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前衛科試験①

※次回の投稿時間を、明日19時に変更致します。

ごめんなさい_| ̄|○



普段は昀昀(ユンユン)の一人称描写ですが、バトルシーンなどは基本、神視点で書く予定です。

その方が自分と敵の戦闘技術説明がしやすくなって、なおかつロープレっぽさが増しますし(U´Д`)


 冒険者養成学院(ケイヴァーアカデミー)の学科は、「前衛科」と「後衛科」の二種類に分かれている。


 前衛科とは、先頭に立って戦うポジション「前衛」を行う人材を育成する学科。

 後衛科とは、その前衛を魔法などで援護するポジション「後衛」を育てる学科。


 入学試験も、前衛科希望者、後衛科希望者の二種類に分けて行われる。


 僕は前衛科志望。

 クララちゃんは後衛科志望。


 学院敷地内の真ん中にある広場に試験官が現れ、試験に関する説明が終わった後、僕たち二人は別々の試験場へ別れた。


 一人になって、僕は少し心細くなった。なんだかんだで、隣にいたクララちゃんに元気をもらっていた気がするから。


 けれど、「昀昀(ユンユン)なら大丈夫」という彼女の言葉を信じ、僕は試験に臨むことにした。

 










 冒険者養成学院の広大な敷地内には、闘技場が二つある。


 東の端と、西の端に一つずつ。


 前衛科希望者は、東端の闘技場へと案内された。


 試験内容はシンプルだった。学院の前衛科教官と、三分間武術で手合わせすれば良い。


 前衛職は前に立って戦うという性質上、武術の腕前が求められる。


 その武術の下積みが、学院に入る前の合格ラインに達しているか。それを見るための試験だ。

 なので教官には勝たなくとも良い。自分の中にあるものを出し切ればいいのだ。


 ――そもそも、勝つことなんかできないだろうけど。


 方昀昀(ファン・ユンユン)は試験をまだ受けていない受験者の列に並びながら、そう考えていた。


 昀昀の眼前では、今まさに試験が行われていた。


「たっ! やあっ! せいっ!」


 空気を切り裂く気合と剣戟音。


 (つたな)いながらも勢いと熱意がある男子の太刀筋を、教官は涼しい顔で楽々と受け流していた。


 二人の体の表面には、光の膜のようなものが張られていた。


 【スキンバリア】という防御魔法だ。肉体表面を薄い膜状の障壁(バリア)で包み、熱や衝撃などから身を守る。

 だが、ある程度ダメージを受けたら、その膜は壊れてしまうのだ。


 制限時間である三分が経過するか、

 自分の【スキンバリア】がダメージで壊れるか、

 途中でリタイヤするか、

 試験終了の条件はそれら三つだ。


 ――そして現在試験を受けている男子は、その三つのうちの二つ目で試験を終わらせることとなった。


「うわっ!」


 教官の一太刀をまともに浴び、男子の体表面を覆っていた【スキンバリア】が崩壊。光の膜は輝きをなくしていき、空間に溶けて消える。


 尻餅をついた男子は悔しげに歯噛みするも、立ち上がって潔く教官に一礼した。


「次!」


 教官の力強い呼びかけによって、次の受験者が前に出ていった。

 それに合わせて、少し遠くに置かれた箱のような物体が輝き、教官と次の受験者に【スキンバリア】をかけた。

 あの箱は魔導器。あれが【スキンバリア】を作っていたのだ。


 見ると、今度の教官はさっきの人物と違っていた。

 さすがに一人で受験者全員を相手にしていたら体力がもたないのだろう。数人いる教官が、交代交代で受験者の相手をしているようだった。


 昀昀は見抜いていた。教官たち全員の立ち振る舞いから、武術家としての優れた腕前を。


 彼らに対して、自分の力が一体どの程度通用するのだろうか。


 昀昀がそんな風に緊張を覚えていた時だった。


「ううっ……気持ち悪ぃ……」


 一つ前に並んでいた男が、死にそうな声で独り言をつぶやいていた。


 160センチメイトルの昀昀より、はるかに高い背丈を誇る大柄な男だった。

 武人のような面構えに、獅子のタテガミを思わせる金髪。

 肉体に筋肉の張りはあるが無駄に膨らんでおらず、鍛え抜かれた剣のように鋭く引き締まっていた。左腰には、細く反りのある一本の刀。


 見るからに腕が立ちそうな感じだが、その横顔は苦痛で歪んでおり、(ひたい)には脂汗が浮かんでいる。


「あのー……大丈夫ですか?」


 明らかに気分が悪そうだったので、思わず昀昀は声をかけた。


 男は振り返り、かすれた声で答えた。


「いや……ちょっと、色々あって気分悪くてよ……」


 昀昀は「何かあったんですか?」と問う。


 すると、


「食あたりだ」


 とのこと。


「俺は昨日この迷宮都市に来たんだ。宿に泊まって、持参してきた食い物を部屋で食ったんだが、どうやらそいつが腐ってたみたいでよ…………死ぬほど吐きまくった。その吐き気が今日にも続いててよ、朝飯もろくに食えなくて腹はほとんど空っぽなんだ……ああ死にそう」


