第6章 死の風船を収集せよ
月島の魂は、体育倉庫の裏にあった。何でこんな所に? と天崎は疑問を抱いたが、姉の裕子が言うのだから信じるしかない。手に取って近くでじっくり観察しても、他の魂と見分けがつかないのだから。
「ここで洋子と交代するのは得策じゃない。さっきの渡り廊下にいた女の子の様子を見ても、すぐに意識を取り戻すみたいじゃなかったからね」
要は、月島の身体をこんな野ざらしな場所に寝かせたくはないと言っているのだろう。君が運んでくれるのなら話は別だけどと、裕子は冗談交じりに笑って見せたが、天崎はやんわりと断った。裕子が歩けるうちに移動できるのならそれに越したことはないし、こんな所で体力を消耗したくはない。
少し遠回りになったが、二人は保健室へと向かっていた。
天崎は空いたベッドに潜り込んだ裕子の顔へと、月島の魂を近づける。
「天崎君。できればでいいんだが、もし洋子がすぐに意識を取り戻しても、詳しい説明はしないでほしい。あの子には、あまり心配させたくない」
「校内中の人間が倒れてるこの状況でか? 難しいだろ。なんて言えばいいんだ?」
「それは君に任せるよ」
無責任だな。と思いながらも、約束はできないと念を押しつつ承諾した。
眠るように目を閉じた裕子の頬に、手にしている魂を当てる。すると魂は、ようやく家を見つけた小動物のように、勢いよく身体の中へと吸い込まれていった。どうやら月島の魂で間違いないようだった。
「さて……」
安らかな寝顔の月島を数秒ほど見つめた後、天崎は気持ちを切り替えた。
石神の指図に従うのは不本意だが、今は奴の言う通り素直に魂集めを行うしかない。学校中の人間を救えるのは自分以外にいない以上、今のところ他の選択肢はなかった。
「と……そうだな。まずは状況を把握するか」
望みは薄いが、もしかしたら生存者が他にもいるかもしれない。状況が状況だけに説明するのは困難を極めるものの、もし手伝ってくれる人が一人でもいたのなら、かなり効率が上がるはずだ。
ひとまず校内を散策してみるかと、天崎が身体を反転させたところで……。
突然、手首が冷たい何かに引っ張られた。
ギョッとした天崎は、慌てて振り返る。
薄っすらと瞼を開けた月島が、天崎の手首をしっかりと握っていた。
「天崎……さん……」
「月島!? お前、もう意識が戻ったのか!?」
「ここ、は……?」
どうやら、まだはっきりと目が見えていないのだろう。夢うつつの状態かもしれない。
月島の側で屈んだ天崎は、自分の声がしっかり届くよう、彼女の耳元に顔を近づけた。
「ここは保健室だよ。大丈夫、安心しろ。ここは安全だから……」
「天崎さん。私、怖い……」
「怖い?」
天崎は、自分の手首を掴んでいる月島の手が震えていることに気づいた。
目尻に薄っすらと涙を溜めながら、喉の奥から声を絞り出す。
「また、この世界に戻れなくなっちゃうみたいで……怖い」
「――――ッ!?」
そこまで聞き、天崎は月島が即座に意識を取り戻した理由に思い至った。
月島の魂は一度その身体を離れ、三途の川まで逝ってしまっている。そのため他の人間たちよりも、身体から魂が離れることに対して少し耐性があるのだろう。
そして月島は今、過去に経験した死の恐怖に怯えているのだ。
あれだけ姉と共に死ぬことを望んでいた彼女が、今は死を恐れている。
やりきれない気持ちになった天崎は、下唇を強く噛み締めた。
「心配ないよ。お前はもう……大丈夫だから」
少し言葉に詰まったのは、月島を安心させるための言葉が、失言かもしれないと自分の中で感じてしまったからだ。
確かに月島は大丈夫だ。魂を見つけ肉体に戻したため、もう問題ないはず。
