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影の御子  作者: 山口遊子
第2章 仕事
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第25話 審問官4


 アパートの部屋を出た二人は、食料の買い出しのため、商店街に向けて通りを歩いていった。

 通りではいつものように雨で湿った灰を片付けるため何人もの人夫が、箒を使って灰を集めている。



 商店街にやって来たケルビンは食料屋に入っていき、目ぼしいものを店のかごにどんどん入れた。支払いを済ませてから麻袋の中に買った品物を突っ込んだ。


「前回買い出しに来た時と比べて、品物の量も減っているし、値段もだいぶ高くなっている。

 俺たちは金があるからいいが、道を掃除するしか仕事のない連中だと飢える者も出そうだ」

「わたしは物の値段なんてわからないけど、そんなに高くなったの?」


「前回買い出しに来た時と比べて、肉は五割増し、他の物も二、三割は高くなってる。ここまで肉が高くなると大ネズミの肉も売り出されるかもしれない」

「どうしてそんなことが起こるの?」

「地方からの商品の流入が滞っているとき、こういったことが起こる」


「それには、理由があるの?」

「食料品の生産の七割がたは五公家のうちのハンコック家が関わっているが、その食料品を運ぶ物流は同じく五公家のセリオン家が牛耳っている。

 連中のどちらかに問題があるのか、ワザとなのか、そこは分からない」


「わざとって?」

「ハンコック家とセリオン家で、なにがしかの争いがあったかもしれない」

「そのために大勢の人が高い食料品を買うの? 買えなくて飢える人が出るかも知れないのに」

「俺たちじゃどうすることもできない。諦めるしかない」


「皇帝は貴族同士の争いを止めないの?」

皇帝やつは、どこかの貴族の力が必要以上に強くならないよう、どこかの貴族が必要以上に弱くならないように仕向けている。だが、貴族同士の争いを止めることはない。

 ビージー、連中だ。審問官だ。

 こっちからは仕掛けないが、マントの中に手を入れてナイフを準備しておけ。連中が通り過ぎるまでじっとしているんだぞ」

「分かった」


 前方から五人組の審問官が通りの真ん中を縦一列になって二人の方に歩いてきていた。

 ケルビンとビージーの二人は審問官をけるように道の端に寄って審問官が通り過ぎるのを待った。


 先頭を歩く審問官の顔全面を覆う白い仮面が不気味だ。

 もちろん後ろに続く四人の審問官も同じ仮面をしているため不気味である。

 彼らはフード付きのマントを羽織っているため性別は不明だ。

 昨日、ビージーは審問官を一人斃したが、その際、審問官は声一つ立てることがなかったため、相手の性別は分からないままだった。


 ケルビンとビージーの前を審問官たちが順に通り過ぎていった。


 四人目の審問官がケルビンの後ろに立つビージーの前を通り過ぎていき、そして五人目がケルビンの前を通り過ぎた。

 その審問官がビージーの前を通った時、その白い仮面がビージーの方を向いた。

 仮面には目の位置に細い切れ目が入っており、その二つの切れ目から赤い何かが見えた。


 ビージーは手にしたナイフを意識したが、五人目の審問官はビージーをちらりと見ただけで視線を元に戻し、そのまま通り過ぎていった。


 審問官たちが通り過ぎ、ケルビンが歩き始めたので、ビージーもケルビンについて歩き始めたところ、後ろから物が壊される音が聞こえた。

 振り返ると先ほどケルビンが食料を買った店に審問官が入っていき、中の物を破壊しているようだ。


「審問官がお店の中で暴れてる」

「ああ。あの店は終わりだな。さっきの連中はただの人狩りじゃなくて犯罪の取り締まりだったようだ。おそらくあの店は何か違法なことをしてたんだろう」

「そうなんだ」

「ただの人狩りなら、そこらを歩く連中で活きの良さそうなのを適当に捕まえればいいだけだ。店をわざわざ壊す必要はない」


 しばらく物を壊す音が続き、審問官が店から出てきた。

 先頭の審問官の後ろに続く審問官が二人がかりでそれぞれ男女一人ずつの両脇を抱え引きずっている。

 審問官たちはそのままビージーたちの前を通り過ぎて、やってきた方向に帰っていった。

 審問官に引きずられていった二人はどちらも顔が腫れて酷いことになっていた。

「ビージー、そういうことだ」


「あの店はどうなるの?」

「店の中の物は周りの連中に荒らされて、おそらく廃屋になる」

「そんなことしてたら、帝都の店がそのうち無くなるんじゃない?」

「事実、帝都中の店の数はどんどん減っている」


「それでいいの?」

「良くはないと思うが、俺たちでどうこうできる話じゃない。皇帝を斃せば何とかなるかもしれないし、ならないかもしれない」

「そんな」

「俺は皇帝でもなければ貴族でもない。できることをやるだけだ」


 審問官による逮捕劇のあと、二人は審問官に出くわすこともなく、赤味を帯びた薄曇りの空の下を歩いていった。



 次にケルビンが向かったのは、ポールの仕立て屋だった。


「よう、ポール」

「ケルビンとビージーか。

 今日は?」

「薬だ。扉を閉めておくぞ」そう言って、ケルビンは扉のかんぬきを掛けた。


「どの薬だ?」

「黄と青を五十粒ずつ。代金は金貨十枚でいいんだな? アージェントがあれば何粒でも欲しいんだが」

「アージェントは以前あんたに売ってから手に入っていない。悪いな」

 そう言ってポールはいったん店の奥に入って小瓶を二つ持ってきた。


 二つの小瓶を受け取ったケルビンは一つずつマントの左右のポケットに入れて、代金の金貨十枚をポールに手渡した。


「それじゃあな」

「ケルビン、ビージー。二人とも気を付けろよ」

 ケルビンは扉のかんぬきを外して、ビージーを連れて店を出た。


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