「それ……退場した方が良いんじゃないでしょうか……」


「なに言ってんだ。また来年まで試験を待つのは面倒で仕方ねえ……うぇっぷ」


 男は口元を押さえ、吐き気をこらえる。


 昀昀はその様子を見て苦笑した。確かに、彼の言うとおりだ。


「えっと、それでは僭越(せんえつ)ながら、僕が吐き気を和らげる呼吸法を教えます」


 昀昀の学ぶ武術では呼吸を重視する。そのため、昀昀は非常にたくさんの呼吸法を知っていた。


 その中の一つを男に教えた。ありふれた健康法のような呼吸法だ。


 男は、昀昀の真似をする形でその呼吸法を数回行った。


 すると、さっきまで真っ青だった顔つきに少し生気が戻った。


「ふぅ……全回復とはいかねぇが、結構楽になったぜ。ありがとうよ、姉ちゃん(・・・・)


「……僕、男です」


「え……ああ、すまん! そんな綺麗な顔だからよ、てっきり女だと思ってた」


 昔から言われ慣れている事とはいえ、ちょっと傷ついた。


「いや、ホントに感謝感激だよ。これで教官に胃の中身ぶちまけずに済むかもしれん。……っと、自己紹介がまだだったな。俺の名はライオネル・ボーフォートってんだ。気兼ねなくライオネルと呼んでくれや」


「僕は方昀昀っていいます。よろしくお願いします」


 同じく自己紹介を返す昀昀。


 ――しかし、「ボーフォート」って苗字、どこかで聞いたことがあるような……?