だがそれは、あくまでも月島だけの話。その他の多くの人間は、未だ魂が引き剥がされた危険な状態にある。事が終わった後に助けられなかった人間を見て、もしかしたら月島は自分を責めてしまうかもしれない。そう思い、天崎は言葉を詰まらせたのだ。
そう。もしかしたら全員助けられないかもしれない。
もしかしたら犠牲者が出てしまうかもしれない。
いや、今から弱気になっていてはダメだ。
天崎は意気込むように拳を強く握りしめた。
ふと天崎の方へ顔を傾けた月島が、小さく呟いた。
「ねぇ、天崎さん。できれば……ずっと傍に居て……」
「…………」
もちろん、天崎としてもずっと月島に寄り添ってやりたい。だがそれではダメだ。いくら月島が不安がろうと、今は自分が動かなければならない。
「悪い、月島。俺は……俺がやらなくちゃいけないんだ」
「そう……」
息を吐き出すような弱々しさで、月島が返事をした。ただ手首を掴んでいる力が弱まらないところをみるに、まだ納得はしてくれていないようだ。
天崎は心を鬼にし、彼女の指を解こうとする。
だがその前に、再び月島が口を開いた。
「ねぇ、天崎さん。約束、して」
「約束?」
「必ず、戻ってきて」
未だに開ききっていない瞳は、まっすぐに天崎を見据えていた。
どうして戻らないと思うのか、そんなことを問う必要はない。月島の必死の懇願に、嘘偽りなく応えるだけだ。
「あぁ、約束する」
天崎は力強く頷く。
すると月島は手を離し、安堵したような笑みを見せ、ゆっくり息を吐きながら深い眠りへと落ちていった。
月島が眠ったことを確認した天崎は、できるだけ物音を立てないよう、静かに保健室から出ていく。そして廊下を数メートル進んだところで、コンクリートの壁を思いきり殴りつけた。
「くそっ!」
どうしてこんなことになった? なぜ月島が悲しまなければならない? そもそも、あの死神がこんなくだらないゲームをする理由は何だ?
未だうまく呑み込めていない理不尽な状況と、それに対応できない自分の無力さに追い詰められた天崎は、今まで経験したことのないような焦りと怒りに支配されていた。
だが、ダメだ。怒りに身を任せてしまっては、何も解決しない。
その場で背筋を伸ばした天崎は、一度だけ大きく深呼吸をした。
頭に溜まっていた熱を排出したためか、急激に五感が鋭くなっていく。そのため圧倒的な静寂が包む校舎の中に、ととととという小さな音が響いていることに気づいた。
「!?」
足音だ。しかも徐々に近づいてくる。
こちらに向かってきていると感じた天崎は、そのまま耳を澄ましながら待った。
廊下の曲がり角から現れた足音の主は、いつもの着物姿に戻っていた円だった。
「円!」
叫び、駆け寄る。
円の目線に合わせるように屈んだ天崎は、彼女の肩を掴んだ。
「お前、無事だったのか!?」
こくこくと無表情に頷く円。見たところ、具合が悪いようでもなさそうだ。
円の体調を確認するのと同時に、石神の言葉を思い出していた。『学校内にいるすべての人間の魂を引き剥がした』。つまり神である円に影響はなかったということなのだろう。
ひとまず元気な同居人の姿を確認できて、天崎は安堵のため息を吐く。しかし安心したのも束の間、円が不安そうな表情を浮かべて、天崎の袖を引っ張った。
「こっち」
「何かあるのか?」
言われるがまま、天崎は円の後についていく。
案内された場所は、保健室と同じ校舎の三階だった。一年生の教室が並ぶフロアであり、今は他の場所と同様、異様なほど静まり返っている。
廊下で倒れている生徒や外来の客を踏まないように気をつけながら、円を追う。
彼女はとある教室の前で止まった。
午前中、天崎と月島も入ったことのある、占いの館だった。
「ここ」
「?」
教室内を指で差し、円は天崎に入るように促した。
