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影の御子  作者: 山口遊子
第2章 仕事
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第15話 初めての夜3、カーリン家、青茸


 途中這い進まなくてはならない箇所もあったが、下水の側道の壁に空いた亀裂の中を二人は進んでいき、その先のレンガ造りの小部屋に出た。


「ここはカーリン家の屋敷の地下室だ」

「カーリン家?」


「帝国には大貴族の家系が五つある。それが以前にも言った五公家ごこうけだ。

 五公家ごこうけのことを単にハウスと呼ぶこともある。

 カーリン家はその一つだ。

 五公家ごこうけにはカーリン家の他に、ハンコック家、ブレナム家、セリオン家、そしてローゼット家がある。

 五公家ごこうけはそれぞれ帝都に屋敷を構えていて、ローゼット家以外の四家は屋敷の敷地の中で丸薬の材料になるキノコを一種類ずつ皇帝の命令で栽培して、それを使って丸薬を作っている。

 それが連中の力になっている。

 カーリン家はブルア、ハンコック家はベルダ、ブレナム家はルーガ、セリオン家はフラバの丸薬だ。

 ローゼット家はキノコではない何かを材料にして審問官用の黒の丸薬を作っている。ローゼット家ではその他に、一般向けのいわゆる薬も作っている。

 そして、その五公家ごこうけの上に君臨するのが皇帝だ。

 五公家ごこうけに属さない独立系の貴族がいないではないが、大抵の貴族は五公家ごこうけのどれかに属していると考えていい。

 それで、ここはカーリン家の屋敷の地下ということだ」


「ふーん」

「この部屋は使われなくなって久しい。

 下水の臭いが立ち込める部屋は使いたくないだろうからな」

「それはそうだね」


「扉を開けたら素早く外に出ろ。

 臭いが部屋からあまり漏れないよう、すぐに扉を閉めるからな」

「そういえば、下水の脇を歩いてた時も、あんまり臭いが気にならなくなってた」

「臭いというのは、そういうものだ。行くぞ」


 ケルビンは扉の取っ手に手をかけて素早く開き外に出た。

 続いてビージーも素早く外に出たところで、ケルビンが扉を閉めた。


 扉を出た先は最初の小部屋と同じくレンガ作りの細い通路で、通路の両側には同じような扉が並んでいた。

 燭台のようなものが等間隔に取り付けられていたが、どこにも火は灯されていなかった。


「この通路の先にキノコ園がある。そこで栽培されているキノコがブルアの材料だ。見た目が青いから青茸あおたけと俺たちは呼んでる」

「そうなんだ。ブルアはその青茸あおたけだけでできるの?」

「いや。もう一つ大切な素材が必要だ。いずれ取りにいく。

 その材料は、全ての丸薬を作る上で必須の素材なんだが、皇帝がその素材を独占している。

 だから五公家がたとえ力を合わそうとも、皇帝を脅かすことはできないし、皇帝の命令には逆らえない」


「いずれ取りにいくって、皇帝の物を取りにいって大丈夫なの?」

「面倒でもあるし、危険でもあるがなんとかなる」

「そうなんだ」


 通路を進んでいくと、突き当りに扉があった。

「キノコ園はこの先だ。ここのキノコ園の天井にはところどころに明かりが点いている」

「うん」


 ケルビンは、ベルトの小物入れの一つから鍵束を取り出し、その中の一本の鍵を扉の鍵穴に入れてひねった。


 カシャリ。


 小さな音を立て扉の錠が外れた。


 ケルビンは少しだけ扉を開けてその先の様子を見極め、素早く扉を開けてキノコ園に入った。

 ビージーもすぐ後に続き、ケルビンが素早く扉を閉めた。


「さっきのは合鍵っていうもの?」

「ああ」

「たくさん鍵があったけど?」

「ほかにも稼ぎ場所があるってことだ」

「稼ぎ場所って、さっきケルビンが言ってた公家こうけ?」

「そういうことだ」


 キノコ園は天井まで十五フィートくらい。奥行きは三十ヤード、幅は十ヤードといった縦長の倉庫のような地下室で、少し湿った黒っぽい地面がむき出しになっていた。

 天井のところどころからランプが下げられているだけなので、影の御子にとっては苦にならないが、普通人がそれだけの明かりで作業するなら、かなり暗い。


 キノコ園の中には、長さ五フィートほどの榾木(ほだぎ)(注1)が地面に三フィート程の間隔でくいのように刺さって並んでいた。

 その榾木(ほだぎ)の表面には、ぎっしりと表面がぬめった青いキノコが生えていた。

 確かに青茸(あおたけ)だ。



 二人の立っているのはキノコ園の端で、すぐ目の前に青茸あおたけの生えた榾木ほだぎがある。


「このキノコを採るの?」

「そうだが、俺たちがキノコを採ったことがばれないよう、慎重にキノコを採る必要がある。

 キノコの効用は大きくても小さくても変わらないので、なるべく目立たない小さなもので石突きの細いものを一本の木から二、三個採るのがコツだ」

「今まで見つかったことはないの?」

「これまで危なかったことは何度かあるが、見つかったことは一度もない。

 それじゃあ始めるが、ビージーは見ているだけでいいからな」

「うん」


 ケルビンはマントの内ポケットの中から布製の小袋を取り出し、腰の鞘からダガーナイフを抜き出して榾木ほだぎから慎重にキノコの石突き部分を切り離して袋に入れていった。

 一本の榾木ほだぎから二、三個キノコを切り取ったら次の榾木(ほだぎ)に移っていく。


 都合五十個ほど小型の青茸あおたけを切り取ったところで、ケルビンの持つ袋が一杯になった。


「よし。帰ろう」

「うん」



 キノコの栽培場から出る時はちゃんと扉に鍵をかけ、二人は来た道を戻っていった。


注1:

榾木(ほだぎ、ほたぎ) キノコを栽培するときに、種菌をつける原木のこと。



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