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影の御子  作者: 山口遊子
第3章 皇帝
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第45話 ケガ2


 ケルビンは影の御子の装束を脱ぎ、台所の流しまで傷口を縛っていた紐をほどいたところ、傷口がまた開いたようで止まっていた血が流しの上に滴った。


「ビージー、そこの桶に水を入れてくれるか」

「うん」


 ビージーは水樽の中から手桶で水を桶の中に入れ、手桶ごと桶を流しの中に邪魔にならないよう置いた。


 ケルビンはビージーが置いた桶の水を手桶ですくって左手の傷口を洗った。



 酒を飲まないケルビンだったがこういった時のために用意していた濃い酒の入っている瓶が流しの上の物入れに入っている。

 ケルビンは流し上の物入れを指さして、

「ビージー、その物入れの中に白い瓶が入っている。栓を抜いて渡してくれ」

「うん。……これかな?」

「それだ」

 再度傷口を水で洗ったケルビンはビージーから受け取った酒瓶から酒を傷口に垂らした。


 丸薬くすりの効果はまだ続いているはずだが、アルコールを傷口に掛けたことで、痛みが走りそれが続いた。


「フーー」

「大丈夫? 痛くない?」

「今のは痛かった。これをしないと傷口が化膿して腕が腐ることもある」

「うえっ」


「傷口を縫わなけりゃダメそうだから、そこの引き出しに入っている小箱から針と糸を出してくれ。その前にビージー、指先を洗え」


 ビージーが指先を水で洗って言われた通り引き出しの中から小箱を見つけ中から針と糸を取り出した。


「針に糸を通せるか?」

丸薬くすりがまだ効いてるから簡単にできる」


 指先を酒で濡らしたケルビンが、糸の通された針をビージーから受け取り、針を持ち上げその上から酒を垂らした。

 酒は指先から針に伝わり、針から糸に伝わって糸の先から流しに垂れた。


「これでよし」


 ケルビンは針を切口の手前側の皮に突き刺し、反対側の皮から出して糸を通した。


「ビージー、酒で指先を洗って一度糸を結んでくれ」

 ビージーは指先を酒で洗い、糸のしっぽと反対側から出た糸を結んだ。

「これでいい?」

「ああ。十分だ。

 ビージー、傷口が塞がるように傷口の両側から両手で押してくれ」

「うん」

「動かさないで、そのままにしておいてくれよ」


 そこからケルビンは傷口を縫っていき、ある程度進んだところでビージーの押さえる位置を変えさせながら傷口の両側を糸で縫い留めていった。


 最後に傷口に酒を垂らしてケルビンは縫合作業を終えた。


「ふー。見てるだけでも痛いよね」

「そうだな、針はさっきの箱にしまって、箱はタンスの中に戻しておいてくれ。

 あとはいつもの場所に新しいタオルがあるはずだからそれを取ってくれ」


「これでいい?」

「それでいい。

 ビージー、そのタオルで傷口を一度巻いて、もう一枚のタオルをナイフで縦に裂いて、それで巻いたタオルを縛ってくれ」


 言われた通りビージーが作業を進めていった。


「これで良し。傷口は明日の昼には塞がる。

 ビージー、ありがとう」

「ケルビンがケガしたのはわたしのせいなんだもの、そんなこと言わないでよ」

「そうか」

「うん」


「そろそろ寝るか」

「うん。

 ケルビンがベッドで寝て。わたしは床に毛布を敷いて寝るから」

「わかった」


 さすがのケルビンもこの日はかなり疲れていたようでベッドに横になったあと、ビージーが眠るより早く眠りに落ちた。




 ケルビンの左腕の傷は順調に回復して、ケガをした三日後に傷口を縫った糸を引き抜いた。

 その間ビージーが食事を作ったが、味についてケルビンは何も言わなかった。その代わり傷がある程度治って左手が使えるようになったら自分で料理しようと思っていた。



 その三日の間、裂けた装束の左腕の部分を仕立て屋のポールのところで繕ってもらっており、研ぎ直しでは無理なほど大きく刃が欠けたナイフは諦め鍛冶屋のビルのところで新しく購入している。



 糸を抜いた翌日にはケルビンの傷はナイフを振れるまで回復していた。食事もケルビンが作り始めた。


「早く良くなって良かったね」

「俺も驚くほど速く回復した。ビージーのおかげだな」

「またそういうことを言う」

「あははは」


「それで、これからどうする?」

「そうだなー。しばらくおとなしくして、ローゼット家の様子だけでも探っておくか」

「分かった」



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