2.萌し
少年――玄野琉希飛には、遥かな夢があった。
――それは、「世界の平和を守る」というものだった。
琉希飛は、物心つく前から、そう思い続けていた。
幼少の頃は「将来の夢は?」と訊かれると、それはそれは自信満々に答えていたものだった。
切っ掛けは単純で、自衛隊員の父親に憧れていたのだ。
父――玄野永刹には、物言いの少し大雑把な部分があった。それでも彼の発する言葉の一語一語が、幼き日の琉希飛には英雄もしくはヒーローのそれに聞こえた。
小学校に入っても「それ」は健在だった。
だが、学年が上がるにつれて自分の思想の愚かさに気づいた。現実を知り、他人との違いを恥じるようになった。
それでも低学年のうちは、「それ」を思い描いていた。
やがて琉希飛は高学年になり、その目が捉えるものも段々と変わっていった。
そして琉希飛は、自分の夢について真っ向から考えるようになった。「何で自分はこんな夢を持っているのだろう」「自分って何だろう」と。
こうして未来の自分像の姿を揺るがせたまま、琉希飛は中学に入るのだった。
そんな琉希飛を、衝撃の事態が襲った。
――両親の死だった。
父は自衛隊での海外派遣で爆弾テロ事件の犠牲になり、母はその直後に末期の癌が見つかり、闘病も虚しく亡くなってしまった。
一度に両方の親を亡くし――特に憧憬と尊敬の念を抱いていた父の訃報によって――琉希飛の思い描いていた未来の自分像は、一気に負の方向へと倒れてしまった。
いつも「俺が世界を平和にしてやるからな」と、口癖のように――いや、まるでそれしか言えないかのように――豪語していた父。
人一倍正義感が強く、責任感をも兼ね備えていた彼は、海外派遣の件には自ら名乗りを上げたそうだ。
そんな彼――琉希飛の憧れの父が、だ。卑怯で劣悪、非人道極まりないテロ組織に殺されたのだ。
父がどれだけ世界平和のために尽力してきたか。それを表面的ながらも知っていた琉希飛の心に芽生えたのは、怒りの度を通り越したやるせなさだった。
父のことを何も知らない人間が起こした事件に対しての怒りは実際、自分が自分でなくなってしまいそうなほど思い浮かんだ。
心の中に浮かんだ怒りを琉希飛は、「俺は怒りなんかに溺れないんだ」と自分に言い聞かせ、『蓋』をした。
『蓋』をしたときそこから溢れ出てきたのは、自分の将来に対するより深い不安だった。
あの大きな背中の父が、正義には人一倍定評のあった父が、責任感が強く沢山の信頼を受けては応えていた父が、――だ。
父が、それでもなお成し遂げられなかった大きな夢、『世界平和』。
――いや、もう気づいていたんだ。『世界平和』なんて到底無理なことだったんだ。
――あの父が成せなかったんだ。叶えるには大きすぎて、夢見ることも自分にはできなかったモノだ。
――こんなにもちっぽけな自分だ。『世界平和』なんて叶えられるはずがない。
「――」
琉希飛は、気づいた。気づいてしまった。
「あれ、俺って、何のために生きてんだっけ」