望みうる最善(4)
穏やかに天気の話でもするような調子で、スカーレットはジルベルトとの離縁、ひいてはジョナタとの復縁をほのめかすようなことを告げている。
そう理解したとたん、エヴェリーナは頭に熱がのぼるのを感じた。かろうじて微笑の仮面で怒りを押し隠す。――だが、いつものような曖昧さを保てない。
「お言葉ですが、スカーレット様。わたくしはジルベルト殿下の妻となったことに、まったく疑問も悔いもありません。第一王子の妃、ジルベルト殿下の妻――それは、わたくしにとって、この先など考えることすらない最高の地点です」
頭にのぼった熱を、そのまま強い笑みに変えることでかろうじて堪える。
――スカーレットはどういうつもりなのか。
ジルベルトの妻になるために影で助力してくれたと聞いていたのに、それは嘘だったのか。真意は逆のところにあったのだろうか。
笑みを保ちながら、エヴェリーナは相手をうかがう。
スカーレットの目が見開かれ、ぱちぱちと忙しなく瞬く。そして――これまでとは違う、一際鮮やかな笑みを作った。穏やかな陽射しが、鮮やかな火となって燃え上がるかのようだった。
「私はね、エヴェリーナ。妥協が嫌いなの」
凜とした声が、エヴェリーナの耳に響く。
スカーレットの変貌に、エヴェリーナは虚を突かれて言葉を失っていた。
耳の奥で、聞いたばかりの言葉が谺する。
――いつか聞いたジルベルトの言葉と重なる。
とたん、目の前にいる女性がまるで別人に思えた。
結い上げられた見事な赤毛は、咲き誇る薔薇のように映る。
「手が届くなら頂きへ行く。届かなくても、頂きを目指す。――望みうる、最善のものを手に入れる」
決して大声ではない、だが激しさを内に秘めた声だった。美しい唇には鮮烈な微笑が浮かぶ。
その唇から、ほのかな郷愁と苦笑いのまじったような声がこぼれる。
「……私は、幼い頃は性別を間違って生まれてきたと言われていたの。体を動かすことも、乗馬も、勉学も好きだった。お前が息子だったらよかったのにと、お父様には何度嘆かれたか知れないわ。何も知らなかった頃は、文官になるのだと公言してはばからなかったの」
スカーレットがいたずらめいた笑みを向けてきて、エヴェリーナは数度瞬いた。
――かつてもっとも王の寵愛を受け、今は良き友人のように扱われているこの女性に、そんな生い立ちがあったとは知らなかった。
今もなおわかるほどの美貌と、争いを防ぐかのような温和な態度ばかりに目が行っていた。決して鈍いわけではないだろうとは思っていたが――。
(この方は……)
穏やかで柔和な姿は、巧妙に計算されたものだったのだろうか。――あるいは、ジルベルトにも気づかせないほどの。
エヴェリーナは戸惑いと驚きを覚えた。スカーレットはそれさえも察しているかのように、落ち着いた様子で続ける。
「私は、望める限り最善と思えるものを手に入れた。でも息子には、私の出自のせいで頂きへの道を閉ざしてしまった」
エヴェリーナは息を呑んだ。