占いの雰囲気を出すためか、室内は午前中に来た時と同じく薄暗かった。それでも床に倒れている人間の輪郭や、天井付近で浮遊している魂はしっかりと視認できる。そのため教室の一番奥で苦しそうに呻く友人を発見するのは、そう難しいことではなかった。
「安藤! それと……マジョマジョさん?」
「天崎……か?」
安藤はマジョマジョと寄り添うようにして、背を壁に預けていた。
足元に注意しながらも、天崎は安藤の元へと駆け寄る。安藤は意識がはっきりしているようだが、マジョマジョの方は完全に昏睡しているようだった。
「安藤、お前は無事なのか?」
「無事なものか。何が起きたのかは知らないが、いきなり魂が引っ張り上げられた。慌てて止めようとしたけど遅かったよ。八割以上、外に出てしまっている」
見れば、安藤の頭上に他とは毛色の違う魂が浮いていた。その魂の下部から一本の紐のようなものが垂れ下がっており、安藤の頭頂部へと繋がっている。おそらく肉体は人間だが、魂そのものは悪魔の物だから他と見た目が違うのだろう。
それでも根本的な原理は同じだろうと、天崎は予想していた。
「待ってろ。すぐ戻してやる」
「なに?」
訝しげに眉を寄せた安藤を無視し、天崎は手袋をして彼の魂へと触れた。そしてゆっくりと肉体の方へ運ぶ。最初から見分けがついていたため心配はしていなかったが、魂はちゃんと安藤の身体へと収まっていった。
「終わった。身体は動くか?」
天崎が問うと、安藤は腕を上げようと身じろぎする。だが痙攣したように震えた腕はわずかに浮いただけで、すぐに床へと落ちてしまった。
腕を動かすことすら失敗した友人を見て、天崎は心配そうに声を潜めた。
「まさか動かないのか?」
「いや、大丈夫だよ。言うなれば、正座した後に足が痺れるようなものさ。急に血行が良くなって、しばらくはまともに動けそうにないだけだ。……というか、その手袋は何だ? いったい今、何が起きている? 君は何を知っている? 説明しろ」
「あぁ。つっても、俺もまだまともに状況を把握できてるわけじゃないけどな」
そう断りを入れ、天崎は先ほど会った死神との会話を話した。
あらかた聞き終えた安藤は、説明を噛み砕くように小声で呟く。
「死神が結界を張って、その中で魂を集めるゲーム……か」
「それで訊きたいんだけど、死神ってどういう種族なんだ? どういう能力を持っている? 前にお前は死神は実在するって言ってたよな? もし詳しいことを知ってるんだったら教えてくれ」
「……いや、その前に結界の話がしたい。悪い、これは僕のミスだ」
「安藤の? どういう意味だ?」
「以前、吸血鬼と戦うためにこの学校に結界を張っただろ? おそらくその結界の構築式を改造され、再利用されてるんだと思う」
二ヶ月ほど前、リベリアを祖国へ連れ戻すためにやってきた彼女の兄と戦ったことを、天崎は思い出していた。結局あれの後始末は安藤に任せっきりだったため、どうやって事が収束したのかは、伝聞でしか知らない。
「僕がやったのは、ノートに書いた文章を消しゴムで消したようなものさ。ページを破り捨てておけば、再利用されることもなかった」
「それでお前を責めるのは筋違いだろ。そんなもの、誰だって再利用するとは思わない」
そういう意味では、責任の一端は天崎にもある。あの時は、無茶をして大怪我を負った天崎の治療を最優先にしていただろうから。
「で、死神という種族の素性だったね。はっきり言って、僕も詳しくは知らない。というよりも、僕が知っていることがすべてとは限らない。ということを理解して聞いてくれ」
「分かった」
「君も知っているように、死神とは死を司る神だ。冥界からの使者として現世の魂を運んでいくため、人間の間では死の象徴として恐れられている」
