第5話 丸薬
ケルビンとビージーがそんな話をしながら歩いていたら、目的の店に到着したようだ。
「ここはポールってやつがやってる店だ。一応仕立て屋だな」
ケルビンが店の扉とも思えないような扉を開けて中に入っていき、ビージーもケルビンの後に続いて店の中に入り、扉を閉めた。
ケルビンの言うポールの店は、先ほどの雑貨屋の間口を半分にしたようなところで、入り口の正面に机が置いてあり、机の上で男が何やら作業をしていた。
その男に向かってケルビンが軽い調子で話しかけた。
「よう、ポール」
「ケルビン、ご無沙汰だったな。連れは?」
「俺の弟子のようなもんだ」
「なんだ。とうとう弟子をとったのか。
それにしても痩せすぎじゃないか、大丈夫なのか?」
「まあ、これからちゃんと食べていけば、何とかなるだろ」
「あっちの方は何なんだ?」
「まだ試してないが、ベルダの他にどれか一つくらいは当たりが出るだろう」
「ベルダしか当たりが出なかったらどうするんだ?」
「その時はその時だな。まあ、俺は引きが強いから何とかなるだろ」
「なるならないは運次第だと思うが、そんなんでいいのかよ。
いずれにせよ俺は構わんがな。
それで、今日の用事は何だ? スーツがいかれたのか? それとも丸薬か?
丸薬はいくらなんでもまだあるだろ?」
「丸薬も俺のスーツも大丈夫だ。
今日来たのはこの子用のスーツを作ってもらおうと思ってな」
「なるほど。
どれ、寸法を測るか。この子の名前は?」
「「ビージー」」
ケルビンとビージーが揃って答えた。
「名前がビージーか。ふーん。まあいい。
それじゃあ、ビージー、採寸するから荷物を置いて、そこの簀の子の上で下着だけになってくれ」
ビージーは荷物をケルビンに渡し、言われるままに靴を脱いで簀の子の上に上がり、衣服を脱いで下着だけになった。
巻き尺を持ったポールと呼ばれた男が、ビージーの体を手際よく採寸して、手に持った薄板の上にペンでメモしていった。
「よーしビージー。服を着て靴を履いていいぞ。
ケルビン、寸法は測ったが、どうする? ぴったりつくるか?
それとも余裕を持たせるか?」
「さすがにこれから人並みくらいは太るだろうし、背も高くなるから、ぴったり作るとすぐにキツくなるだろう。
ある程度余裕を持たせて作ってくれ」
「分かった」
「いつごろできる?」
「五日は見てくれ」
「了解。値段は?」
「悪いが、小さいといっても手間は同じだからいつも通りだ」
「分かった。今支払ってもいいが、できあがりの時でいいんだな?」
「材料は十分足りているから支払いはできあがってからでいい」
「じゃあ、五日後で」
ケルビンとポールが話している間に、ビージーは服を着終わり靴を履いていた。
「それじゃあな」
ケルビンはビージーを連れて店を後にした。
「今のが仕立て屋さんだったの?」
「そうだな。衣服を仕立てるだけじゃなくて、金さえ払えばいろんなものを用意してくれる。おいおいお前も分かってくるだろ」
「よくは分からないけど、そうなんだ。荷物持つ」
「ああ、最後は食料品だ」
表通りに出て食料品を扱う店に回った二人は、ベーコンの塊と野菜を買い込み、ケルビンの持ってきた麻袋に詰めて帰っていった。
「バケツの中の石炭が少なくなってたけど買って帰らなくていいの?」
「石炭はアパートでまとめて注文してるんだ。
昼間アパートの石炭置き場に行って、番人に金を払って分けてくるんだ」
「そうなんだ。石炭重いものね」
「だな」
「それで、さっきの話に出ていたが、部屋に帰ったらお前の適性を調べるからな」
「適性って?」
「丸薬って知ってるか?」
「丸い薬?」
「そうなんだが、世の中には七種類の特別な丸薬があると言われている。
丸薬は種類ごとに適性のある人に特別な力を与える。
適性がなければ何の効果もない。
七つのうち五つは簡単とまではいかないが金さえ払えば手に入る。
六つ目は俺も見たことはないし、実際に存在するかもわからない。
ただ皇帝がその薬を持っているといううわさだけがある。
そして最後の一つはお前も見たことあるだろ? 審問官。
連中専用の丸薬だ。これだけは審問官以外には毒薬だ」
「審問官なら知ってる。頭から黒いローブを被って、気味の悪い白いお面をつけてる連中でしょ?」
「そうだ。大きな声で連中の悪口は言うなよ。面倒事になるからな」
「知ってる」