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59:紅く燃える

 紅龍国には二人の王子がいた。


 第一王子にして、王族の象徴である『龍の加護』をレベル2に昇華させた百年に一人の王の中の王、オージンさま……改め、実名をシュサクさま。


 そして第二王子のエンテさま。

 おとなしく温厚で、また非常に勤勉な方だったそうだ。剣の実力はシュサクさまの方が上であったが、魔法やその他座学においてはエンテさまの方が優秀な成績を収めていたらしい。


 まあ確かにシュサクさまって、じっとしていられないタイプよね。……うちの子供達と気が合うんですもの。魔法も座学も、地味な基礎訓練はサボってたんでしょうね。


 エンテさまは、シュサクさまよりも背が低く体も細いが、しかし灰のように白い髪と燃えるような金色の瞳は瓜二つだとか。兄のようにひょうきんではないが、決してナイーブでもない。自分を兄とは別の人格であることを自覚し、第二王子という自分の役割を懸命に模索していた……とても、話を聞く限りでは優秀な若者だった。


 エンテさまの話をするシュサクさまはとても誇らしげで、同時に、とても寂しそうだった。


「だがある日……エンテも『龍の加護』レベル2を発現することが出来るようになった。そら国中騒然さ」


 なんてこと……百年に一人の王が、同じ時代にもう一人現れてしまったのだ。


 紅龍国は第一王子派と第二王子派で真っ二つになった。


「国王の椅子なんてどうでもよかった。むしろ俺なんかよりエンテのような賢い男こそ王になるべきだと思っていた。……けどな」


 なんとも悲しそうな笑顔で、シュサクさまは肩を落とした。


「それ以上に、嬉しくなっちまったんだ。――『ライバル』の存在に、俺の心は高ぶった。しかもそれが弟だぜ? 『負けらんねえ!』って、それから俺は積極的に競ったわけだ」


 ふう、とため息を吐くシュサクさまの金眼が空を睨む。

 私は固唾を飲む。


「だがある日……エンテは、父上を殺した。第二王子派のクーデターだ。そして俺は……ノコノコと自国を逃げ去った」


 何がエンテさまをそこまで駆り立てたのか、それは分からない。だけどシュサクさまは、自分がいたずらに彼を煽った報いだと言った。

 変に対抗心を燃やさずに、王になど興味が無いのならすぐに王位継承権を辞退して、エンテさまのサポートに回るべきたったと……。


「まあ、結果的にエンテは王となった。あいつは頭がいいからな。きっとうまくやるさ……そう、思っていた」


 ――でももう既に、エンテさまの心は壊れてしまっていたのだ……。


 歴史に名を残す稀代の賢王と呼ばれるだろうエンテさまは、最悪の暴君として君臨してしまった――。


「俺は身分を隠して冒険者となり、各国を渡った。……世界を見て回った。もっともそれが出来たのは、バトラーのおかげさ。俺の剣術指南役として小さい頃から世話になってる。けどその前までは冒険者として、世界中を巡っていたらしい。その軌跡を辿ったんだ」


 そして……ゆく先々で聞くこととなる、紅龍国の悲劇。

 それは行商や旅の冒険者、あるいは逃亡兵。国を捨てた民……。

 内通者からの情報と照らし合わせて真偽を探るも、残念なことに、残念な情報の殆どは真実だった。


「国中の美女を集めて、一番最初に孕んだ者を妻とするとか……すげえこと考えるよな。もうあいつの兄だって口が裂けても他言できねえよ。クククっ」


 冗談っぽい口調で失笑するシュサクさま。その表情は何一つ笑っちゃいなかった。


「あいつの事だから、何か俺の理解が及ばない考えがあるのだろうとずっと言い聞かせてた。だけど税を引き上げ、軍を増強していると聞いて……いよいよ、俺も決断しなければならなくなっちまった」


 ――エンテは、世界中を巻き込んだ戦争を始めようとしている。


 俺はそれを、止めなければならない。


「手遅れになる前に、エンテを殺す……! 俺が紅龍国を正すんだ。もう逃げ回ってはいられない」


 シュサクさまが金色の瞳を決意に燃やした時――。

 突如として、彼の背から真っ赤な炎が立ち昇った。


 その炎柱から聞こえるのは、耳をつんざく咆哮――!?

 心臓が震えて、腰が砕けそうになるのを必死にこらえた。


 何事かと即座にシュサクさまを視認して……。


 絶句する。


「これが『龍の加護』レベル3だ。その身に宿る――龍神の召喚。かつてこれを成しえたのは、全ての龍国の始祖以来……俺だけだ」


 シュサクさまの頭上には、あまりにも巨大な、ドラゴンの姿があった。

 その圧倒的に長い身体はルビーのように輝く龍鱗を敷き詰めて、まるで太陽のように……熱く滾っている。


「もっとも、ついこの間まで……国を捨てて逃げ出した俺なんかがエンテに立ち向かおうだなんて、おこがましいとすら思っていた。奴にはここまでさせる信念がある。俺には……何がある?」


 頭をかいてシュサクさまは私を見る。


「そう思った時……カリン、お前の顔が浮かんだ」


 ……え!?

 私!?

 シュサクさまの顔が赤いのは、紅龍の鱗のせいか、紅龍自身の熱量によるものか。


「どんなに追い詰められても決して諦めず、自ら行動してその手に結果を掴んできた。冒険者になった理由だって、俺とは真逆だ。誰かのために、未来を変えるために動いて、そして想像以上の成果を収めてきた……俺も、そうありたい」


 ふうと一息。

 シュサクさまは、なんて大きな声で……。


「カリン! 俺が紅龍国の王となった暁には、俺の妻となってくれ! 俺の隣にはお前が必要だ!!!」


 プロポーズしてきたのだった。


 こんなに顔が熱いのは、きっと紅龍のせいだ……。

お読みいただき感謝でございます。

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