表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラキュティックタイム  作者: 秋山 楓
第5話『フェイス・トゥ・デスバルーン』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/226

第1章 祭りの前の騒がしさ

 学園祭を明日に控えた金曜日の午後。黒板上のスピーカーが昼休みの終わりを告げる前に、クラスメイトは全員しっかりと着席していた。


 ただ彼らの顔に、空腹を満たした時にできる午後特有の眠気はない。また教壇に立っているのは教師ではなく、そのクラスの委員長だった。


「みんな、今日まで一生懸命準備してくれてありがとう。泣いても笑っても本番はもう明日。っていっても、今年から人気投票は廃止されたみたいだから、各々が楽しめるように頑張りましょう!」


 委員長の短いスピーチが終わると、生徒たちは一斉に動き出した。


 本日の午前までは通常通りの授業があり、午後から明日に向けて最終的な準備をするのである。そのため必要最低限の机だけを置いて、残りは空き教室へと移動させる必要があった。


 自分たちの机を運ぶ生徒が列を作る中、月島が天崎の隣に並んだ。


「ねぇ、天崎さん。委員長が言ってた人気投票って?」

「去年までは、どのクラスの出し物が一番良かったかっていう人気投票が学園祭の最後にあったんだよ。そこで一位を取ったからどうってわけじゃないけど、まぁクラス間で競わせるための起爆剤みたいなもんだな。その人気投票が、今年からなくなったらしい」

「へぇ、そうなんだ。なんでなくなったんだろう?」

「たぶんだけど、人気のある出し物が被っちゃうからじゃないか? 全学年全クラスお化け屋敷とか嫌だろ」

「そ、そうだね」

「それに三年は理系文系分かれてて不公平だろうし、そもそも受験が控えてるから学内行事なんてそうそう力は入れないだろうしな。あんまり意味がないって気づいたんだろ」

「受験かぁ。ってことは、自分たちが主体の学園祭って、今年が最後なんだね」

「そうなるな」


 来年も他クラスの出し物を見て回ることはできるだろうが、この時期の高校三年生というのは勉強漬けの毎日だろう。学園祭なんかに精を出している場合じゃない。となると、期間内の準備も含め、本気で集中できるのは今年で最後だ。


 天崎は隣で机を運んでいる月島を、チラリと盗み見た。


 そういえば、学生生活のほとんどを転校に費やしている月島は、最初から最後まで関われる学園祭というのは、これが初めてだと言っていた。できれば彼女には十分に楽しんでほしい。


 とはいっても、委員長たちと楽しそうに準備をしている月島の姿を、天崎も見ている。今さら自分が心配するのも無用かと、天崎は思った。


 ふと、月島と目が合った。すると彼女は、急にそわそわし始める。


「どうした? 空き教室はこっちだぞ」

「えっ? あ、うん……」


 クラスメイトが列を作っているため、道を間違えることはない。だが足元のおぼつかない挙動不審な動きを見せられては、ついつい声を掛けずにはいられなかった。


「えっと、その……天崎さん」

「なんだ?」

「明日は……おののき荘の人たちは来るの?」

「円は行く気満々だったな。妹分のミルミルも。それに合わせて、保護者のばっちゃんも来ると思う。リベリアと空美さんは五分五分かな。あの二人、昼夜逆転の生活してるからさ」

「そ、そっか……」


 頷くものの、月島はまだ何か言いたそうだった。


 それはまるで、おののき荘の住人が来ることを確認したのは、ただ単に話の繋ぎにしたかったかのよう。返答の内容が重要でないことは、彼女の態度を見れば一目瞭然だった。


 しかし月島は口をパクパクさせるだけで、しばらく待っても一向に話し出そうとはしない。言いたいことはあるけれど、それを言葉にするにはまだ勇気が足りないといったご様子。次第に顔まで赤くなってく。このまま放置していれば、いずれは泣き出すんじゃないかと思ってしまうほど。


