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影の御子  作者: 山口遊子
第3章 皇帝
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第43話 黒衣団。2度目の荷馬車襲撃


 ケルビンたちの荷馬車襲撃の翌朝。


 ローゼット家本館内の当主執務室に続く居室で朝食を摂ったヴィクトリア・ローゼットは、執務室に移って朝の執務に取り掛かった。


 そのヴィクトリアのもとに筆頭家令キエーザが、昨夜の荷馬車襲撃事件の報告のために訪れた。

「昨夜の荷馬車襲撃についてご報告に参りました」

「それで何が分かった?」

「はい。荷馬車の御者は鋭い刃物、おそらくナイフの一閃で延髄を断ち切られて亡くなっていました。さらに荷台に乗っていた護衛は焼かれた荷馬車ともども炭になっておりました」


「こちらもナイフで?」

「護衛の死体は炭になっており詳しいことは分かりませんでした。

 いずれにせよ、護衛は狭い荷台の上で殺されたようですから、襲撃者は相当の手練れと考えていいでしょう」


「それでは他家によるものなのかどうかも分からぬな」

「ハンコック家が滅亡して間もないこの時期に、他家が仕掛けてくる理由が思い浮かびません」

「キエーザでも分からぬということは、他家の仕業ではない。

 となると当家に対する個人的な恨みといったところか。

 恨まれる心当たりしかないから犯人の特定など無理ではあるな。

 荷馬車を襲ったということは一度限りの襲撃ではあるまい。

 当面護衛を増やして様子を見るしかないだろう」


「かしこまりました。

 ただ、襲撃者は短剣を持つ護衛をナイフで仕留めたとすると、ただの手練れではなくフラバとブルアを同時に服用していた可能性もあります」

「フラバとブルアを同時となると少々厄介だな」


「襲撃者の素性も意図もつかめぬ以上、黒衣団を荷馬車の護衛に付けてもよいやもしれません。念のためですが複数で」

「そうだな。当分黒衣団は使えぬということが分かった以上、遊ばせておく必要はないからどんどん使っていこう。

 念のため屋敷内の警備にも何人か回しておくか。

 キエーザ、そのように取り計らってくれ」

「かしこまりました。それでは失礼します」

「うむ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 荷馬車襲撃のあと、ケルビンとビージーはローゼット家内の建屋に放火することにした。

 本館に火を放つことができればそれに越したことはないが、本館は石造りの外壁の建物だったこともあり、本館周辺の建屋に火を点けることにした。

 キノコの栽培場を燃やせばローゼット家にとって相当な痛手になることは確実だったが、キノコがなくなってしまうと、自分の首を絞めることにもなると思い、ケルビンは放火のターゲットから外している。


 それで結局、例の子どもたちがオピウム漬けにされていた建屋を、ターゲットにしようということになった。


 ケルビンは火付け用に墨を塗ったランプの上から布をかぶせたものを用意した。

 試したところ、暗闇ではわずかに光は漏れるものの、霧雨の中ではそれほど目立つものではなかった。



 荷馬車襲撃から三日目の夜。


 ケルビンとビージーは下水の側道を通り、ローゼット家の裏門近くのマンホールから這いだした。

 すぐに屋敷を囲む塀に取りついて屋敷内を観察したところ、前回忍び込んだ時とは違い、屋敷内のいたるところに警備兵が巡回していた。

 警備兵の中に、黒い装束を着て顔の部分に黒い面を被った警備兵が混ざっていることが確認できた。


『荷馬車襲撃が効きすぎたか。警備兵の数が多すぎる。さすがにこの中に侵入して火を点けることは無理そうだ』

『うん。そうだね』

 二人は放火を諦め、マンホールからアパートに戻った。



 翌日。


 朝食をとりながらケルビンがビージーに次の襲撃について話した。

「ローゼット家の屋敷内への侵入は当分無理そうだ。やはり荷馬車を襲おう」

「うん」

「屋敷内の警備が強化されていたわけだから、荷馬車の警備も強化されているはずだ」

「うん」


「前回荷馬車を襲ったのはローゼット家の裏門から三〇〇ヤードほどだったが、今回はその倍の六〇〇ヤード辺りに潜んでそこで荷馬車を襲おうと思う。

 六〇〇ヤードあれば、襲撃に気づいたローゼット家の私兵がやってくるまで2分近く余裕がある。襲撃前に近くのマンホールを見つけておけば、素早く逃走することもできる」

「そうだね」


「前回の護衛と比べ手練れの護衛が荷台に乗っていると思うから、今回はビージーが御者を仕留め、俺が荷台に乗り込む」

「わかった。

 昨日あそこにいた黒い服を着て黒い仮面の連中って、まるで黒くなった審問官だったよね?」

「そうだったな。あの仮面に何か意味があるのだろうが、一体何なんだろうな?」

「ローゼット家って審問官用の黒い丸薬を作ってるんだよね?」

「そうだ」


「審問官以外は黒い丸薬を飲めないって言ってたけど、どうにかして審問官じゃなくても飲める黒い丸薬を作ったってことないかな?」

「ビージーが言いたいのは、あの黒面が審問官並みかもしれないってことか?」

「うん」


「可能性はないわけじゃないな。最悪今日襲撃する時現れるかも知れない。その時は無理はできないぞ」

「どうする?」

「その時考えるしかないが、無理はしないようにしよう」



 二人はそのあと襲撃の段取りを再確認した。



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