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私は不幸を呼ぶ

 望月 夕歌。彼女はとにかくついていない(不運な)少女である。


 物心ついた頃には彼女の身の回りでは不運な出来事がよく起きた。


 小学校の時の林間学校では終始雨に見舞われた。

 プール授業の日はかなりの頻度で雨が降って中止となった。


 酷い時には中学最後の修学旅行の直前にクラス内でインフルエンザが流行り、修学旅行そのものが中止となった。


 不運はタイミング悪く、しかも周りを巻き込んで起きてくる。

 いつしか、彼女は周りから『不幸の魔女』などと呼ばれ、周りから距離を置かれるようになったのだった。

 そして彼女も自分が周りを不幸にすると思い込むようになっていった。


 それでも不運はもたらされ、周囲は不幸になる。

 そんな彼女を周囲は責め立てた。所謂いじめが起きた。

 持ち物を隠されるのはほぼ毎日。

 悪質な内容が書かれた手紙が送られ、体育の授業では偶然を装って怪我を負わされそうになったことも一度や二度ではない。

 観念してそんなことを語る彼女を晴喜は黙って聞いていた。




「んで、オレのチャリのチェーンが外れたのは自分のせいだと」

「はい...」

「昼休みやさっきオレがすっ転んだのも?」

「そうです...」

「運動会の大縄跳びで足を引っ掛けたのもお前と?」

「その通りです...」

 次々と放たれる晴喜からの質問に夕歌はどんどんと俯き沈んでいく。


「バカかお前?」

「ええ!?」

「何でチェーンやすっ転んだのがお前のせいなんだよ!」

「だから、私が周りに不幸を...」

「アホか!」

「あいたっ!」

 脳天に振り下ろされたチョップに怯む夕歌。

 過去語りに対する反応はある意味普通の反応かもしれない。

 しかし、現にその日のうちに不運に見舞われたのも事実である。

 人によっては信じてしまいそうになるが、晴喜には全く信じる余地はなかった。


「んじゃ聞くが、お前はオレのチェーンに細工でもしたのか?」

「いえ....」

「オレが転んだのもお前が仕組んだのか?」

「いいえ....」

「大縄跳びで足引っ掛けたのはわざとか?」

「違います....」

「じゃお前のせいじゃないな」

 そう断言されると夕歌にはもう反論することは出来なかった。


「って、オレが聞きたいのはそのことじゃねー!」

「ええ、だって聞いてきたのはそっちじゃ..」

「それのことだよ、それ!」

 晴喜が指差すのは夕歌が大事そうに抱えるノート。

 先程読んだ童話のノートである。


「こ、これですか?」

「そうだ」

「えっと、これは...」

「お前が書いたのか?」

「は、はい!」

 詰め寄る晴喜にたじたじの夕歌。

 物理的に近寄ってくるので思考回路がショート寸前。


「続きは?」

「.......え?」

「だから〜続きは書いてあるのかって聞いてんだよ!」

「いえ、その...まだ書いてないです」

「そっか〜」

 今度は晴喜が落ち込み始める。


「あの、どうして続きがあるか聞くんですか?」

「は? 何言ってんだお前。普通に続きが読みたいからに決まってるからじゃん」

「でも、どうして続きが読みたいんですか?」

「いやだって面白いし」

「お、面白い...」

「うん」

「ほんとですか!」

「ん? 嘘つく意味ないだろ」

 今度は夕歌の方が詰め寄ってきた。晴喜は何を驚いているのかと首を傾げたくなった。


 とりあえず図書室の鍵を返し、二人は校舎を後にした。

 ちなみに、図書室は夕歌が開けたものであった。図書室から借りて返却期限が迫っていた本があったので、その返却のために鍵を借りたとのこと。彼女自身図書委員だったのですぐに借りれたらしいのだが、ついでに本を少し読もうとしてしまい、そのまま開けていた時に晴喜が訪れたということだ。


 晴喜が知ってる喫茶店があるからそこで話の続きをとなり、いつの間にやら一緒に下校することとなった夕歌。

 冷静になって考えるとクラスのリーダー的存在(本人は全く無自覚だが)で異性から誘われてお茶をするというのは傍目に見たらどう思われるのか。

 再び思考回路がショートしそうになるが、傍らで話す晴喜を見ると不思議と落ち着いてくる。

 無邪気に今日の放送の後にあった教頭先生からお説教を受ける校長先生とクラス担任の藤原先生の様子を語り、気づけば緊張はなくなっていたことに夕歌自身が気づくのは喫茶店についてからである。


