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影の御子  作者: 山口遊子
第2章 仕事
24/48

第24話 審問官3


 審問官を斃してからは運よく誰にも出くわすことなく、ケルビンが囚われていたというダンジョンのあの部屋に帰り着いた。

 ケルビンが壁のレンガを抜き出して二人がくぐり抜けたらレンガを戻して、二人はその先の亀裂を通って下水道の手前まで戻り、そこで同じようにレンガを抜き出して下水道側にくぐり抜けた後、レンガを元に戻した。


「このまま、ローズの店に向かう」

「うん」


 二人は下水道の側道を小走りに進んでいき、ローズの店にたどり着く途中、何度か大ネズミに出くわしたが、そのたびに大ネズミは逃げていった。



 ローズの店の地下室から梯子を上ったところで、ローズが迎えてくれた。


「ケルビンとビージー、いらっしゃい。

 あそこにいってきたんだね」

「ああ。これだ」

 そう言って、ケルビンはマントの中からケーブスラッグの粘液が入った瓶を二つ、ローズに渡した。


「いつものように、まずは金貨百枚」

 ローズは瓶ごと重さを計り、ケルビンに大きめの袋を一つ渡した。


「それと金貨二十枚」

 ローズは追加で小袋に金貨を入れてケルビンに渡した。


 渡された袋をケルビンはマントに仕舞った。

「ケルビン、中身を数えなくていいのかい?」

「あんただって、瓶の中身を確かめなかったろ。俺たちは持ちつ持たれつ。無意味なことはお互い必要ないからな」


「フフフ。そのとおりだね。次回用の陶器の瓶を二つ、それと陶器のヘラを先に渡しておくよ」

 ケルビンはローズが手渡したスラグシルバー用の瓶とヘラをマントの中にしまった。


「次は何を仕入れてきて欲しい?」

「次は、黄茸だね」

「分かった。二、三日中に採ってくる」


 ローズの店から出た二人は、前回と同じ下水道の側道を通って部屋に戻った。


 影の御子の装束から普段着に着替えたビージーは、早々にベッドに横になり寝息を立て始めた。

 ケルビンもこの日はある程度疲れたようで、ビージーが寝入ってすぐにベッドの横に床の上に毛布を敷いて横になった。




 翌朝。


 昨日の帰りが遅かった関係で、ビージーの目が覚めたのはいつもよりだいぶ遅かった。


「ケルビン、起こしてくれればよかったのに。でも、遅くまで寝かせてくれてありがとう」と、朝食の支度を終えたケルビンに、ビージーがベッドから話しかけた。

「今度から起こしてやるよ。さっさと顔を洗ってこい。食事が終わったら今日は買い出しだ」

「はーい」



 ビージーが朝の支度を終えてテーブルについたところで、食事が始まった。


「ビージー、昨日審問官を三人斃しただろ」

「うん」

「連中は、欠けた三人を補充するため新しい審問官を作ることになる」

「うん」


「運が良ければ、薬を飲んでも一人も死なずに三人の審問官ができあがる。

 運が悪ければ、何人も死んでやっと三人の審問官ができあがる」

「うん」


「でも罪人が審問官になるんだったら、どうして逃げださずに審問官を続けてるの?」

「薬を飲んで一度審問官になってしまうと、その薬を定期的に飲まないと苦しんで死ぬんだ。

 だから連中は皇帝には逆らえない」


「皇帝って頭がいいんだね」

「千年も生きているらしいからな」


「それでだ。罪人の数が足らなくなると、連中は帝都に繰り出して、適当な罪状で人を集めると教えただろ」

「うん」

「おそらく、今日、連中は人狩りをする」


「そういうところに出くわしたら、わたしたちどうするの?」

「見ているしかない。

 昨日、なんとか三人斃せたが、今度は昼間だし、街を見回るとき連中が三人とは限らないうえ、簡単に仲間を呼ぶことができるからな」


「分かった。わたしたちは、できるだけ関わらないようにする。そういうことだね?」

「そういうことだ。連中が近くで理不尽に街の連中を捕まえても、見て見ぬふりで知らん顔だ」

「うん。そうする」


「今日は普段着だがコートの下に影の御子のベルトをしておけ。用心のためだ」

「影の御子のベルトってことはナイフを持ち歩くってことだよね。見て見ぬふりをするのに?」

「俺たちが連中のターゲットになったら、戦わざるを得ないからな」


「薬はどうするの?」

「薬はそういった状況になってからでいいだろう。

 今のうちに渡しておくからベルトの物入れに入れておけ」


 ケルビンはビージーに速さと身軽さのフラバと正確さと注意力のブラバの丸薬を1粒ずつ渡した。


 朝食を終え、後片付けも終わった。


「用意して、そろそろ行くか」

「うん」


 用意を終えた二人は、アパートの戸締りをして、通りに出て行った。

 今日も通りに人夫が出て濡れた灰を掃除していた。


「毎日毎日、大変だよね」

「それでもああやって働けばわずかばかりの金が手に入る」

「そうだね」

「仮にも帝都だ。灰で埋まっちゃ格好がつかんからな」


「ふーん。人狩りするような国でもそんなこと気にしてるんだ」

「そうだな。働き口がなければそこらで野垂れ死にするわけだが、死体が病気の元になるかもしれないから、ある程度の金は使わざるを得ないんだろう。

 皇帝はケーブスラッグの粘液を五公家それぞれに卸して莫大な収益を得ているしな」


「皇帝はそうやって集めたお金をどうしてるの?」

「こういった都市の維持や街道、特に運河の維持に使ってはいるが、それだけじゃ使い切れないほどの収益があるはずだ。

 ただ金を集めているわけではないと思うが、俺にもその辺りは見当がつかない」



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