 ただ天崎はそこまで鬼でもなければ、バカでもなかった。

 月島から目を離しながら、照れ臭そうに呟いた。


「ま、四六時中あいつらを案内するわけじゃないし、午後過ぎには俺も時間が空くと思うよ」


 少し遠回りな言い方になったかな。と思いつつも、天崎は月島の顔を窺ってみる。


 彼女はアホみたいに口を開けたまま、天崎をじっと見つめていた。そして数歩歩いたところでようやく言葉の意味を理解したのか、照れながら、それでいて嬉しそうに「う、うん!」と頷いたのであった。






 大半の机と椅子が運び出された教室内は、普段よりも広く感じられた。


 その中で、学園祭の準備が着々と進められていく。机にテーブルクロスを整えて客席を作っている者。廊下に掲げる看板を設置する者。内装をより喫茶店らしくするため、飾り付けをする者。制作物はどれもすでに完成されているので、今日のメインはそれらを設置することくらいだ。


 さて、どこを手伝おうかと天崎が首を回していると、香ばしい匂いが鼻を突いた。

 匂いの発生源は黒板側の教室の隅。見れば、数人の男子生徒が鉄板を囲んでいた。


「何やってんだ?」


 と言いながら、天崎は輪の中へ入っていく。鉄板の正面では、両手にヘラを持った安藤が半人前にも満たない焼きそばと格闘していた。


「交代で練習してるんだよ。ぶっつけ本番で失敗してもダメだしな」

「あー、なるほど。メニューに焼きそばもあったもんな」


 隣にいるクラスメイトと会話しながらも、天崎は奥へと視線を移す。


 焼きそばの隣はタコ焼き器。さらに奥では、小さなホットケーキを作っているようだ。調理を担当するクラスメイトが、明日に備えて作り方を学んでいるのだろう。


 天崎は近くにあったメニュー表を手に取った。


 コーヒー、紅茶やオレンジジュースなどのドリンク類は女子が担当だし、淹れるだけなので練習もいらないだろう。サンドイッチやスナック菓子も同じ。ネックなのはその場で作らなければならない焼き物なのだろうが、果たして料理の経験もない現役高校生が、そう簡単に商品レベルの物を作ることができるのだろうか?


 そして案の定、メニュー表に視線を走らせている天崎の隣から、慌てた声が上がった。


「ちょっ、安藤! 焼きすぎ焼きすぎ! 麺が焦げてるって!」

「そうなのかい? いつも食べる焼きそばは、もう少し茶色い気がするけど……」

「それはソース絡めてるからだって!」


 メニュー表から顔を上げた天崎が目にしたのは、鉄板の上でダークマターと化した焼きそばの麺だった。


 意外や意外。知識、経験ともに豊富な大悪魔が、まさか焼きそば作りに失敗するなんて。

 いや、関係ないか。キッチンで焼きそばを作っている家庭的な悪魔なんて、まったく想像できない。


 自分が失敗したのかどうかも分かっていない安藤を見て呆れた天崎は、友人のために一肌脱ぐべく袖を捲った。


「しゃーねーなー。俺が手本を見せてやるよ」

「いや、天崎はいい。できる奴がでしゃばるな」

「材料がもったいない」

「口だけ出せ」


 四方から止められた天崎は、しょぼんと肩を落とすのであった。


 とそこで、アホ面下げた茶髪の男――犬飼が輪の中へ強引に割って入り、安藤が生成したダークマターを見て笑い声を上げた。


「ぶっは! マジかよ安藤、焼きそばも作れねーのかよ! ダッセ!」

「……じゃあ君がやってみろよ」


 いつもは温厚な安藤が、この時ばかりは本気で鬱陶しそうに表情を歪めた。

 だが煽った犬飼は、首から下げたデジカメをこれ見よがしに持ち上げる。


「ぶー、残念でした。俺っちは調理担当じゃないし、こっちの仕事もあるのさ。ほら、安藤。そのゴミを紙皿に盛って、こっち向けよ」


 カメラを構えた犬飼に逆らうことはできず、安藤は自らが作り上げた焼きそばらしい物体を渋々盛り付ける。そして仏頂面のまま、犬飼の被写体になることを承諾した。


 隣で見ていた天崎は、呆れた様子で犬飼を嗜める。


「おい犬飼。そんなことやってないで、お前も明日の準備を手伝えよ。委員長に怒られるぞ」

「ん? なんだ、天っちは知らないのか? 俺っちはその委員長から写真撮影を頼まれたんだぜ」

「委員長から? なんで?」


 訊くと、犬飼は何故か胸を張って偉そうに鼻を鳴らした。


「学園祭の準備も思い出の一つだろ? ほら、祭りは準備の時が一番楽しいって言うしさ。んで俺っちは、学園祭に向けて準備するクラスメイトを撮影する係に任命されたってわけ。別にサボってるわけじゃねえぞ」