 学校から少し距離がある所に建っている喫茶店。こぢんまりとして雰囲気があった。


「さ、入ろうぜ」

 そう言ってドアを開け、敷居に一歩踏み出す。


 途端、

「遅い!」


「だぎゃっ!?」

「っ!??」

 前振りもなく飛んできたトレイが晴喜の額に直撃し弾き飛んだ。

 仰け反るもなんとか倒れるのを堪え、涙目で晴喜は店の奥を見た。


「つぅっ、てぇ〜〜何すんだよ姉ちゃん!」

 奥にいた人物に晴喜は文句を言う。

 が、それを無視するトレイを投げつけてきた女性。

「うるさい。今日は早く帰ってくるようにと言ったでしょうが...」

「チャリ直すから遅れるってメールしたじゃんかよ!」

「おだまり! それでも遅いのよ。どこ道草食ってたのやら..」

「ク、クラスメイトを連れて来たんだよ!」

「どこにいるのよ?」

「どこって、後ろ....」

 額をさすりながら晴喜は後ろを振り返る。すると後ろで立っているはずの夕歌はいなかった。


 晴喜は思い出す。

 投げつけられた円盤型のトレイはフリスビーのように回転しながら飛んできた。

 額に直撃し、それが後方へ弾かれたとしたら、晴喜の後に出た声なき声は.....


 “ちーん”

 思わずそんな効果音を出してやりたくなる感じで目を回して倒れる夕歌。

 傍にはトレイ。


「あああああーーー!!! 望月ぃーーーっ!!!」


 




「ごめんなさい!」

 喫茶店に入り、手当てを受けると目の前で女性が頭を下げてきた。

 夕歌からするといきなり何かが飛んできて直撃して気絶してしまったので経緯が分からなかった。

 その後、改めて晴喜から事情を聞き理解すると、女性の謝罪を受け入れた。


 改めて、目の前の女性を見る。

 長い髪を後ろで結い、化粧っ気がないけどその凛とした佇まいから見惚れる美貌があった。異性はもちろんのこと、同性からも人気がありそうな印象である。

 服装は店のと思しきパンツスタイルのもので女性の雰囲気にマッチしていた。


「どうぞ」

 そんな風に考えていると着いていたテーブルにコーヒーが置かれた。

 コーヒーを置いた手を追うと、そこには物腰柔らかそうな男性が笑顔を浮かべていた。

「お詫びにはならないけど、サービスです」

「あ、ありがとうございます」


「悪いな望月。うちの姉ちゃんが...」

「え、お姉さん?」

「ああ、ここ両親が経営してるんだ」

「ええ!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「ったく、あんたは...」

 晴喜の言葉に呆れる女性こと、晴喜の姉。


「本当にごめんね。あたしは青葉(あおば) 夏愛なつめ。この馬鹿弟の姉よ。結婚して姓は変わってるけどね」

「馬鹿って何だよ、馬鹿って!」

「じゃ愚弟」

「ひでぇっ!」

「こらこら二人共、そこまでにしなさい。お客さんの前なんだから」

「「すいません」」

 口論になりかけた晴喜と夏愛はあっさりと鎮められた。


「ああ、自己紹介がまだだね。僕は青葉(あおば) 海斗(かいと)。夏愛とは五年前に結婚してね。以降はこのお店で働いているんだ」

「あ、はい...」

「ちなみに、姉ちゃんは元暴走族(レディース)のヘッド。けどカイ(にい)とは小学校の頃からの付き合いなのもあって頭上がらねーしベタ惚れだから本当手を足も出なブベッ!」

 夕歌の耳元で話しかける晴喜に夏愛のトレイの一撃が決まる。


「余計なことを言うな」

「こら夏愛。やりすぎだよ」

「う....ごめんなさい」

「しかし、ベタ惚れとは嬉しいな。ま、僕もだけどね」

 そう言って夏愛の腰に手を回し引き寄せる海斗。

 夏愛の顔は一瞬で真っ赤になり気絶しそうだった。


「な」

「う、うん」

 そんな二人を傍目に面白がる晴喜と納得の夕歌。




「しかし、晴喜が彼女連れてくるとは思わなかったわ...」

「ッ、ゲホッ、ゴホッ!」

「ちょ、大丈夫?」

 さりげなく呟いた夏愛の言葉に夕歌は危うく飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになり、むせてしまった。


