28:おとめごころ
しばらく、互いに何を話すこともなく、ただただゆっくりと湖畔を歩いた。
歩幅の違うオージンさまに、繋いだ手を引かれる。手を離さないようにと、ぎゅっと握れば、オージンさまもそれに応えて握り返してくる。
少しでも足場の悪い場所を歩くとなれば、私を振り向いて気を使ってくれている様子だった。
ふうん、意外と紳士なのね。
会話がないから、そんなふとした仕草で彼の人となりを判断するのを遊び感覚で楽しんだ。
一歩踏み出す度に彼の装備の金具がカチャリカチャリと音を立てる。そのリズムを、もう耳が覚えてしまった。
ただ手を繋いで、歩く。
あれほどお話がお上手なオージンさまが珍しく何も喋らないので会話はなく、繋いだ手が温かい。
「……帰ろうか」
空がオレンジ色に変わる頃、オージンさまがそう言うので、私は黙って頷いた。
馬に乗るまで、手を繋いで歩いた。
「――って何がしたかったの!?」
夜。
枕に顔を埋めながら、今日のあの時間を振り返って声を荒らげる。大声は枕が音を吸収して辺りに響くことは無かった。
オージンさまのことだから、デートと言いつつ、てっきりなにかイタズラを考えていらっしゃるのかと思っていたのに……。
本当に、ただのデートみたいだった。
……え? え? ええ?
まさか、オージンさま……?
私の事、好きになっちゃった?
――いやいや、それはないわね。
あの湖畔で見せた顔は誰かを想うというより、どこかもっと思い詰めていたような暗い表情だったようにも思う。
――いや?
私に想いを伝えるのが怖くて……悩みに悩んだ結果、結局何も言えなかったという可能性も……。た、確かにそんな儚い表情にも見え、なくもなかったかしら?
ええええ、マジですの?
あーあ、やーめた。
こんな下らないことを考えていたって、なんにもなりませんわ。
仮にオージンさまが私を好きだったとして、それで、どうしたというのかしら。
彼はしょせん旅の冒険者。どうせお付き合いなんてしても、遠くに行ってしまえばここへ戻ってくる保証もない。
ずっと私を想い続けてくださる保証も……っ!?
だっだからやめたと言ってるじゃないっ!
もうこの話はナシよ! ナシ!
あーもうなんだか、モヤモヤするわね!
オージンさまったら、私を弄んでどういうつもり!?
これはもう、明日は子供たち相手に鬱憤を晴らすしかないわね……。
せいぜい私のストレス発散に付き合ってもらうわ。覚悟なさい!
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