「あー、なるほどな」


 体よく厄介払いされたってわけか。と、天崎は自分の友人を哀れに思った。


 あえて犬飼に写真係を任せたメリットを挙げるとするならば、委員長はコイツのコミュニケーション能力を見込んだのだろう。男女ともに隔てなく接せられる犬飼なら、写真の比率が偏らないと思ったのかもしれない。


 焼きそば、たこ焼き、ホットケーキを調理するクラスメイトが交代で練習する中、天崎は自分でやりたい衝動に駆られながらも、コツなどを口で説明する。ほとんどの生徒が実家暮らしなので仕方のないことかもしれないが、かなりの人数が一度も料理をしたことがないような手つきだったのは、少なからず天崎も不安を覚えた。


 調理担当の生徒が一通り練習し終えたところで、天崎は顔を上げた。

 そこで違和感を抱く。


「……なんか、いつの間にか人数が減ってないか?」


 言われて気づいたのか、安藤も教室内を見渡してから不思議そうな声を上げた。


「ホントだ。特に女子が少ない気がする」


 一部のクラスメイトは部活の出し物の方を手伝いに行っているため、最初から全員いたわけではない。ただそれでも、最初にいたはずの女子たちがいなくなっているような気がしてならなかった。


 だがしかし、そんな二人の疑問はすぐに解消する。

 教室の入り口から、メイドの衣装を着込んだ女子の集団が登場したからだ。


「うっほー! 来た来た、今回の目玉!!」


 歓喜の雄叫びを上げた犬飼が、デジカメ片手にすっ飛んでいった。


 だがエロ犬みたいに声は上げずとも、クラス中の誰もが作業の手を止め、メイドの集団に目を奪われていた。普段制服でしか会ったことのない女子たちが、私服を通り越してメイド姿を披露するなど、神秘的にもほどがある!


「ちょ、ちょっと犬飼、撮りすぎだってば! 恥ずかしがってる子もいるじゃない!」

「いやいや、委員長。こんなことで恥じらってたら、接客なんてできませんですぜ。げへへ」


 普段は勝気な委員長ですらも、この時ばかりは顔を赤く染めていた。いわんや他の女子生徒は、なお衣装を隠すように身を寄せ合っている。


 写真係という大義名分のある犬飼は、そんな彼女たちもお構いなしに撮り続けていた。

 ふと天崎は、顔を上げた委員長と眼が合った。


「ほら、天崎。ちょっとこっちにいらっしゃい」

「お、俺?」


 何故か指名され、天崎はたじろぎながらもメイド集団へと近寄っていく。

 側まで来たところで、委員長は集団の奥から一人のメイドを引っ張り出してきた。

 委員長やその他の女子たちと同じようにメイド衣装を着込んだ、月島だった。


「何か言うことは?」

「え? えっと……」


 脅迫じみた委員長の声音に、思わず身を竦ませてしまう。ただ言葉に詰まりながらも、天崎はしっかりと月島のメイド姿を観察していた。


 紺色を基調としたワンピースに、純白のエプロンドレス。スカートの裾や袖には、ひらひらなフリル。極めつけには、頭の上に白いカチューシャ。見た目だけでいえば簡素なものだが、出来栄えは目を見張るものがあった。


