表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の御子  作者: 山口遊子
第3章 皇帝
42/48

第42話 荷馬車襲撃2


 マンホールからローゼット家の屋敷の裏の通りに出た二人は、屋敷の塀に沿った暗がりの中を移動して、ローゼット家の裏門に続く道に出た。


 ローゼット家の敷地を囲む通りと帝都を囲む外壁にいくつか設けられた門にまっすぐ続く通りが裏門の前で交わっている。

 裏門から帝都の外壁の門までの途中には運河の船着き場もある。



 遠方からの物資は運河で帝都内に運び込まれ、船着き場で陸揚(りくあ)げされた物資は荷馬車に積み込まれ、帝都各所に運ばれる。

 帝都近郊からの物資は荷馬車でそのまま帝都に運び込まれる。


 そしてこの日も運河からの物資が幌の付いた荷馬車に乗せられ、ローゼット家に向かった。



 マンホールから通りに出た二人は、ローゼット家の裏門から三百フィートほど先の暗がりに潜んで、荷馬車を待ち受けていた。

 灰を含んだ霧雨の中、陰に潜んだケルビンとビージーの耳に、馬のひずめの音と馬車の車輪が石畳の上を走る音が聞こえてきた。

 そのうち霧雨の向こうからカンテラの明かりが見えてきた。


 三百フィートの距離があればローゼット家からは馬車の急に気づけないだろうし、もし気付いて救援に駆けつけてこようが、その間に荷に火をつける時間は十分あるとケルビンは踏んでいた。

 さらに駆け付ける救援が四人までの寡勢であればビージーと二人で皆殺しにしてやろうと考えていた。


『ビージー。来たぞ』

『うん。それで、どうするの?』

『ビージーはいったん追い抜かれて、後ろから荷馬車に飛び乗れ。

 荷馬車はおそらく幌馬車だ。荷台の中に護衛がいたらそいつを仕留めろ。

 狭いところならナイフを使い慣れているビージーの方に分がある。

 だが、護衛が手練れで敵いそうにないと思ったら、無理せず逃げろ』

『分かった』


『俺は御者台に飛び乗って御者を仕留めて馬車を止める。

 その時荷台が揺れるはずだから気を付けていろよ。

 その後はカンテラを外して荷台に回って荷物に火を放つ。

 もしローゼット家に馬車の急を悟られて救援が駆けつけてきたとしても、四人までなら二人で斃してしまおう』

『うん』


 打ち合わせを終えた二人は近づいてくる荷馬車を待ち受けた。



 荷馬車を引く二頭の馬がケルビンの真横を通り過ぎたところでケルビンはナイフを両手に暗闇から飛び出し、御者台の上に飛び乗った。

 御者はいきなり御者台に飛び乗ったケルビンに気付く前に、頭の付け根にナイフを突き入れられ延髄を断ち切られた。

 御者は自分の身に何が起こったのかも認識できないままこと切れた。


 すぐにケルビンは馬の手綱を引いた。

 もちろんケルビンには御者の経験などないので見よう見まねだったが、十ヤードも進まぬうちに馬は止まった。



 ビージーはケルビンが馬車に向かって飛び出した後、馬車が通り過ぎるのを待って暗がりから飛び出し、幌馬車の後ろから荷台に飛び乗った。

 ビージーは飛び乗った瞬間に腰のベルトからナイフを抜いて構えた。そこで急に荷馬車が揺れ、体が前のめりになったが、ケルビンから気を付けろと注意されていたので、態勢を崩すことはなかった。


 幌馬車の中には木箱が何個か積んであり、手前の木箱の上に一人の護衛が鞘に入った剣を膝の上において座っていた。ビージーに気付いた護衛は立ち上がって、手にしていた剣の鞘から右手で剣を引き抜こうとした。


 護衛が鞘から剣を半分引き抜いた時には、踏み込んできたビージーがダガーナイフを一閃して、ビージー側に向いていた護衛の右手首の半分をざっくり切り裂いた。

 右手が使えなくなってしまった護衛は、鞘を掴んでいた左手で腰からナイフを引き抜こうとしたが、果たさぬままにビージーのスタブナイフを目玉に突き入れられ、声を上げることなくそれまで座っていた木箱の上に仰向けになって絶命した。


 ビージーは護衛との勝負がついたあと、ケルビンを待ちながら二本のナイフを点検していたら、ケルビンがカンテラを持って荷台に上がってきた。


 荷台の中をケルビンが一瞥した。

「護衛はやはりいたのか。今回みたいに狭い場所だと剣では取り回しが悪いとはいえ、ビージー、よくやった」

「油断していたみたいで簡単だった。

 目玉にスタブナイフを突き入れたんだけど、結構楽に斃せた。

 血も飛び散らなかったしナイフも傷まなかったから目玉を狙うのもいいかも」


 ケルビンはマントから油の入った瓶を取り出し荷物の木箱に振りかけながら、

「なるべく正面に立たない方がいいんだが、真正面から戦わなければいけない状況なら確かにいいかもしれない。それなりの相手だと難しいと思うがな」


 そう言ってケルビンは空になった油瓶をマントの物入れにしまい、カンテラの覆いを外して中から火口(ほくち)を取り出し振りまいた油に火をつけ、最後にカンテラを燃え広がる火の中に投げ捨てた。


 荷馬車の荷台から飛び降りた二人は荷馬車に繋がれた2頭の馬の方に歩いていった。

「馬を繋いだままだとかわいそうじゃない」

「このままだと馬が暴れて、馬車を引いたままそこらの家にでも突っ込んだら、火事になるかもしれないから、逃がしてやろう」


 ケルビンは二頭の馬から馬車のくびきを外してやった。くびきを外された馬は、ローゼット家の裏門に向かって歩いていった。



 それを見届けた二人は近くのマンホールから下水に下り、そこからアパートに帰っていった。

 ビージーは初めての場所から下水に入ったわけだが、アパートに向けて駆けていくケルビンの後を追っていたらすぐに自分の位置を把握できた。



 アパートに戻って影の御子の装束から普段着に着替えたところで、ビージーはケルビンに今回の襲撃の間思っていたことを聞いた。


「ねえ、ケルビン。今日はうまくいったけど、次は難しいんじゃないかな?」

「その通りだ。これから連中は荷馬車の護衛を増やすだろう。しかもなにがしかの丸薬を飲んでいるはずだ」


「それでも荷馬車を襲うの?」

「いや。今度は連中の作業場に火をつけようと思う。かなりの痛手になるだろう」


「どうせなら、館に火をつけた方がいいんじゃない?」

「うーん。確かに館が燃え落ちれば連中にとってかなりの痛手になるだろうな。時間があればやってみてもいいが、火が燃え広がってしまう前に早めに撤退するからな」


「今回はカンテラがぶら下がっている馬車だから火がついたけれど。簡単に火をつけられればいいのにね」

「そうだなー。

 カンテラの内側に墨を塗っておくか。それでも光は漏れるだろうからカンテラの周りをその後で布でくるめばいいだろう」

「そうだね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