「いえ、あの私、朝日くんの彼女じゃ...」

「何言ってんだ姉ちゃん。クラスメイトって言ったじゃん」

 夕歌の訂正の言葉を割り込むように姉の言葉を否定する晴喜。

 何をとぼけているんだと言った顔で心底不思議がっていた。


「うう...」

 そんな晴喜の言葉に凹む夕歌。

 別に想いを寄せていた訳ではないとはいえ、こうも食い気味に否定されるのは悲しくなってしまう。


「ああ、気にしないでね。(はる)くんは単に君に失礼だと思って訂正しただけだから」

「ん、わざわざ何言ってんだよカイ兄。勝手なこと言われたら望月が迷惑しちまうんだから訂正すんのは当然じゃん」

 夕歌の様子に気づいていち早くフォローする海斗。そしてそれに肯定する晴喜。しかし、義兄がわざわざ説明する理由の方は分からなかった。


「なんか、ごめんね。望月さん」

「いえ、大丈夫です」

「こいつがさ、女の子連れてくるなんて初めてだったからさつい舞い上がってね。今までだと、幼馴染の健太郎くんがよく来るくらいだからさ」

「あ、荒井君はよく来るんですね」

「そうだよ。うちで出すスイーツを研究していったり、一緒に新しいレシピの開発をしたりしているよ」

 海斗の説明に得心がいく。確かに健太郎は手作りのお菓子やらをクラスで披露することがよくあった。実際、今日の午前中にも氷菓子の類いを持ってきていたし。


「じゃあ晴喜、なんでこの娘連れてきたの?」

「ああそれはこいつの書いた「あの!」

 夏愛からの質問に答えようとする晴喜を今度は夕歌が遮った。


「えと、その....」

 しどろもどろになり、そこから何も言えず往生してしまう夕歌に鈍い晴喜もようやく感づいた。


「悪い姉ちゃん。望月とはオレの部屋で話すから。行くぞ望月」

「は、はい!」

 その言葉に漁夫の利を得た夕歌は急いで晴喜の後を追い、二人は店の奥に繋がる朝日家の敷居を跨ぐのだった。


「何かしら、あれ?」

「なんだろうね?」

 首を傾げる夏愛と微笑を浮かべ同じく首を傾げる海斗。






「そっか、物語書いてんのは秘密にしてたんだな、ごめん」

 部屋に着くと早々に晴喜は謝罪する。

 一方、夕歌は夕歌でとんでもないことになったと気が気でなくなりそうだった。


 同い年の異性の部屋にお邪魔するなんて、生まれてこのかた初めての経験である。

 緊張から目が泳いでしまい、ついつい部屋の中の様子が頭に焼き付いてしまいそうだ。


 乱雑に置かれたマンガなどの本の数々、無防備にベッドに置かれた寝衣と思われるタンクトップとハーフパンツ、枕元には小型のCDプレーヤーとCDケースが数枚置いてある。

 そして最後に目についたのは窓際にあるレコードプレーヤーとそれを乗せている中身が詰まったレコード用の棚。


「ん、あれか? 前は店で使ってたんだけど、新しいのを買ったからオレがもらった」

 彼女の視線に気づき、晴喜はレコード棚からケースを取り出した。

 その言葉に、夕歌もそういえば店の中に蓄音機タイプの本格的なレコードプレーヤーがあったなと思い出す。


 そんな回想を終えると晴喜は取り出したケースの一つからレコードを出していた。

 ジャケットは傘を持った女性と手を繋ぐ少女、少女と手を繋ぐ少年の絵が描かれたもので随分と古い紙のケースのようでかなり草臥れていた。


「あ、それってミュージカル映画の..」

 ジャケットに書かれた英語タイトルに気づいた彼女に晴喜はニヤリと笑みを浮かべてセットする。


 レコードが回り、針が置かれると部屋に曲が流れ出した。

 夕歌の脳裏に映画のシーンが思い浮かぶ。以前レンタルして観て面白かったのでその後も何度かレンタルしたなと思い出す。


「オレもこの映画好きでさ。特に煙突掃除とへんてこな早口言葉の歌の所が好きだな」

 そのシーンは夕歌も好きだった。後者の方は実写とアニメーションを合成するという珍しい手法だったので子供の時はその早口言葉を素早く言えるようにこっそり練習したこともある。


 確かこの歌は原作には無く、映画オリジナルのもので、当時映画製作側と原作者側で揉めたこともあったらしい。




「んで、物語の続きは?」

「へ?」

「いやだって、それが聴きたくてここに来たわけだし」

 来たのではなく、連れてこられたのではと思ってしまう夕歌であった。しかし、このクラスメイトは続きを話すまで帰してくれそうにもないと思った。


 なので、夕歌は精一杯の勇気を振り絞り正直に話すことにした。

「続きは、ないんです」

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