「よろしくな。あと、敬語はいいって。タメ口で頼むよ。ところでお前さん、その名から察するに、東方(とうほう)の生まれだったりする?」


「はい……じゃなくて、うん。もともと『煌国(こうこく)』っていう国で生まれたんだけど、小さい頃、モルガナ王国に移住してきたんだ」


 ちなみにモルガナ王国というのは、クララが生まれ育った国の名前だ。彼女の家はその国の貴族である。


「それより、ホントに大丈夫? 試験やれそう?」


 身を案じる昀昀に、ライオネルは片腕でガッツポーズしながら、


「お前さんのおかげでいけそうだ。それに自分の女の手前、情けねぇ姿は見せらんねぇよ」


「女?」


 もしかして、一緒に前衛科の試験を受けている恋人がいるのだろうか。


 昀昀は闘技場全体を見回す。


 前衛科志望者の中には女性もちらほらいるが、ライオネルを見ている女性は一人もいなかった。


 ライオネルは突然左腰の刀を鞘から抜き、


「こいつが俺の(オンナ)だ。どうだい、年季は入っちゃいるがかなりの別嬪(べっぴん)だろ?」


 得意げに、その刀身を見せつけてきた。


 ……自分の剣を「女」と称するそのセンスに苦笑しながらも、昀昀はその刀身をながめた。


 にぶい銀色に輝く刀身は細身で、若干の反りがある。刀身表面には飾り気が少しも見られず、美術品的な価値は無い。実用重視で作られたもののようだ。

 外見的には特別な点は見受けられない。迷宮都市の武器屋を回れば簡単に見つかりそうな代物だ。

 けれど、刃こぼれが全くと言って良いほど見られない。それでいて光沢には経年による色あせがあり、そこから長い年月の間使い込まれている事が読める。

 よく手入れされていることと、それほどまでに愛着を持たれていることがよく分かった。


「……うん。確かに別嬪さんだね。おまけにかなり愛されてるみたい」


「おうよっ。分かってるねぇ」


 バシッと、剣を持っていない方の手で嬉しそうに背中を叩いてきた。


 なかなかフレンドリーな性格のようだ。


「ありゃ? そういやお前さん、得物(えもの)が見当たらんが、どこにあるんだい?」


 不意に、ライオネルが目を丸くして訊いてきた。


 昀昀は軽く笑いながら、


これ(・・)、だよ」


 拳を握り締め、それを強調した。


 すると、ライオネルは何か察したようにニヤリと笑い、


「ああ、なるほど……『煌術(こうじゅつ)』かい」


「うん。そういうこと」


 昀昀も不敵な笑みを返す。


 それからも二人は、いろんな話に花を咲かせた。


 そして、そんな風に話している間に、列が随分と短くなっていたらしい。


「次! ライオネル・ボーフォート!」


 とうとう、ライオネルの番が回ってきた。


 呼びかけを耳にすると、ライオネルは吐き気止めの呼吸法をもう一度行ってから、昀昀に笑いかけて言った。


「んじゃ、ちょっくら頑張ってくるわ」


「うん、頑張って。無理しちゃダメだよ」


 おうよ、と返事してから背中を見せ、教官の待つ先へ歩みを進めていった。


 両者の体が【スキンバリア】に包まれる。 


 ライオネルは腰の刀を抜いた。暗い銀の輝きを放つ刀身が外界に晒される。


 対する教官は、双剣使いだった。構えを取るライオネルと違い、両手の剣を真下へ垂らした自然な立ち姿勢。


 無防備なその構えは、高い実力の裏付けにして、教官としての矜持(プライド)の証。

 冒険者(ケイヴァー)の卵には大人気(おとなげ)ない態度を見せず、余裕を持って接するべきものだ。


 ――だが、このライオネルの前で、その矜持は慢心でしかなかった。


 ライオネルが足を動かした。


 途端、金属が激しくぶつかり合う音が響いた。


「これは……」


 昀昀を含む、他の受験者全員が舌を巻いた。


 ライオネルは教官との間に開いた距離を一瞬で潰し、上段から刀を振り下ろしたのだ。


 双剣をクロスさせ、その交差点で一太刀を受け止めた教官もまた、驚愕で表情を歪めていた。


「らああああぁぁぁっ!!」


 裂帛(れっぱく)の気合とともに、ライオネルは動きのペースを上げた。


 稲妻のような速度と鋭さを誇る斬撃を、矢継ぎ早に連発した。


 教官はその斬撃の嵐を、的確な剣さばきをもって全て受け流していく。やはり見事。――しかしその額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

  

 ――バキンッ!! ガォン!! ドギンッ!! バキャァ!!


 今まで聞いた中で輪をかけて凄まじい剣戟音が、周囲の者の鼓膜をつんざいた。


 いや、もはや剣戟音ではなく、雷鳴と言っても通用する。攻防の激しさがよく表れていた。


 ライオネルの放つ一太刀一太刀には、まともに喰らえば決め手に化ける威力が込められていた。きっとその事は、素人目でも容易に分かるに違いない。


 賞賛に値するのは攻撃だけではない。時々教官も負けじと鋭い一撃を放ってくるが、それを最小限の動きだけで見事にかわし、あるいは受け流してみせた。


 そして、互いに多くの手数を放っているにもかかわらず、両者の【スキンバリア】にはいまだ傷一つ付いていない。


 非常にレベルの高いその斬り合いに、昀昀は試験である事も忘れて見入っていた。


 しかしながら、そこから一向に動きが見られない。


 確かに激しい攻防ではあるけれど、力量が互角なのか、両者ともに優勢劣勢の偏りが見られない。


「チェェェェェェェェェストォォォォォォォォォォォォ!!!」


 そこへ変化を起こそうと動き出したのはライオネルだった。教官を弾き飛ばして間合いを取ってから、怪鳥(けちょう)のごとき気合を上げながら駆け出した。


 切っ先を斜め上へ向け、大きく上段に振りかぶった蜻蛉(トンボ)の構え。


 叫びとともに、刃に全身の剣気を濃く集める。人間を真っ二つにしてお釣りが来るほどの斬撃を放つ、激烈な予兆。


 鍛え抜いた運足(うんそく)は、教官との彼我の距離を半秒足らずで食い尽くす。すでに間合いの中。


 そして、






「――――うぉぉぇぇぇぇえええええええええええ!!!」






 ライオネルは今朝の朝食をリバースした。


 「消化に良いから」と食べたお粥が、汚物となって闘技場の土を汚す。ばっちい水たまりができる。


「うわ……」


 昀昀はそれを見て、露骨に顔をしかめた。貰いゲロしそう。


 目の前で膝を付いて吐き続けるライオネルに、教官はどうしていいか分からず呆然としていた。今まで何人もの入学希望者を相手取ってきたが、試験中にこんなことをした者はライオネルが初めてだった。


 剣の腕前も、その行動も、常識はずれな男であった。


 胃の中身をひとしきり出したところで、ライオネルのリバースは終了。


「やめ! 時間切れ!」


 そして試験も終了。教官とライオネルの【スキンバリア】が自動で解けた。


「ちょっ、ライオネル、大丈夫!?」


 昀昀は思わず駆け寄り、その大きな背中をさすってあげた。


「ううっ……思いっきり吐いたおかげか、かなり楽になった」


「無理しないでって言ったのに……すみませーん、水場に案内してあげてくださーい」


 そう教官の集まりに呼びかけると、その中の一人が来てくれた。


「すまん、昀昀。恩に切るぜ」


「いいよ。それより、ゆっくり休んで」 


「それと――お前さんも頑張れよ」


 少し良くなった顔色に元気の良い笑みを浮かべ、そう激励してくる。


 昀昀は少しの間ぽかんとしていたが、すぐに微笑みを返した。


「――うん」



次回は、明日の19時に更新予定。


とうとう、昀昀が戦います(ノ゜ο゜)ノ

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