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影の御子  作者: 山口遊子
第2章 仕事
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第18話 ブレナム家2


 ブレナム家の栽培場の通気孔にはめ込まれた格子をケルビンが器用に外した。

 ケルビンはマントから取り出したもう一つの鈎爪付きの紐で外した格子を括って、鈎爪を通気孔の端に引っ掛け、格子が落ちないように吊り下げた。

 最初に通気口にかけていた鈎爪は向きを変えて通気口に引っ掛け、紐は栽培場の内側に投げ入れた。


「ビージー、吊り下げた格子に当たらないよう気をつけて通気孔をくぐれ。

 下は柔らかい土だから、そのつもりで跳び下りろ」

「うん」


 先にケルビンが通気孔をくぐって栽培場の中に跳び下り、ビージーは吊り下げられた格子に体が当たらないよう気をつけて通気孔をくぐり抜け、栽培場の中に跳び下りた。


 栽培場の中には明かりなどはなく、中はほとんど真っ暗だった。

 そのため影の御子である二人でも色を見分けることはできなかった。


 栽培場の中は前回の青茸あおたけ同様、地面に杭のように突き刺された榾木ほだぎにキノコがぎっしり生えていた。

 キノコの色は赤いのだろうが、輪郭しかわからない。

 そういった榾木ほだぎが栽培場に整然と並んでいた。


 ここでもケルビンはマントの中から布袋を取り出し、ナイフを使って丁寧にキノコを切り取って布袋の中に入れていった。


「よーし、こんなところだ。

 ビージーは先に出てくれ」


 ビージーは言われた通り、紐を伝って壁をよじ登り、通気孔から栽培場の外に跳び下りた。


 ケルビンはキノコを入れた布袋の口を縛り、マントの中にしまってビージーの後に続いて壁をよじ登った。

 通気孔に手をかけたケルビンは向こう側に乗り出し、紐で吊るしていた格子を引き上げて元に戻してから、二つの紐付きの鈎爪をマントの物入れの中にしまって跳び下りた。



 栽培場の外でケルビンを待っていたビージーのところに、屋敷の本館から楽器の音がわずかに聞こえていた。


「貴族のパーティーってどんなのかな?」

 上から跳び下りてきたケルビンに下で待っていたビージーが聞いた。


「音楽に合わせてダンスして、美味(おいし)い料理を食べて、いい酒を飲んでいるんだろう。

 ビージー、興味があるのか?」

「ちょっとだけ。

 ケルビンは覗いてみたくない?」

「俺は興味ない」

「なーんだ」

「そんなに見たいんだったら、少しだけ覗いてみるか?」

「うん」とビージーが普段とは違った感じで答えた。


 ケルビンはビージーに甘すぎると自覚しつつも、フードから覗くビージーの目を見たら、まあいいか、という気になった。


「ここから本館の壁まで走って、そこからベランダまでよじ登る。ベランダから建物の中に入る」


 ベランダがどのあたりにあるのか屋敷の本館を見たビージーはその高さに驚いた。

「ベランダがあんなに高いところにあるけど大丈夫かな?」

「俺たちなら大丈夫だ。手がかりもあれば足がかりもあるから、紐なしでも楽に上れることに驚くぞ。

 いくぞ」


 本館に向かって腰を落とし、背をかがめて駆けだしたケルビンを追って、ビージーも腰を落とし背をかがめて駆けだした。


 本館にはガラス窓がたくさんあったが、どの窓も厚いカーテンがかかっており、わずかに光が漏れているだけだった。

 窓と窓の間の壁をケルビンがよじ登っていき、その後をビージーが追って壁をよじ登ったが、ケルビンが言ったとおり、確かに手がかりもあれば足がかりもあるので、ビージーも簡単に登ることができた。


 先をいくケルビンは、壁から張り出したベランダの裏側の垂木たるきに手をかけてベランダの縁まで移動し、そこからベランダの手摺に手をかけて手摺を乗り越え、ベランダの上に立った。


 ビージーは少し怖かったけれど、ケルビンの真似をして垂木に手をかけてベランダの縁まで移動した。

 そこでケルビンがビージーの手を取って、ベランダの上に引き上げてくれた。


「ケルビンありがとう。

 ここまで登ってきたけど、帰りはどうするの?」

「ここはちょっと高いから飛び下りるのは怖いと思うだろうが、薬を飲んだ俺たちなら飛び下りても大丈夫だ」

「下は石畳だったけど?」

「少し痛いかもな。訓練だと思って跳び下りてみろ」

「分かった。やってみる」


「それで、どうやってこの中に入るの?」

「出入り口がちゃんとある。そこから中に入る」

「カギはかかってないかな?」

「こういった場所の出入り口にはカギはかかっていないことが多い。特にパーティーのときはな」

「そうなんだ」


「隠れて外に出たがる者がいるんだ」

「外に出て何するの?」

「いろいろだ。

 ほら、そこに出入り口がある」


 ベランダの上を身をかがめてケルビンが移動し、出入り口の前で止まった。

 扉の取っ手を引いたらすんなり扉が開いた。


「入るぞ」


 ケルビンに続いてビージーも扉の隙間から建物の中に滑り込んだ。



 二人が立っているところは、吹き抜けの広間の壁に設けられた回廊で、そこから広間を見下ろすことができた。


 広間では、楽団が曲を演奏し、その曲に合わせて二十組くらいの男女が広間の中央で手を繋いで踊っていた。

 ダンスをしている周りでは、着飾った多くの男女がテーブルの上に並べられた料理をつまみ、グラスに注がれた酒を飲んでいた。


「すごい。これが貴族」

「ああ、そうだ。これが貴族だ」

「何でこんな贅沢ができるの?」

かねを持ってるからだ。その金は庶民からいろいろな名目で集めた金だ。それに薬の代金も膨大なものになっているはずだ」


「貴族でこれなら、皇帝はもっと贅沢しているの?」

「いや。皇帝は少なくともパーティーは開いていない。

 一人で飲み食いしてもたかが知れているから、贅沢はしていないと思う」

「そうなんだ。

 じゃあなんで皇帝は皇帝を続けているの?」

「確かに何のために皇帝を千年も続けているのかは謎だな。まあ、辞める理由もないから続けているというのが本当かもな。

 ビージー、誰かこっちに来る。そろそろずらかるぞ」

「うん」



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