新しい一年
年も明け、今日から仕事始め。
気持ちも一新、会社へと向かう足取りは軽かった。
憂鬱と感じる人もいるかもしれないが、私は仕事が好きだ。
子供の頃からの夢だったスタイリスト…
一度は夢を叶えスタイリストとして働くことが出来た。
──あんなことが起こるまでは…
佐倉 あかり、29歳。
アパレル会社に勤めるOL。
順風満帆ではないものの、それなりに幸せな毎日を過ごしている。
好きな服に関する仕事に、付き合って8年になる彼氏もいる。
特に不満はないが、最近その彼とはなかなか会えていない。
正月休みも忙しいらしく一度も会うことは無かった。
普通なら、寂しいや会いたいと思うのだろうけど、長年付き合っているとそういう事も言いづらくなる。
さらに言えば、私はあまり寂しいとも思わなくなってきている。長い月日を共にして信頼しているからと言えばそうなのかもしれないけど、多分これはマンネリだ。
長い間付き合っていれば仕方ないことなんだろうと納得させている。
まあ、自由な時間を過ごせるしと気持ちを切り替えている部分もある。
「あけましておめでとう!今年もよろしくねー。」
元気な声と共に背中を叩かれた。
「友里さんっ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。…痛いですよ。」
ははは、ごめんごめん。と笑っている彼女は 山川 友里さん。
同じ会社の同僚でもあり、スタイリスト時代の先輩でもある。彼女もまたスタイリストを辞め現在はOLだ。
面倒みもよく、飾らない性格でとてもいい先輩。仕事が楽しいと思えるのは彼女がいるおかけでもある。
「休みの間は会ったの?彼氏?」
「あー、忙しかったみたいで中々時間も合わなくて。私も実家に帰ってましたし…」
「あかりさ、もう何度も言うけどー、別れたら?長い正月休みの間1回も会わないなんてさ、それ…浮気だよ!浮気!他に女いるって、絶対!!」
あまりにもはっきりと浮気と言われてしまい心がチクリと痛んだ気がするけど、友里さんとしても心配して言ってくれているのはわかってる。
「…絶対ですか?」
「絶対!!もう200…いや1000%浮気!」
「ふふふ」
全力で浮気だと説得してくる友里さんの熱が凄すぎて笑ってしまった。
「いや、笑ってる場合?あかりはそういうとこ本当に甘いんだからー」
はい、すみません。と笑顔で友里さんをかわしてオフィスに向かう。
浮気を疑っていない訳では無い。きっとそうなのだろうと思っている自分もちゃんといる。
ただ私は、向き合うのを逃げているのかもしれない。
綺麗な部分だけを切り取って、嫌な部分には蓋をして…
自分が傷つかないように、何とか逃げ切ろうと思っているんだろう。