冒険に恋するあの娘に恋する僕
「ほら、何をしている昀昀! 早く走るのだ!」
女の子は僕の手を引っ張り、駆ける。
そこは、見渡す限り緑一色な草原。
この緑の大地を真っ直ぐ進むと、小さな村へ出る。
目の前の女の子は、その村めがけて元気良く走っていた。
「ちょ……ちょっとまってよクララちゃん……もう無理、走れない……」
しかし、僕に限っては「走らされていた」と言うべきか。女の子の底なしの体力についていけず、息も絶え絶えだった。
女の子はさらり、と振り向いた。金糸の束のような美しい金髪が、正午の太陽の光を浴びてきらめく。
「何を言うか! 急がねば村がオークの群れによってめちゃくちゃにされてしまうのだぞ!」
やや怒った顔。しかし声の中には楽しげな響きがあった。
僕はぜーぜーと息を切らしながら言った。
「こ、今回は……そういう"設定"なんだね……」
次の瞬間、女の子が持っていた棒切れがコツンと僕の頭を叩いた。
「いたっ! な、何するのー……」
「お馬鹿! 設定、とか言うんじゃあない! せっかくの雰囲気が台無しではないか!」
腰に両手を当て、頬を膨らませながらぷりぷり文句を言ってくる。
「ご、ごめんなさい……」
僕はしょぼんとなり、謝る。
彼女はフィクション、ノンフィクション問わず、冒険譚を描いた本が大好きなのだ。
特にその中でも、怪物と戦う類いのお話が大好物という、変わった女の子。
そういった話を読んで感動を覚えては、その真似をしようと「冒険ごっこ」を考え、実行する。
僕は、その「冒険ごっこ」によく付き合わされていた。
「仕方ない。ならば昼げを食った後、別のシナリオを考えてみるとするかな。昀昀、付き合ってもらうぞ?」
向こう見ずな彼女の考える事は無茶ばかりで、よく酷い目にあってきた。「魔王城」に見立てたでっかい蜂の巣を落とし、全身虫刺され跡だらけで大泣きしながら帰ってきたこともあった。
「うんっ」
――けれど、僕はそれが嫌ではなかった。
むしろ、この娘と一緒にいられるだけでも、十分に幸せだった。
この娘はある貴族の娘。
僕は去年――七歳の頃、彼女の家に引き取られた。
不慮の事故によって両親を失った僕は、失意のどん底に沈んでいた。
もう二度と立ち直れないんじゃないかというほどの絶望から僕を救ってくれたのが、この娘だった。
彼女は僕の手を強引に引っ張り上げ、自分の「冒険ごっこ」に僕を巻き込んだ。
最初は戸惑った。いや、それどころか迷惑にさえ感じた。何度拒絶の言葉をぶつけたか覚えていないくらいだ。
しかし、この娘は僕を見捨てなかった。
御両親の気まぐれでいきなり家に転がり込んできた僕を疎んじるどころか、相棒と認め、手を繋ぎ続けていてくれた。
僕は次第にこの娘に惹かれていき、やがて恋をした。
その気持ちは、僕に暖かさをくれた。絶望を打ち消してくれた。
感謝してもしきれない。
だから僕は、この娘の無茶にどこまでもついて行く。ついて行きたい。
それだけでいい。
仮に僕がこの秘めたる想いを打ち明けたとしても、彼女がそれに頷いてくれるとは思えないから。
なぜならこの娘は――冒険に恋しているのだから。
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ダンジョン系ファンタジーとなります。
昔の失敗からトラウマになりかけていた剣と魔法のファンタジーですが、再チャレンジしてみようと思い投稿しました。
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