「冥界からの使者?」
「案内人と言い換えてもいいのかな。前にも話したように、地上に住むすべての生物には魂が宿っている。肉体が死ねば、その魂は一定期間だけ現世を彷徨って、そのうち冥界へ昇っていく、とね。普通はそうなんだけど、たまに道に迷ったり、いつまでも現世から離れようとしない魂も少なからず出てくる。それらを冥界へ導くのが死神の役割だ」
「たまに道端に居る、幽霊とかの話か?」
「そうそう。ただ死神と幽霊の比率自体釣り合いが取れていないし、長く現世を彷徨っていると、死神から身を隠すのが上手くなるという話は聞いたな」
「つまり死神そのものは、良い奴ってことでいいんだな?」
「良い奴かどうかは知らないけど、自然の摂理の一部なんだよ。死神も、幽霊も」
確かに、動物の死骸を分解する微生物に良い奴も何もないか。と、天崎は考え直した。
「でもその話だと、死神が運べるのは死んだ生き物の魂なんだろ? 生きてる人間から魂を引き剥がすことなんてできるのか?」
「能力的にはできる」
安藤は断言した。
「ただ一度にこれだけ大勢の魂を抜くのは、『結界内だから』と結論付けるしかないよ。どうやったかは知らないけど、そうやって結界を構築したと考えるしかない」
「そうか……」
「それに生きてる人間から魂を抜くという行為は、基本的には禁止されているはずだ。少なくとも、僕はそう聞いている。もしそのような禁止行為が発覚した場合、冥界から存在を消されるか、非常に苦しい拷問を受けることになるとね」
「…………?」
その説明を聞いた天崎は、何か引っ掛かりを覚えた。
「……じゃあこのゲーム自体、あの石神にとっては非常に危険な行為ってことなんだろ? 冥界にバレたら存在を消されるって……」
「結界の中だから、まだ気づかれてはいないんだろ」
「それはそうかもしれないけどさ、でもアイツ言ってたぞ。二十四時間が経過したら、結界は解けるって」
「む……」
天崎の言いたいことを察して、安藤もまた首を捻った。
目標通り、天崎がすべての人間の魂を元に戻してから結界を解くのであれば、なんら問題はない。冥界にも察知されないだろう。しかし目標クリアならず、人間の魂が残ったまま結界が解かれたらどうなるのだ? 自分が主犯と判明できないような処置でも施しているのだろうか?
「その石神って奴の目的がいまいち分からないな。君にゲームをしようって言ってきただけなんだろ?」
「そう。けど、結局その後のことは聞けずじまいだった。まさかゲーム自体が奴の目的だとは思わないし……」
思案していた二人の間に、沈黙が降りる。
しかしいくら考えたところで、死神の目的など計り知ることはできなかった。
「ひとまず、今は指示通りに動くしかない。僕も動けるようになったら加勢する」
「やっぱそうなるか……」
「その前に、もしものことを考えておきたい。スマホは持っているかい?」
「あっ」
怒涛の展開に理解が追い付かず、今の今までその存在すら忘れてしまっていた。
そうだ。外部と連絡が取れれば、助けを呼ぶことができるかもしれない。
今まで気づかなかった自分を殴ってやりたい衝動に駆られながらも、天崎はポケットからスマホを取り出した。この高校を知っていて、なおかつ戦闘能力がある人物といえば……リベリアしかいまい。
慌てて電話をかける。
が、しかし……。
「……ダメだ。電波自体、繋がってないみたいだ」
「なら、誰かが異変に気づいてくれるのを期待するしかないね」
助けが来る望みは薄いなと、天崎は肩を落とした。
だが学校の敷地全体という結界の大きさと、真昼間の時間帯、そして学園祭中ということを合わせても、むしろ気づかれない方が不思議なんじゃなかろうか?
