表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏のホラー2020

トレイン in 20XX

 雑誌を読んでいたボクは、肩をつつかれた。

「はい?」

 白髪のおじいさんが立っていて、ボクの背後を指差している。窓ガラスにはプライオリティの文字と共に、杖をついた人のマーク。

 ゆっくりと腰を下ろしたおじいさんの満足そうな顔を残して、ボクは別のシートへ向かう。

 手摺にもたれて微睡んでいたボクは、肩を揺すられた。

「はい?」

 銀歯きらめく老婆がボクの体を押し退ける。

 どうやらこれも優先席だったらしい。

 仕方なく他の空席を探す。

 乗客の九割が老人だった。

「やっと見つけた」

 ボクが座ろうとすると、

「待ちなさい」

 口髭の立派な翁が制止した。

「なぜです」

「そこは私が座るのだ」

「そんな、ボクが先にこの席を」

「四の五の言わずに退きなさい。あなたはまだ若いでしょう」

 翁は強引に座席へ体を捩じ込んだ。

 途方に暮れたボクはつり革に掴まって電車に揺られる。

 近ごろ足腰が痛む。辛いのは年寄だけじゃない。

 鬱憤と退屈さを紛らすために、壁に貼られた広告をなんとなしに眺める。


「百歳からの通信口座。二百歳になってからでは遅い。やるなら今でしょ」

「百歳からの美容整形。二十代のころに戻そう!」

「百歳からの投資術。年金があったころなんて忘れろ、縛られるな」


 百歳からのシリーズが流行りの日本は、地震でフォッサマグナから二つに割れてしまった。

 消費税三十パーセントを打ち出した東側は経営破綻して、海外からたくさんの移民が流入し、乗っ取られてしまったも同然だ。

 翻って西側はと言えば、メタンハイドレートでなんとか生計をたてられるけれど、血気盛んな若者たちは東側に行ったきり戻ってこないから、そろそろ採掘の人手がなくなるだろうし、遠くない未来に枯渇するとのことだし、どのみち終わりだ。

 優先席ばかりの電車だって月に何度走るか分からない。

 こうなったら早く年をとりたいものだ、あと二十年すれば流行りに乗れるのに。

 車窓に反射するしみだらけの顔は、百歳になったら整形でもしてやろう、白髪のボクはほくそ笑む。(了)



さよなら、ボクらのふるさと



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のこの企画、中吊り広告を扱ったのはまだ見ておりませんので思わず微笑みました。 医療が充実したこの先は老人の人口比率が多くなるでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