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あの日へ


「ごめんね…やっぱり私たち…別れよう。もう、もう待てないよ…」


何度目だろう。

目の前でこの女性ひとを泣かせるのは…


高校1年の夏


蝉の煩い季節に彼女は転校してきた。


席が隣同士ということもあって、すぐに仲良くなり2年の春から付き合い始めたがそこからは別れたり、よりを戻したり


高校生の恋愛なんて、そんなものだろうと思っていた時もあったが


結婚という選択肢も考えられる歳になって、初めて彼女という存在の大切さとあの時ああしておけばこんなことにはならなかったのだろうかと


そう、後悔が止まらない。


「ま、待ってくれ…伝えたいことが…」

「ごめん…」


一言小さく呟いて、彼女はその場を去って行く。


「待ってくれ!」


すぐに彼女を追いかける。12月の街は人通りが多く、通行人にぶつかりながらも走る。

雪がちらつき、悲鳴をあげるほど体にあたる風は冷たい。


ほんの数メートル先、横断歩道に彼女が差し掛かった時信号が赤になるのを見た俺はなにも考えられず、植木を超えて彼女のところまで道路を斜めに突っ切る。


彼女に追いつき、手を掴んだ瞬間、大きなクラクションが鳴り響き

車のヘッドライトが一瞬見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……?俺は生きているのか?

どこだここは、病院の…廊下?

いや、それにしては長すぎはしないだろうか?部屋も窓もなく延々と続く薄暗い廊下。

病院だと思ったのは、小さい頃から嫌いだった病院特有の匂いと壁に張られたポスター類からだ。


「聞こえますかっ?大谷おおやさん!」


大きな声で、叫びながらなにかを押した人たちが俺の体を()()()()()廊下の奥へと進んで行く。


「大谷って…俺のことだよな…それに今、体をすり抜けて…」


「自分の名前わかりますか!私の声が聞こえますか!」


また、別の集団が同じように叫びながらなにかを運んでいる。


今度はソレを、はっきり確認できた。

何名かの看護師や医師に運ばれるベッドの上からだらりと垂れた腕。


あぁ…くそっやっぱり、俺は死んだのか?

それに…彼女も


恐らく、彼女のものと思われる腕には手首から先が無かった。

急にこの場所にいるのが恐ろしくなってきた。

戻りたい…まだ、死にたくない…


できることなら彼女と別れるよりももっと前…

やり残したことも、間違えてしまった失敗もたくさんある。一番人生で楽しかった、あの時に…


そう思ってももはや遅いのだろう。だんだん体の感覚が無くなり、目の前が真っ暗になる…


「せめて…君だけでも助かってくれ…けい


意識も薄れ、だんだん音も聞こえなくなっていく

目の前は真っ暗で手足を動かすこともできない。


怖い


恐怖で押しつぶされそうだった。







嫌だ。やはりこんなところで死にたくない。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。



















「嫌だーーーーーーーーーっ!!!」


ガタッと立ち上がり、大声で叫んだ。


「なんだ!どうしたんだ大谷!急に叫んで」

「へっ?あれ俺なんで生きて…あれ?ここは」


ぼたぼたと零れ落ちる涙をぬぐって、あたりを見渡すと妙に見慣れた顔と風景が並んでいる。


蝉の声が響き、カッターシャツが嫌にベタつく。

窓の外には日差しから隠すかのように、大きな木が揺れており部屋全体を影で包んでいる。


忘れるはずもない。


彼女との高校生活を過ごした。思い出の場所でもあるのだから



俺は立っていた。高校1年生の夏。





彼女が転校してくる直前の教室に




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