一回目
「……いくぞケンゴ。準備はできているな?」
俺は閉じていた目をスッと開き、背後に居るケンゴに語りかけた。
「ああ! こっちはいつでもOKだ!」
すぐさまいつも通りの無駄にデカい声が返ってくる。
どうやら俺のほうが待たせていたらしい。確かにケンゴのことだ。準備に時間をかけるような男ではなかった。
「じゃあさっき言ったとおりだ。合図でやるぞ」
「応!」
若干硬くなってしまった俺の声に対しケンゴの返事は力強く、やはり負けられないという思いが背中を押してくる。
大きく息を吸って正面を見据える。目の前に伸びるのは大きな一本道。俺たちが辿ってきた道だ。消失点は遥か彼方、空と大地の境界線上。
見上げれば一点の曇りもない青空。門出を祝福なんて雰囲気ではないが、これが日和というやつなのだろう。
ここまでも長く感じたが、本番はむしろここからだ。俺とケンゴの道程の、最初の選択。
ケンゴも今、見つめているのだろうか。彼の先で真っ二つに分かれているはずの道。その分岐点を。
そして、時は来る。
「よぉし!」
背後でケンゴが拳を打ち合わせたのが分かる。
時間はもうめいっぱいだ。やるしかない。
短く息を吐き、頬を叩いて気合いを入れ直す。
「よし」
再び正面を見据え、拳を硬く握り混む。ケンゴもきっとそうしているはずだ。
そして俺は高らかに告げる。
「最初は、グー!」
言葉とともに素早く半回転し、拳を真っ直ぐに前へと突き出す。
同じ体勢のケンゴと目が合う。
なんだ、お前も緊張してるんじゃないか。
硬く一の字に結ばれた唇を見て、わずかに頬が弛む。
それも束の間、今度は揃って声を張り上げる。
「「じゃん、けん!」」
ごう、とひとつ風が吹いた。
さあここからだ。
「「ポン!」」