 頬を紅潮させたままじっと足元を見つめている月島に対し、天崎もまた顔を背けながら答えた。


「す、すごい完成度だな。自分たちで作ったのか?」

「う、うん。手芸部の植松さんに監修してもらって、みんなで作ったの……」

「へぇ、そりゃ大変だったな」

「うん。大変だった」

「…………」

「…………」


 微妙な雰囲気が漂うのと同時に、会話はそこで終了した。

 しかし月島の背後にいる女子たちは、それでは許してくれそうになかった。


「ちーがーうーだーろ! 天崎!」


 委員長のローキックが、天崎の脛に炸裂する。痛いと絶叫するほどではなかったが、目尻に涙が溜まるくらいの刺激はあった。


 次に委員長は月島の背後へと回ると、両手で彼女の顔をくいっと持ち上げる。ずっと下を向いてた月島と、眼が合う形になった。


 そこでようやく、天崎は逃げることを諦めた。

 しっかりと月島の目を見ながら、素直な感想を溢す。


「似合ってるよ、月島」

「あ……ありがとう」


 最終的に月島は、両手で顔を覆って背中を向けてしまった。

 委員長は満足したように頷くが、天崎は気まずそうに頭を掻くだけだった。


 と、メイド集団の中から出てきた普通のセーラー服を着た小柄な女子生徒――手芸部の植松が、羞恥心で破裂しそうな月島へと声を掛けた。


「へーい。青春してるとこ悪いね、月島さん。着心地はどうだい? もし合ってないようだったら寸法直すから、遠慮せずに言ってね」

「うん。大丈夫だと思う。でも少し……胸がきついかな?」

「えぇ!? うっそ。胸と腰回りだけは、ちゃんと測ったはずなのに……。ごめん、仕立て直すね」


 と言って、手芸部の植松は月島を含めた数人のメイドを連れて教室から出ていった。おそらくこれから最終調整をするのだろう。


 そのやり取りを目にしていた犬飼が、写真を撮るのも忘れて、戦慄した顔でメイドたちの背中を見送っていた。


「つ、月島の奴……戦いの中で成長してやがる」

「……何と戦ってるんだよ」

「月島の奴、日常の中で成長してやがる!」

「言い直すなよ。日常の中じゃ、誰だって成長してるぞ」

「天っちが日常的に月島の胸を揉んでるってことなのかい!?」

「ばっ、誤解されるようなことほざいてんじゃねえよ!!」


 天崎の渾身の一撃が、犬飼の下っ腹に食い込んだ。この世のものとは思えない気色悪い断末魔を吐いてその場で崩れ落ちるものの、いつものことなのでクラスの誰一人として犬飼を心配する者はいなかった。


 友人二人がじゃれ合っている中、安藤が一枚の紙を取り出して委員長の横へと並んだ。


「委員長。シフトのことで一つ訊きたいんだけど、僕の名前の横に(仮)って記載してあるのは、どういう意味?」

「あぁ、それね」


 と言っているのを聞いて、天崎も思い出す。


 土曜日と日曜日、午前と午後の四つに分かれたシフトにはすべて安藤の名前が記載されており、その横に(仮)というマークがあったはずだ。


「佐野さんがいつ来れるか分からなかったから、安藤君の名前は仮で書いておいたのよ。安藤君は佐野さんがいない時に、ちょくちょく手伝ってもらえばいいから」

「なるほど、そういうことか。ちなみに土曜日……明日来るって言ってたよ」

「そう? じゃあシフトは日曜日にお願いね」


 了解した。と、安藤はシフト表を引っ込めた。

 その横で、悶絶から早々に復帰した犬飼が気持ちの悪い笑顔を浮かべていることに気づく。


「安藤さん、マジっすか!? 女子大生が来るんすか!? マジぱねえっす!」

「……いや、来るって言っても、僕の彼女だけだから」

「ちぇ。なんだ、ただ自慢したいだけかよ」

「…………」


 嬉々とした表情から一変、犬飼の顔はやさぐれ者のそれに変わった。


「そうそう、委員長。そういえば俺っちの名前はシフト表に書いてなかったけど、それは俺っちが自由に遊び回っててもいいってことなんかい?」


 んな訳あるか。と誰もが思ったが、目を輝かせている犬飼は信じて疑っていない様子。

 そんな犬飼の目を見ながら、委員長は無慈悲にも言い放った。


「なに言ってるの? 犬飼は門の付近で看板持ちと、写真撮影でしょ?」

「…………さいですか」


 哀愁を漂わせるほどの落ち込み具合は、さすがの天崎も気の毒に思った。


 とは言うものの、天崎も他人事ではなかったりする。実は天崎の名前も、シフト表に記されていなかったからだ。部活の出し物を手伝うクラスメイトもいる手前、全員分の名前が書かれていなかったこと自体は不思議に思わなかったが、まさか部活未所属の自分もないとは思わなかった。


