4話目 『たんたんころりん』
タンタンコロリンって妖怪を知っていますか?
老いた柿の木が化けた妖怪で、柿の実を取らずに長い間放置すると現れるそうです。
私は1度だけ、タンタンコロリンを見た事があるんです。
あれは約10年前、私が小学1年生の頃。
私の学校は集団で登下校する所でした。
下校は同じ地区内で家の近いクラスメイト数人と帰るんのですが、登校時は学年に関係なく家の近い人たちと学校に行きました。
私の班は6年生が3人と4年生が1人、1年生が私を含め2人。
6年生は全員女子で、班長のM先輩と、ぽっちゃりした大人しいY先輩、少し乱暴な背の小さいS先輩。
4年生のT先輩と同級生のF君が男子でした。
とある秋の終わりごろ。
S先輩が、
「学校への近道を見つけた!これからそっちを通ろう!」
と言ってきました。
その近道と言うのが、人様の庭を通るという物で、とても真面目なM先輩は猛反対。
Y先輩も怒られたくないからと絶対通らないと言いました。
面白いからと積極的に賛成したのはT先輩だけで、S先輩をとても怖がっていたF君は嫌々ながらもS先輩に逆らえず賛成していました。
私もY先輩と同じように大人に怒られたくなく反対でした。
全員が賛成しないことにS先輩は顔を真っ赤にして怒っていたのを覚えています。
「なんで!?私が行こうって言ってるんだから全員で行くに決まってるでしょ!?何でそんな事言うの!!?」
「Sさん、人の家の庭を通る何って常識的にダメに決まってるでしょ!!」
「何言ってるの!?私が良いって言ってるんだからいいに決まってるでしょ!!?」
そう言ってS先輩とM先輩が喧嘩していたのも鮮明に覚えています。
2人の喧嘩を止めたのは・・・・・・・・確かY先輩だった。
「朝からこんな馬鹿げた事に付き合ってらん無い。SちゃんもMちゃんも自分の意見変えないでしょ?この調子だと私達まで遅刻しちゃうから、私は何時もの道で学校行くから、後は他の子巻き込ま無い範囲で好きにしなよ」
そう言ってさっさと何時もの道を進むY先輩。
慌てて、
「待ちなさいYさん!何の為に班で登校してると思うの!?」
と言いながらY先輩を追いかけるM先輩。
私とF君もY先輩とM先輩を追いかけようとしました。
でも、S先輩とT先輩に腕をつかまれ、S先輩が言う近道に無理矢理連れて行かれました。
其処はとても大きな庭で、桜に松、梅、金木犀、イチジク、ボタン、椿、柘榴、百日紅、ツツジ、。
知っている木や草花も知らない草木も沢山が植わっていました。
小さな池もあって、とっても立派な庭。
その庭の終盤にそれはありました。
その庭で1番大きな柿の木。
上の方には草に隠れ、幾つか真っ赤に熟れ過ぎた実がなっていました。
その実と葉の間。
風に揺れる実の重さでギッ、ギッ、ギッと音を発てる1番太い枝に、真っ赤な、真っ赤な、人の形をした柿の実がなっていました。
目も、鼻も、耳も、髪も、口も、舌も、あって、その木の実と目が合った気がします。
私は其れが前の日に読んだ本に書いてあったタンタンコロリンだと確信しました。
タンタンコロリンと目があった私にはタンタンコロリンが、
「俺を食べてくれ・・・・・・・」
って訴えてるように思えました。
だから私はタンタンコロリンに手を伸ばして・・・・・・・・
「何をしてるんだ!!!」
Y先輩とM先輩が連れて来たらしい大人に目を隠されるように抱きかかえられ庭から連れ出されました。
庭から連れ出された私達。
S先輩も、T先輩も、F君も、何故か真っ青な顔で泣いていて。
その日、私達は学校を休みました。
迎えに来た両親が休めって言ってくれたのです。
怒られると思っていた私に、両親はとても優しく、何故か勝手に人の家の庭に入ったのにその事を怒る事は在りませんでした。
今でもその事が不思議でなりません。
今、タンタンコロリンが出た家には誰も住んでいません。
最後の住人が庭で首吊り自殺してから、誰も住まわず、もう直ぐで取り壊すそうです。
あの庭でタンタンコロリンをまた見ることは永遠になくなるでしょう。
それでも、私の中にあの日から生まれた衝動はきっと消えません。
1度で良いからタンタンコロリンを食べたいという衝動は・・・・・・・
あぁ、そう言えばここに来てからずっと思ってたんですが。
あなた、とても美味しそうですね?
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口の端から涎をたらし、女子高生は蝋燭の火を吹き消した。