ひび
私の名前はルミナ。
王都ソルディアに住むしがない大魔導士。
そんで王都ソルディアといやあ大陸の中心にして世界有数の都。
でっかい魔法学校がシンボルの魔導都市だ。
ガッコに通う為に田舎から出てきてから10ウン年。
一介の冒険者になってからも私はここに住んでいる。
―――態々出ていく意味も無いしネ!
何かと仕事もあるし、このへんの人との付き合いも長いし、揃うモンも揃ってる。
ちょいとばかしガッコに戻れば本だって読みほーだい!
中々の理想郷である。
よっぽどのことがなきゃ移住とか考えたくないなぁ。
そんな日々を続ける為にもおカネが要る訳ですので。
今日も私は仕事を探しに行くのだ。
冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ここはいつだって活気とやる気に満ちた冒険者で溢れかえっている。
私だってそのひとり。
「おやっさーーーん!いい仕事ありますかーーー!ちゃちゃっとおわるやつーーー!」
「おう嬢ちゃん!ねえぞ!」
ないのか。
困ったな。
「私スタミナないですからねー。ばーっと行ってささっと倒して悠々と帰ってこれる仕事しか受けられないんですよー」
「そう言って近所の巨大魔物狩り尽くしちまったから仕事がねえんだよ」
「くっ…私が有能なばかりにっ…!」
「有能だってんならその腕輪無しで魔法撃ってみやがれ」
「むりですよ?」
「だろうな」
そうなのだ。
最高出力、適正魔法、操作精度、詠唱速度、応用力。
私には才能があった。
大体の基礎魔法は使えるし、応用魔法だってけっこう身に着けた。
大抵の魔物は一撃で吹っ飛ばせるし、コントロールもカンペキ!
そんな新進気鋭の天才大魔導士であるところの私にはとある才能が欠けていた。
「魔力量」。
致命的だ。
どんなに強力な魔法も、リソースが無きゃ使えないのである。
しょうがないので私は消費魔力を肩代わりしてくれる腕輪を装備している。
ちびっこの頃からの相棒だ。
けどコイツも大概スタミナがない。
大体3発、悪けりゃ2発、調子に乗って大魔法を使おうがものなら一発でガス欠まである。
そのせいであんまり遠くまで仕事に行けない。
こういう補助具は使い切ったら専用の道具で魔力を充填する必要があるからだ。
補給が難しい上に弾数も少ないとあれば遠出して仕事をこなすのは不可能。
一応ガス欠した時用に剣も持ってるけど、こっちの才能は無かったので殆ど飾りだ。
「王都の中心にドラゴンとか降ってきたらおいしいんだけどなー」
「物騒な事言うんじゃねえよ」
「お仕事が欲しいのですよおやっさん」
「仕事自体はたんまりあるぞ」
「掃討依頼とか出されてもMPがたりないんですよ」
「群れに魔法ブチかましてやりゃいいじゃねえか」
「そんな都合よく集まってくれないし広域魔法は消費が重いんですよ」
「それで大物狩りしか受けないのか」
「でかいのはイチコロですからね」
「良く知ってる」
「えへへ」
「大型魔物だけいなくなったせいで小型魔物がのさばってんだよ」
「それで掃討依頼が多いのかー」
しかしまいった。
この調子では暫く(私がこなせる)仕事は入ってこないだろう。
幸い貯金はそこそこあるのでのんびりするのも悪くは無いけど…
そいつは、つまんないな。
「ふっ…おなやみのようだねルミナ…」
背後から親友の声がする。
そうだ。
私達はいつだって助け合ってきたのだ。
「ぼくとルミナがそろえば大体なんとかなるって…きまってるからな…!」
「ハルちゃん…!」
ハルちゃん。
ガッコ行ってた頃からの親友だ。
ちょこんとした背丈を遥かに超える程の杖を手に仁王立ちする魔導士。
彼女もまた、才能ある魔導士だ。
…まぁ、彼女にも欠点はあるんだけど。
「ルミナだけでは撃ち漏らしに対処できないしぼくだけでは押し返されてしまうが…」
「私たちが揃えば…」
「「いける…!」」
「おやっさーーーん!私たち、この依頼、受けまーーーす!」
「あいよ。ゴブリン軍団掃討、頑張って来いよ」
「おっしゃ行くぞぅハルちゃん!」
「バックアップはまかせろ…!」
私たちは駆けだした。
―――私たちが揃えば無敵だぜ。
その想いが、私たちに力をくれるのだ―――!
