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影の御子  作者: 山口遊子
第1章 出会い
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第6話 影の御子


 アパートの部屋に帰ってきた二人は買い物の荷物を片付け、それが終ったところでケルビンはさっそくビージーの適性・・を調べることにした。


「ビージー、テーブルの前の椅子に座れ」

「うん」


 ビージーにはこれから何が始まるのか見当もつかなかったが、言われた通り椅子に座った。

 ケルビンは箪笥たんすの引き出しから陶器でできた小瓶を五つ取り出してテーブルの上に置き、テーブルを挟んでビージーの向かいに座った。


 ケルビンが小瓶の一つを手に取り、コルク栓を開けて中から赤い丸薬を一粒取り出しビージーに渡した。

「この赤い丸薬はルーガと呼ばれる丸薬だ。お前にルーガの適性があれば、その丸薬を飲めば二時間から三時間力が何倍にも強くなる。適性がなければ何も起こらない。噛まずにそのまま飲んでみろ」

「水は?」

「飲んでもいいがいつも水があるわけじゃないから、水なしで飲めるようにしろ。一()しかないんだから飲めるだろ?」

「うん」


 赤い丸薬をごくりと飲み込んだビージーにケルビンが尋ねた。

「腹の中で何か感じないか?」

 ビージーは首を傾けて、しばらくして答えた。

「うーん、お腹の中に何か温かい?そんな感じのものが入っているような気がする」


「おっ! ビージー、お前にはルーガの適性があるみたいだな。

 試しに、ベッドの脇に置いてあるそこの木箱を持ち上げてみろ」

「えー、無理に決まってるよ」

「いいからやってみろ」

「はーい」


 ビージーが椅子から立ち上がり、木箱のところまで行って腰を落として両腕で抱き上げるようにして力を込めたところ、簡単に木箱を持ち上げられた。

「あれ? これってからでも重そうなのに、なんで?」

「それがルーガの力だ。お前の力が何倍にもなっている。他の丸薬も同じだが、お前くらいの体格ならその状態が四時間は無理でも三時間ちょっとは続くだろうな」

「すごい」


「ルーガの場合、五人いればそのうちの二人に適性があると言われている。よかったな。

 ルーガの他にも人の能力を上げる丸薬が何種類かある。その中にフラバとブルアという丸薬がある。

 フラバとブルアの丸薬はだいたい五人に一人、適性があると言われている。ルーガを含めてこの三種の丸薬のどれにも適性がない者は五人に一人だ。

 しかし、その三つの丸薬のうち同時に二つの適性を持つのは五百人に一人と言われている。要は人は何かしらの一つ適性を持っているが二つ以上同時に持っている人はかなり少ないってわけだ。

 まさか、ビージーに適性が二つあるとは思えないが、試しにこの丸薬を飲んでみろ」


 ビージーは立ったままケルビンに渡された黄色の丸薬を飲み込んだ。

「今のがフラバの丸薬だ。適性があれば速さと身軽さが手に入る。どうだ?」

「お腹の中に二つ温かいものがある」

「おいおい、ビージー。お前、フラバの適正もあるみたいじゃないか。さて、どうやって試すか?

 俺が、スプーンでお前を突くから、避けてみろ」

「うん」


 ケルビンは台所から木のスプーンを持ち出し、それを右手に構えて、立ち上がって身構えたビージーに向けて突き出した。

 ビージーの目から見て、ケルビンが不自然なほどゆっくりとスプーンを突き出してきた。

 ビージーはケルビンが冗談でスプーンを突き出してきたのかと思うほどだったが、それでも『避けてみろ』と言われていたので、体を軽くひねってスプーンを避けた。


 それから数回ケルビンはビージーに向けてスプーンをゆっくり(・・・・)突き出したが、ビージーは軽くそれらをかわして見せた。


「ケルビン、あんなにゆっくり突き出してちゃ誰だってけられるよ」と、ビージー。

「言っとくがビージー、俺はゆっくりと突き出してなんかいなかったぞ。

 お前はフラバの適正もあった。

 さっきも言ったが二適性持ちは五百人に一人と言われている。

 かなり珍しいがこの帝都にもそれなりの数いるはずだ。

 だが、俺の弟子としては申し分ない」

「よかった」


「ルーガとフラバ、二つも適性があれば十分以上だが、試しにこれを飲んでみろ」

 そう言ってケルビンはビージーに青い丸薬を一粒渡した。

「これは?」

「ブルアの丸薬だ。適性があれば器用さと正確さ、それに注意力が増す。どうだ?」


 青い丸薬を飲み込んだビージーが、

「これもお腹の中で温かく感じる」

「おいおい、まさかお前、御子みこかも知れんぞ」

御子みこって?」


「全ての丸薬に適性がある者のことを祝福された者という意味で御子と呼んでいるんだ。

 俺もその御子の一人。俺は『影の御子』といって陰や影にまつわる特別な力がある。

 その前に、お前が御子かどうか確かめないとな。さて、どうするかな?

 ビージー、このスプーンを投げて出入り口の扉のかんぬきに当ててみろ」


 ケルビンは持っていたスプーンをビージーに渡して洗濯ロープの上にかかっていた洗濯物を横にずらした。

「ここからこんな変な形のもの投げて当たるわけないよ」

「いいから、よく狙って投げてみろ」

「じゃあ、投げるよ。

 あれ? 当てようと思ってかんぬきを見たら大きく見える。これなら外れっこない」


 ビージーが右手に持ったスプーンをかんぬきに向けて軽く投げた。

 スプーンは不規則に回転しながらも真っすぐ凄いスピードで飛んでいきかんぬきに当たって壊れてしまった。



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