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影の御子  作者: 山口遊子
第2章 仕事
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第22話 審問官1、実戦


 岩を削っただけの階段をケルビンとビージーは音を立てずに下りていった。

 階段は途中の踊り場で直角に曲がり、それを繰り返している。


『この階段結構長いね』

『百二十段ある。階段が終わればその先は岩棚だ。

 エサの死体は下まで何もない岩棚の端から投げ下ろされる。そういった投げ込むのに都合のいい場所が岩棚に何カ所かある。

 岩棚からは大空洞の底まで続く階段があって、ケーブスラッグの粘液を集める罪人にんぷたちはその階段を使って底まで下りていき、ケーブスラッグがエサを食べるために移動した跡の粘液を採集するわけだ。

 俺たちもその階段を下りて大空洞の底に下りていく』

『わかった』


 そこから少し階段を下ったところで二人は先ほど話していた岩棚に出た。


 空洞にベランダのように張り出した岩棚の上には、ところどころ明かりが灯されて、周囲を照らしている。

 明かりは岩棚に打ち込まれた青銅製の棒の先端にランプが取り付けられたものだった。

 岩棚の端に下に続く階段の下り口があり、下り口の脇にも明かりが灯されている。


『ケーブスラッグは明るいところには近づかないんだ』

『ふーん。

 見たところ、ここには誰もいないようだから良かったね』

『そうだな。下に下りよう。

 ビージーも念のためナイフを用意しておけ』

『うん』


 ビージーはマントの中で抜いた二本のナイフを、そのままマントの下で隠し持つことにした。


 岩肌を削った階段を二人は下りていく。

 階段の途中にも明かりが灯されていた。


『こうやって明かりをつけていれば、ケーブスラッグは階段を上ってこない』

『いつもランプに油を入れておくのは大変じゃない?』

『それも人夫の仕事だ』


 二人が階段を下りる間、幸いなことに階段の途中で誰にも出会うことなく、空洞の底まで下りることができた。

 空洞の先でもところどころに明かりが灯されていた。

 明かりは揺れていたから、そこで人夫がケーブスラッグの粘液を採集しているのだろう。



『ビージー。見回りの審問官が三人こっちにやってくる。連中は夜目が利くといっても俺たちほどじゃない。ここの暗がりの中に俺たちが潜んでいれば、連中の目では見つけることはできない。そこの岩陰に隠れて、連中が通り過ぎたら後ろから斃す』

『わたしも一人()る』

『分かった。

 俺が後ろの二人を殺るから、ビージーはその間に先頭の審問官に忍び寄っておけ。

 連中はフード付きのマントを羽織っているから、後ろから忍び寄って急所を狙って一撃で仕留める必要がある。

 こめかみの辺りか、後頭部の首に繋がった部分を見定めてスタブナイフで突け。

 フードが邪魔だから、一度狙う場所をダガーナイフで切り裂いてから突いた方がいいが、無理しなくてもいい。

 その際ケーブスラッグの注意を引きたくないから、なるべく音を立てないようにな』


『分かった。任せて』



 ケルビンとビージーが明かりの届かない岩陰に腰を落として隠れていると、顔前面を覆う白い仮面をかぶった三人の審問官が一列に並んで、二人の潜む岩陰の前を通り過ぎていった。


 無音で岩陰から出たケルビンは、三人目の審問官の背後に中腰で忍び寄った。

 ケルビンは一度立ち上がって、右手に持ったダガーナイフを払うように一閃して、審問官のフードを切り裂き、次の瞬間左手で逆手に持ったスタブナイフを、その切れ目から審問官の耳の下に突き入れた。


 ズシャ。っと、スタブナイフを突き入れた音がアージェントで強化された二人の耳にわずかに届いたが、前をいく二人の審問官はその音に気付かずそのまま歩いていた。


 歩みを止め、首をカクンと落とした審問官が崩れ落ちる前にケルビンが抱きかかえ、音をいっさい立てることなく、岩でできた足元に寝かせてしまった。

 ケルビンはそのあとすぐに二人目の審問官の背後に迫った。


 ビージーはケルビンの動きを横目で見ながら、岩陰伝いに先頭を歩く審問官に近づいていっていった。


 ケルビンは二人目の審問官に対してダガーナイフでフードを切り裂くことなく、左手で逆手に持ったスタブナイフを審問官の頭と首の付け根に勢いをつけて刺し込んだ。

 そこでその審問官が歩みを止めて崩れ落ちそうになったところを、ケルビンが先ほどと同じように抱きとめて足元に寝かせたが、審問官が腰から下げていたメイスが足元の岩に当たり、ゴトンと音を立ててしまった。


 先頭を歩いていた審問官がその音に振り返り、腰からメイスを外してケルビンに向かって構えた。


 中腰のままナイフを構えたケルビンに向かって、審問官がメイスを振る。


 ケルビンはメイスをかわしながら、隙を見てはナイフでメイスを握る審問官の手に切りつけたりしていたが、牽制の域を出ない軽い攻撃だった。

 ケルビンの牽制で、審問官は前に出ることも左右に動くこともできず、同じ位置でメイスを振ることになった。


 ビージーの存在に気づかぬままメイスを振るう審問官の背後にビージーが取りついたところで、ケルビンがビージーにうなずいた。


 ビージーはケルビンの合図で立ち上がり、背後から白いお面の脇からのぞいていた審問官のこめかみに向かって、左手で逆手に持ったスタブナイフを突き入れた。


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