だよ」
「は……?」
「調べても調べても他の男が出てくるわけないでしょ。あなたが好きなんだから。どうして調べ尽くしてその結論にならなかったの。ちょっと悔しくて意地悪しちゃったじゃん」
「は。……マジで、言ってる?」
「うん」
「俺、君に酷いこと、言ったし、したのに」
「ばかだなぁって思ってたよ。でもごめんね、私も酷いことした。あんまり思い詰めちゃダメって前から言ってるのに」
「で、でも、信じられない、どうして……」
「難しいこと聞かないでよ。好きなんだから好きなんだよ。それじゃ、ダメかな」
「俺、マジで一生離さないよ? キミが死んだら俺も死ぬ」
「重いなぁ。でも他に好きな人作って欲しくないしそれもちょっと嬉しいって思ったって言ったら怒られちゃうかな」
「ほんとに、俺のこと、すきなの」
「うん。大好きだよ」
「も、もしかして、さっきのも俺に言ってた?!」
「そうだよ。おばか」
「愛してる愛してる愛してる」
「うふふふ、うん。私も愛してる。ごめんね意地悪しちゃって」
「いい、キミが俺のものになるならそれで」
「あなたも私のものだよ。誰にもあげない」
「……う、うん!」
「かわいいね。涙目で」
「せ、籍入れに行こう」
「え? いいの?」
「いいに決まってる!!!」
「うん。……そしたらおうちでいちゃいちゃしたいな」
「そ、それって……」
「……言わせるの?」
「ご、ごめん。わかった。じゃあ早く行こ。我慢できなくなる前に」
「うん」
こういうの破れ鍋に綴じ蓋っていうのかな? 何はともあれ丸く収まったってことでこれもひとつのハッピーエンドということでいいんじゃないでしょうか。
真っ赤になって焦ってる彼の横顔を見ながらは私はひっそりと微笑んだ。
お読みくださりありがとうございました。
後書きと言えば、作品には関係ない上、ただの個人的興味なんですが、☆評価下さいってあとがきに書くのってあれどのくらいの効果があるんですかね?
私個人としては評価はあったら嬉しいな、とは思ってるんですけど、無くてもまあ読者の自由だしなとも思ってますが。
ああ、でもいっちばん先に星をつけてくれた人はいつも「うおーやべー!評価付いた〜!」と感動してしまいます。順番に優劣は無いけども!不思議ですね
いつも作品読んでくれたり、評価やブクマしていただく見知らぬ画面の向こうの皆様、本当にありがとうございます
評価とか関係なく自分がやりたいからやっているこの投稿活動ですが、誰かのための何かになっていれば幸いです