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龍ノ結ビシ始マリノ唄  作者: 飛坂鯨
唄ノ始マリ
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紡.この世界で

 



 ――生来、世界はひどく理不尽で残酷なものだった。



 何をするにも止められ、努力は(ことごと)く報われず、生まれ持ったステータスで人生が決まる。


 自由は容易く無碍に扱われ、ヒトが見た目で区別されていく、()わば、“不惜身命(ふしゃくしんみょう)も十年一日に帰す世界”。

 

 ――曰く、極めて理不尽な世界。



 自己の考えは否定され、信用という名を騙る裏切りは日常茶飯事。


 他人の能力ばかりが認められ、強者や賢者が弱者や愚者を喰らい、より高い序列を手にしていく、云わば“狡兎良狗(こうとりょうく)が蔓延る弱肉強食の世界”。


 ――曰く、甚だ非情で残酷な世界。





 そう、誰もがそんな世界を憎んだ。


 その例に漏れず、『少年』も同じように世界を憎んだ。



 ――だが、彼は決して諦めようとはしなかった。



 彼はこの世界のことを『理不尽で残酷だ』と諦めて決めつけず、ただ必死に考えた。



 ――この“残酷”な世界を、生き抜くための術を。



 それに彼は“人間の可能性”を信じていた。


 ――人間は、知恵を持ち、“未来を考えること”ができる生物だということ。


 それへと、(よわい)十四の若輩者ながらも――彼は賭けた。



 そして――







 ――“世界の(ことわり)”への挑戦に負けた少年は、それらの介入しない世界で、魔王と戦っていた。



 世界中の人々の期待と希望を背負い、世界の命運と未来の趨勢(すうせい)を握る者たちの心は強く、その相貌から緊張やプレッシャーは微塵も感じることはない。


 戦闘開始から激しい攻防を続けていた両者。だが両者ともに、外見から体力消耗の色は見られない。



「我ハ万物ヲ束ネシ王ニシテ全知全能永久不滅ノ者也。所詮ハ愚物ダ、全テニオイテ我ニハ到底敵ワヌ」



 魔王が自信過剰な文句を並べる。



 ――よし、ラストスパートだ。


 まず、攻撃力増強の施された竜騎士が愛用の[天槍(てんそう)ジャベリン]を構え、溢々(いついつ)とした気勢とともに魔王の下へと走り出す。



 それに気づいたのか、奴は右腕で竜騎士を薙ぎ払う。

 だが竜騎士は直前に突進状態のまま左手の盾を構えて、迫り来る巨壁のようなそれを受け流した。


 体勢を崩す巨体へ、[天槍ジャベリン]は竜騎士の体重を乗せて突き刺さる。

 そのまま竜騎士は身体を捻って二撃目を喰らわせ、そのままバックステップで後退していく。



 それに続いて、賢者のやたらと長い詠唱が終わる。


 ――瞬間、爆発系最強呪文が発動し、効果通り――大地を揺るがすほど――の大爆発が起きた。辺りを爆風が覆っていく。



 伴って、竜騎士と同じく攻撃力増強魔法を受けた戦士が、[神剣(しんけん)エクスカリバー]を脇に構えて猛進していく。


 兜の小粋な白羽を(なび)かせながら進む戦士と、でたらめに振り回された魔王の右腕が衝突――する前には既に魔王の頭の上まで戦士が跳んでいた。



 しかし安心できたのは束の間で、今度は左腕が戦士の行く手を阻もうとしてくる。



 直後――どこからか放たれた矢が魔王の肉袖の正鵠を射た。[聖弓(せいきゅう)アポロン]の使い手である僧侶のものだった。



 そして、魔王の左腕は戦士の進路を逸れていき……


 戦士が気勢とともに振りかぶられた[神剣エクスカリバー]が、力強く一気に振り下ろされた。



 ――魔王が[神剣エクスカリバー]によって真一文字に斬られる。


 何かの言葉を残す間もなく、それは一面の光となってついに倒されたのだった。



「よっしゃああぁぁぁぁぁー」



 ――少年は悦びをかみ締めた。




 勇者たちは魔王を倒すという目的を達成し、生まれ故郷である長閑な海辺の村に凱旋した。


 村長に魔王討伐の旨を伝えると、「今夜は村を挙げての祭りだ」ということになった。



 夜になり、全村民が集まっての盛大な祭りが始まった。


 勇者たちはそれぞれの両親に挨拶をしたあと、祝宴に酔っていた。



 そして次の朝日が上る頃、勇者達は村にしばしの別れを告げ、未開の地へと向けて冒険を続けるのだった。


 <[To be continued.]>







「あぁ、終わったぁ」



 画面の中に浮かぶ文字に少年は、安堵のため息漏らした。



 ……自分は、また一つ、世界を救うことができたのだ。


 少年はそんな感慨に耽っていた。ただ一つ、それだけに。



 ただ、それが単なるRPGをクリアした感想であり、決して世界平和を成し遂げた英雄の思想では、全くないのである。


 ならば、なぜこんなにも少年は悦びを感じているのか――



 「さて、寝るか」と、既に丑三つ時を示している時計の針を一瞥して呟く少年。


 六畳間に放たれた声は誰にも拾われずに消えてしまった。さも当然のように。


 毛布にくるまった少年を、ただ......ただ(ただ)、静寂が冷たく包み込んだ。




 ――何故、こんなにも少年は孤独なのだろうか。



 そして、その答えを語るに『ワタシ』は、どう始めるべきだろうか。



 『ワタシ』は悩んだ末、ようやく語るに当たってもっとも適当な語を見付けた。



 ――まず、『ワタシ』はこう、始めの(ことば)(つづ)る。



 「少年には、遥かな夢があった」と。

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