***
‐近所の森‐
「まずぼくたちはゴブリンをひとまとめにするひつようがある」
広域魔法は2発までしか使えないからね。
「よしハルちゃんまかせた」
「むろん。そのためのぼくだ」
「頼もしいぜ」
「あまりほめるな…む、11時のほうこうにゴブリン。けいかいせよ」
ハルちゃんの目線の先を見るとそこには確かにゴブリンが2体。
近辺にそれ以外の気配は無い。
哨戒、って感じかな?
「おどかしてみるか」
ハルちゃんの杖から風が吹く。
突き抜けた風はゴブリンの背後の樹をガサガサと揺らして音を立てる。
その音に驚いたゴブリンが辺りを見回す。
「ふ、ではもうひとつ」
再びの風。
ゴブリンがギャアギャアと叫んで森の奥へと駆けて行った。
「仲間をよびにいったか、くくく」
「あとはこれを何度か繰り返すだけだね」
「そのとおり。さぁつづけるぞ」
森を進んで行く。
ゴブリンたちはギャアギャアと叫びながらも足を止める事はない。
ハルちゃんは絶えず風を起こし、周囲のゴブリンを誘導していく。
最終的に森の広場に抜けた。
目の前にはゴブリンがたーくさん。
腕が鳴るぜぃ。
「足止めはまかせろ…“エアロバレット"…!」
ハルちゃんがゴブリンを突風で押し止めて牽制してくれる。
今がチャンスだ。
相棒に手を当てて魔力を編む。
ゴブリンの耐久は大したことは無い。
範囲の広い中級魔法が有効だろう。
「喰らえ…"レイブレード"っ!」
魔力を解放すると共に広場に現れた光剣がゴブリンを薙ぎ払う。
光の軌跡と共に真っ二つになったゴブリンの鮮血が宙を舞った。
「ちょっと残った…サポートお願い!」
「にがさん…“ライトスピア”!」
逃げ出すゴブリンの脚にハルちゃんが作り出す光槍が突き刺さる。
威力は低いが少しでも足を止められればーーー!
「“ブラッドチェーン”!」
ハルちゃんの魔法で体勢を崩したゴブリン達が地面から這い出る沢山の鎖に貫かれていく。
コイツは散開する敵には有効だけど一度に出せる量が限られてるからあんまりにも敵がいるとカバーしきれないのだ。
「これで全部…かな?」
「そもぼくたちじゃこれ以上でてこられても対処できん」
「それもそうだね」
「ぼくの魔法はくそざこだからな」
「MPは羨ましいけどねー」
「ぼくのせりふだよ。MP以外かんぺきの魔導士」
「分けてあげたいよ」
「どうかんだ」
ハルちゃんは「出力」が足りなかった。
どんな大魔法を使っても基本魔法と同程度、どころか一般的な魔導士が放つソレより低い威力の物しか使えないのである。
無論ハルちゃんはそれ以外は完璧の天才大魔導士で。
ハルちゃんと私が親友になれた理由はそんな感じで似た物同士だったからなのさ。
ちなみにハルちゃんは基本魔法を好んで使う。
聞いてみると、「威力のともなわぬ大魔法なぞあつかいづらいだけだ。小回りがきくのがいちばんなのだよルミナ」
と言ってた。
私は一撃でなんとかしないといけないので逆なのだ。
「しかしこれで依頼もくりあ」
「おさいふが潤うねー」
「ではかえろうルミナ。おやつがぼくたちをまっているぞ」
「そいつは魅力的っ…ちゃっと帰るぞハルちゃん!」
そうして行きと同じ様に私たちは駆け出す。
昨日も今日も、大体こんなもん。
友達や仲間と一緒に過ごして。
稼いで、遊んで、食べて、寝る。
そんな日々。
仕事はちょっと危ない時もあるけれど。
そんなソルディアでの日々が、私は何より好きなんだ。