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影の御子  作者: 山口遊子
第3章 皇帝
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第41話 荷馬車襲撃1


 ローズの店を出た二人は下水道を通り、アパートに帰った。


 すぐに二人とも影の御子の装束から普段着に着替えた。いつものビージーならベッドに入ってしまえばあっという間に眠ってしまうのだが、その日のビージーはベッドに入らずテーブルの前の椅子に座ってじっと何かを考えていた。


「ビージー寝ないのか?」

「まだいい」

「じゃあ、俺が先に寝るぞ」

「うん」


 ケルビンはこれまでビージーをベッドに寝かせて、自分は床に毛布を敷いて寝ていたのだが、ビージーが起きている手前、ベッドに入って横になった。


 ケルビン自身まだ眠くはなかったが、目を閉じていた。


 一時間ほどそうしていたら、ビージーがベッドに入ってきて壁に向いて横になっていたケルビンの背中を抱いてきた。

 ケルビンはそのままビージーの好きなようにさせていたら、数分でビージーの寝息が聞こえてきた。その日はケルビンもそのままベッドの上で眠った。



 翌朝。


 ケルビンはいつも通り早朝から起き出したが、自分がベッドで寝ていて、横でビージーが寝ていることを思い出し、ビージーを起こさないよう慎重に起きあがった。


 慣れない体勢で寝ていたせいか、床に寝ていた時よりも体がこわばってしまった。ケルビンは体の各所を回したり伸ばしたりして体をほぐしてから、朝の支度を始めた。


 朝食の支度をあらかた終えたところで、いつものようにビージーを起こそうと思ったが、もうしばらく寝かせてやることにした。



 ケルビンはビージーを起こす前に、しばらく昨日の子どもたちのことを考えていた。


 彼らはこれから檻に入れられ三カ月間食事と排泄だけの生活を送り、無理やり太らされるのだろう。

 常にオピウムの煙を吸い込んでいるせいで、彼らの意識は朦朧として、一日中寝ているのか起きているのか分からない状態のままでいるはずだ。

 オピウムの煙を吸い込めば食欲は落ちて痩せていくというが、食欲など気にかけることなく口から液状の食べ物を流し込まれるのだろう。


 太らされた彼らは順に各種の薬の材料にするため解体され、脳、肝臓、胆のう、そして骨を砕いて骨髄などが取り出されるにちがいない。

 考えるだけでもおぞましい。人を家畜として扱う、それが貴族の姿なのだと言えればそれまでだが、できることなら昨日見た子どもたちを助けてやりたい。


 しかし、一度感覚がマヒするまでオピウムを吸い込んでしまうと、オピウムなしでは生きていけなくなるという。そうだとすれば、昨日の子どもたちを助けることはできない。


 自分にできることは、新たな子どもたちがローゼット家に運び込まれないようにすることだ。材料の供給が止まることで、よく効く薬が消えようが知ったことではない。

 こうなってくると、審問官よりローゼット家の私兵の方が許し難く感じられる。


――そろそろ、ビージーを起こすか。


「ビージー、朝だぞ」

「う、うん。今起きる。

 なんだか、いい夢を見てたはずなんだけど、目が覚めたら全部忘れちゃった」

「覚えていない夢は、すごくいい夢なんだ。見た夢が本当は悪い夢だったとしても、せっかく忘れてしまったんだから、いい夢を見たと思っていた方がいいからな」

「ケルビンの言う通りだね」

「じゃあ、急いで朝の支度をしてこい」

「うん」




 ケルビンは顔を洗って部屋に戻ってきたビージーと朝食をとりながら、

「ビージー、俺は皇帝を斃そうと思っていたが、先にローゼット家を潰そうと思う。

 とは言っても、ローゼット家の当主を殺すことは簡単ではないだろうし、当主一人を殺したところでローゼット家が滅ぶわけでもない。

 それで代わりにローゼット家を弱らせていこうと思う。十分弱れば残った三公家で何かの動きがあるだろう」


「うん。でもどうやって弱らせるの?」

「まずはローゼット家に運び込まれる材料を襲って焼き捨てる」


「うん。でも荷馬車で材料が運び込まれるとして、どういった材料が運び込まれているのかも分からないし、どの馬車を襲うつもり?」

「門の手前で張り込んでおけば、ローゼット家への荷馬車だと分かるだろう。そこで襲撃する」


「襲う相手は分かったけど、どうやって荷物に火を点けるの?」

「夜間の荷馬車には必ずカンテラがぶら下がっている。御者を仕留めてからカンテラで荷物に火を点ける」

「それならうまくいきそうだね」

「屋敷から私兵が出てくるまでの時間との勝負だが、何とかなるだろう。

 今日から日が暮れたらローゼット家の近くで張り込もう。詳しい手順は状況を見てその場で説明する」

「うん」



 その日、夕食を食べ終えた二人は影の御子の装束に着替え、三十分ほど下水道を駆け、前回ローゼット家に忍び込んだ時使ったマンホールの蓋の下にたどり着いた。


 ケルビンはマントの内側の物入れの中にランプ用の油を一瓶入れている。油を荷馬車の荷の上に振りまき、カンテラで火を点ければ確実に荷を燃やすことができる。


 ケルビンはマンホールに続く梯子に手をかけて登り、マンホールの蓋を開けてローゼット家の裏の通りに出た。

 ビージーも素早く梯子を上り、灰含みの霧雨が降っている通りに出て、マンホールの蓋を元に戻した。



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