表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍ノ結ビシ始マリノ唄  作者: 飛坂鯨
壱ノ章:自我を守れ
9/22

5.絶対的な煌めき




 ――俺は本当にこれでいいのか?


 ……本当に俺はこれで良かったのか? 本当にいいのだろうか? 本当にこんでいいの? 嫌なんじゃないのか? こんなんじゃダメなんじゃない? これじゃあ――なんじゃ……



 ――自問の嵐。


 それらは言葉の渦となり、琉希飛(りきと)の心を掻き乱す。


 ときに言葉の針となって、心に次々と刺さっていく。

 またあるときは言葉のシャベルとなって、心に次々と大きな穴を穿(うが)っていく。


 ただ、それへと返す答えはなく――



「――」



 全ては重圧となって、琉希飛の『動』を『静』にしていく。


 ――そんなことを、考えていたことが、確かに、あった。


『後悔は誰しも必ずする』


『その後悔の後に、何を思うのかなんだと、俺は思うよ』


 親友――否――“真友”の言葉が降ってきた。


 ――そう、そんなことを考えていたことが、確かに、あったのだろう。


 でも、今は違う。違ったものが、確かに琉希飛の心には、ある。







 アーチ型になった大木をくぐった琉希飛は、遂に山の頂へ登りつめた。

 そして、眼にした。


 円形に森が禿()げている場所にポツンと、それでいてどっしりと祠が立っていた。


 百五十センチくらいの高さの軒の下に、今までと同じくらい――いや、もっと小さいかもしれないものだ。(なり)こそ小さいものの、今までのものとは比べ物にならないくらいの荘厳なオーラを纏っている。

 また、トタン板でできた安っぽい屋根までついていた。



 森が禿げてできたようなこの広場には、それ以外のものが一切見当たらない。



「やけに、静かなとこだな」



 そんなことを呟きながら、琉希飛はその祠へと近付いていく。


 祠の全貌が(あき)らかになってきた。


 祠の中には今までと同じように、金色をした西洋龍の置物が祀られている。


 ……しかし、立派な竜だな。



 しかもそれは、深く、そして重い金色の煌めき――金メッキかこそ不明だが――を放っている。


 それの意味することは全く見当がつかないが、とにかく只管(ひたすら)に見入ってしまうような、そんな龍だ。

 祠のすぐ隣には、お約束のように石碑が立っている。



 ――そこには、ただ二文字だけ、“轉坵”とだけ彫られていた。



「なんて読むんだ?」



 琉希飛の脳内辞典には心当たりの無い字。つまり、琉希飛も初めて目にする字。



「あぁ~! 本気で分からん!」



 琉希飛は(うな)りながらも苛立(いらだ)ちを治める。そして、思考をめぐらせていく。





 ――それはまさに、“刹那”と形容するにふさわしき瞬間に起こった。


 青白い光線が、空から真っ逆さまに落下し、炸裂。


 その一部始終を目撃していなかった琉希飛だったが、目を()くほどの凄まじい発光と、直後の耳を(ろう)するほどの轟音によって、反射的に振り向く。


 さて、振り向いた琉希飛が目にしたのは、ごうごうと燃え盛る木だった。急に激しくなってきた雨脚によって、炎はだんだんと鎮められていっているが、琉希飛を戦慄(わなな)かせたのはそれだけではなかった。



 ――なんと、その燃えている木は、さっきくぐってきたアーチ型をした木だったのだ。



 ここまできて、やっと考えることを思い出した琉希飛の脳は、それを落雷だと結論付ける。



 雲と雲、あるいは雲と地表との間に生じる放電現象。また、それに伴う光や音。それが雷だ。積乱雲の内部に発生した電位差が雷の原因である。



 幼少期の雷への恐怖は、とっくの昔に克服している琉希飛だが、この光景には恐怖以外の感情が思い浮かばない。



「やあべぇ……」



 やっとの思いてで口にできた言葉が感嘆だと、多少雰囲気が落ちるかもしれないが今はそれどころではない。


 ――畏怖。畏怖。ただひたすらに。


 自然の驚異を目の当たりにすると、自分なぞちっぽけなものだと思ってしまう。それは当然なのだろうが、琉希飛にこの光景は、刺激が強かった。


 だんだん(すさ)んできた心を無理やりに繕った琉希飛は、消えない畏怖を胸中に納めながら、“轉地”の祠へ手を合わせる。


 短い合掌を終え、琉希飛は無造作に立ち上がろうとする。だが、それを(はば)むものがあった。


 ――琉希飛の身長は百七十センチと少し。それに対する軒の高さは約百五十センチ。



「痛っ」



 誰の予想も裏切ることなくきれいに、そして(かつ)て無かったほど静かに、琉希飛は(したた)か頭の角をうった。


 不意の頭への衝撃。


 琉希飛は原因であるものを悟ったが、体が付いていかず、酔っ払いのように足をふらつかせてしまう。


 なかなか治まらず、軒の外に出てしまっ……



 ――運命とは、実に理不尽で残酷なものである。



 次の瞬間の出来事が琉希飛には、灼光が脳天を貫き、世界が瞬いたように感じられた。


 原因を探る隙もなく琉希飛は痛みに(さいな)まれる。

 次々と身を灼かれていく痛みだ。そう、無比の痛み。


 ……痛、い。痛。い、イタ、イ、い、た……い……




 痛みを感じたときにはもうその場に倒れていた。

 目も開かない。体が動かない。力を無い。……体が、無い?


 その時琉希飛には世界が、ひどくゆっくりに感じられた。

 意識が何も感じ取らない。感じ取ろうとしない。




 ――世界が、暗転、していく……




 なのに、それなのに、意識の存在だけがあることを感じていた。体は無くとも、それだけは。

 暗闇の中、琉希飛はおもった。



 ――と。







 ――まったく、啐啄同時(そったくどうじ)とはこのことを言うのだろう。落雷だ。


 残念ながら、彼――玄野琉希飛君は、この世界を旅立ってしまった。


 彼の遺体の炎は、すでに消えている。


 いろいろと悲惨な状態になってしまったようだ。だがその状況は、あえてこの場で言わなくとも安易に想像できる。


 それにしても――雨は何事も無かったかのように降り続けている。雷はもう止んでしまったようだ。


 その中、金の龍。それだけが僅かに、そして微かに、厳かに煌めき(またた)いている。



「――」



 ……あぁ。これで、やるべきことが沢山できてしまった。

後書き:

これで一章『自我を守れ』は終了です!

ここまで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます! そして、私めもこの作品をみなさんに楽しんで頂けるよう、精一杯脳ミソをひねってねじって執筆を続けていく所存です!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