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51:また一難去ってまたまた一難

「――と、いうことがございましたの。本当にもう、疲れましたわ」


 我が家のリビングで、お母様が淹れてくれた甘い香りの紅茶を啜って、ようやくひと息つくことが出来た。


 ああ、懐かしのワックマン領……。

 行きで二日。冒険者活動一日。そしてその日におばさまは公爵さまと婚約を結ばれて、その瞬間に借金はチャラ。

 次の日にさっさと帰ってまた二日。


 合わせて五日間の、それはそれは楽あり苦ありの大冒険でしたわ。




 おばさまは、公爵さまと王子さまと共に行ってしまった。

 後日、結婚を正式に発表した後に、このワックマン領に挨拶に向かうとのこと。


 アルクは、目が覚めるとすっかり酔いは覚めたようで、あのおかしな口調ではなくなった。

 どうも記憶も無いようで……彼にお酒を飲ませるのはもうやめにしましょうね。


 カントはと言えば……まあ、当然といえば当然なのだけれど、ひどく落ち込んでいたわね。

 彼が気を失っている時におばさまとお別れをしたので最後に話すことも出来なかったし、帰りの道中でも、カントは一言も話さなかった。


 ……でも、きちんと前を向いて歩いていたわ。

 大丈夫。カントなら立ち直れる。


 それからカイン王子はこんなことを言っていた。


「ゲンブ・ワックマン殿は、聞けば大層な武人というじゃないか。会うのを楽しみにしているよ」


 え? あなたも来る気?


 乙女の唇を奪っておいてあっけらかんと……。

 今でも思い出す……彼の繊細なキス。ファーストキスなんて言うけど、そんなことは有り得ないでしょ。

 あー、顔が熱いっ!


 もちろん、キスの部分は内緒にして、お父様には全てお伝えした。

 お父様といえば……。


「ええ~! こりゃ大変だ。王子殿下と公爵閣下がこの地にいらっしゃるだってえ? こうしちゃいられないな。すぐにお迎えの準備をしなくちゃねえ! はっはっは! いやあ大変だ大変だ!」


 なぜか、めちゃくちゃ上機嫌にお二方を迎え入れようとしていた。なのでとても忙しそう。

 というわけで、私の旅のお話のお相手は、お母様と、我が家の食客二名に聞いてもらったのだった。

 ……ここでもキスは伏せておく。


「ほお……! なんとまあ、おとぎ話のような出来事でしたな」


 顎をさすって唸るバトラーおじさま。


「へえ、この国の公爵と王子ってのは、愉快な奴らなんだな」


 まったく、他人事のように言ってくれるわね。まあ彼らにとっては他人事なんですけどね。


 ……そういえば、忙しい時期に彼らと出会ったものだからあやふやにしていたけれど、この方達って……本当は何者なのかしら?


 お父様とバトラーおじさまが旧知であることは知ってるけど、だからといって彼らをずっとこの貧しいワックマン領に置き続ける理由は何でしょう?

 彼らも彼らで、冒険者のくせに何かをなさっている様子は見られないし……オージンさまに至っては完全に遊び感覚でバスターズを茶化しにきてましたからね。


 冒険者なら……僅か一日だけでしたけど、私もそうであったからわかる。

 黙っていられないのだ。


 気は昂り、よりいい条件の仕事を探したくて仕方ない! 簡単なクエストでもできるだけ報酬を底上げして貰えるようについつい過剰に素材集めや魔物狩りをしがちになる。

彼らの態度は、冒険者にしたらあまりにも余裕がありすぎるわ。


 実は冒険者のように振舞って身分を隠しているとしたら……?

 カイン王子達もウェストパインにはお忍びで来ていたと言うし、身分の高い者がそれを隠すのは当たり前にあることよね。


「……まさか、実はあなたも王子さまだったってことはないわよね?」


 ほんの些細な気持ちで、サラッと放った一言だ。話題提供とかジョーダンとか、そんな感情すら一切ない。聞き流されたって私も何も言わなかったことにしてこの話は直ぐに忘れてもいいものだった。


「ぶふううっ!? ゴホゴホっ! ガハッ! は、はああああ!?」


 オージンさまは、飲みかけの紅茶を盛大に吹き出して、激しく動揺した。


 …………ええ?

 な、何この反応……?


 オージンさまは、まるで私が初めてバスターズの訓練場で彼を見つけた時のような「あ、やべっ」とした表情を見せていた。


 そしてバトラーさまは、頭を抱えて深いため息をつく。




「出てこいッッ! ワックマンのゴミ共がああああ!」


 その時。

 屋敷の扉が破壊されたかのような荒々しい轟音とともに、地獄の底からひねり出した声色の、恐ろしい怒気のこもった絶叫が屋敷中に響き渡った。


「お? なんだなんだ!? みんな行くぞっ!」


 これ幸いと、オージンさまはすぐに現場へと向かっていった。

お読みいただき感謝でございます。

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