 そんなことを危惧していると、不意に委員長と眼が合った。


 そして彼女は言うべきことを思い出したかのように、天崎の方へと近寄ってくる。しかも委員長には珍しく、天崎に対して妙に下手だった。


「そういえば、天崎。急で悪いんだけど、親戚の円ちゃんって連れて来れない?」

「円を? なんで?」

「それがさ、このクラスの女子で、会いたいって言う子がけっこういるのよね」

「あー……なるほどな」


 先日、笑顔の円が写っている画像がクラス内に拡散されたことを、天崎も知っている。そしてその人気も。


 なんでそんなに広まっているんだと憤慨したのも一瞬で、自分が撮って送ったことが原因であることに気づいた天崎は、黙る他なかった。それ以上拡散しないという約束は守られているみたいだが、何故かその人気は留まることを知らない。このクラス内において、今やアイドル級の存在にまで至っていた。


 円本人も行く気満々だったし、どのみち顔を合わせることになるだろう。

 とはいえ絶対に連れて来られる保証はないというニュアンスを込めて、天崎は答える。


「分かった、説得してみるよ。ただ無理ってなっても、文句は言うなよ」

「本当!? ……そうね、円ちゃんが嫌だって言うんなら、無理やり連れてこなくても大丈夫だから」


 咄嗟に本音が出て、後から建前で取り繕うところを見ると、どうやら本気で嬉しいらしい。その証拠に、今のやり取りを聞いていた女子の中から歓喜の声が上がっていた。


「いつ来れそう?」

「来るなら明日だな」

「じゃあ天崎のシフトは日曜日っと。これで月島さんのシフトも決定ね」


 なるほど、謀られたわけか。

 シフト表に手書きで名前を加える委員長を見た天崎は、胸の奥がむず痒くなる感覚を味わった。


 そして教室の中心で腰に手を当てた委員長が、室内を大きく見渡した。

 飾り付けはもうほとんど終わっている。後は明日の本番を待つだけだ。


「っと、そうだ。犬飼、撮った写真見せてよ」

「えっ?」

「学園祭の準備は今日まででしょ? 撮ってない場所とか人がいたら指示するから、確認させてよ」


 委員長の要求はもっともなものだったが、何故か犬飼は挙動不審になった。

 その反応を怪訝に思ったのか、委員長の顔が疑惑に歪む。


「なに、あんた。もしかしてサボってたの?」

「い、いや、ちゃんと仕事はしたぜ。ただ、ところ構わず撮ってたから、まだ画像の整理が全然できてなくて……」

「フィルムじゃなくてデータなんだから、無駄なもの撮ってたからって別に怒ったりはしないわよ」


 と言って、委員長は犬飼から無理やりデジカメをひったくった。その際、「やべっ」と小さく毒づいたのを、天崎は聞き逃さない。カメラロールを捲っていく委員長の後ろに回り、写っている写真を確認する。


 どうやら撮影日付順に表示されているようで、先ほどのメイド姿の女子たちから、教室の隅で調理の練習をしている男子生徒へと移り変わっていく。


「なによ、ちゃんと撮れてるじゃない。別に隠すほど下手じゃない……し……」


 十数枚ほど確認したところで、委員長の顔色が変わった。

 作業中の生徒や記念撮影風の写真に混じって、明らかにおかしな写真があったからだ。


 異様にローアングルから撮られていたり、誰を被写体にしたのかもわからないほどアップにされていたり。それらのすべてが女子であり、物を拾おうと屈んだ場面やスカートのまま教室の床に座っている姿なのは共通だが。


 それらの写真が何を意味しているのか即座に気づいた委員長は、わなわなと震えながらデジカメから顔を上げた。


「犬飼。これは何を撮った写真なのか、ちゃんと説明できる?」

「すんませんっしたーー!! ほんの出来心だったんっす!!」


 その場で土下座を披露した犬飼の頭上に、委員長の雷が落ちたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