「分からないね。ここからだと、この結界がどういうふうに改造されてるのか判断できないから、何とも言えない。自由に出入りはできるのか。外部から認識はできるのか。結界の構築式の書き換えは可能なのか」
「ちょっと待て。もしかしてお前なら、二十四時間って時間制限を引き延ばすことも可能なんじゃないか?」
「見てみないことには分からないよ。僕は身体が動くようになったら、そっちを見に行くつもりだ。君のその手袋は、一つしかないんだろ?」
「……そうだな」
ひとまず方向性は決まった。天崎は魂集めを続行し、安藤は結界の様子を見る。
そしてできれば、石神の目的を聞き出す。
「悪いけど、円はここにいて安藤を診てやっててくれ」
「わかった」
無表情で頷いた円にその場を任せ、天崎は教室を飛び出していった。
結界を通り抜けられるのか確かめるのと、他に一つ心配事があったため、とりあえず天崎は正門へと足を運んでいた。
門の前に立ち、腕を前に突き出してみる。すると敷地の境目あたりで、指先が分厚いガラスのようなものに衝突した。どうやら外に出ることはできないらしい。
続いて、しばらく外を眺めてみるものの……人や車が通ることは一切なかった。
つまりこの学校は、完全に外部から隔離されてしまったと言っても過言ではない。
天崎に結界の知識はないので、こちらは安藤に任せるとする。
次に天崎は、心配事を確かめるため空を仰いだ。
漂っている魂を元の肉体に戻せというルールは、まだいい。しかし手の届かない上空に浮いている魂を、どうやって手元に引き寄せればいいのだろうか。
そう危惧した天崎は、手袋をはめて上空へと手をかざした。
すると腕の延長上にある魂が、ゆっくりと近づいてくる。数秒後には、手が届くほどの高度まで降りて来ていた。
なるほど。この手袋があれば、どこに魂があろうと関係ないというわけだ。
心配事が解決した天崎は、早速魂集めを開始した。
正門前で倒れている男子生徒の横で膝をつき、近場の魂の方へと手を伸ばす。ゆっくりと近づいてきたその魂を手に取ると、すかさず男子生徒の頬へ触れさせる。
ハズレ。魂は無情にも彼の身体をすり抜けていった。
そのまま天崎は、同じ行為を何度も何度も繰り返した。
魂を引き寄せ、男子生徒の肉体に収める。ハズレ。引き寄せ、収める。ハズレ。引き寄せ、収める。ハズレ……。
いったい、何度試行したことだろう。十回あたりから数えるのを止め、ゆうに三十回は越えた頃、ようやく一つの魂が男子生徒の肉体へと入っていった。
「よしっ!」
思わず喜びの声を上げる天崎。
しかし一息ついて腕時計を確認するのと同時に、彼は絶望のどん底へと叩き落された。
「十分……だと?」
そう。一人の魂を引き当てるまでに、約十分も消費してしまっていたのだ。
制限時間は二十四時間。一人を助けるのに十分かかるということは、単純計算したところで百四十人程度。正解を重ねるごとに魂の数は減っていくが、そんなものは誤差でしかない。
そして正確には分からないが、校内にいる人間は千三百人から千四百人くらい。どう計算したところで……間に合うわけがなかった。
「無理だ……」
そういえばと、天崎は月島の魂を見つけた時のことを思い出していた。
月島は校舎内で倒れたはずなのに、何故か魂は校庭にある体育倉庫の側にあった。つまり肉体の側に正しい魂があるとは限らないのだ。今の男子生徒は、たまたま運が良かっただけ。
自分が魂集めを続行するのは当然として、制限時間に関しては安藤に期待するしかないのか? かといって、全員を助けるまでに何日かかる?
いや、そもそも石神の言葉は、二十四時間が経過すれば『自動的に』結界が解けるというようなニュアンスだった。たとえ制限時間を延ばしたとしても、石神が手動で結界を解けるのなら意味がない。というか石神自身が結界を改造したのなら、できると考えた方が自然だ。
ダメだ。どう考察したところで、ネガティブな結末にしか行き当たらない。
「くそっ!」
悪態をついた天崎は、足の裏で地面を蹴る。
そして再び石神と面会すべく、彼は体育館へと走り出したのであった。




