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ドラキュティックタイム  作者: 秋山 楓
第4話『ロスト・ステータス』

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第12章 決別

 青空が茜色に変わっていくような時刻。

 村の中心を流れる小川の畔で、天崎は靴を脱いで素足になっていた。


「くっそ。だいぶ抉れてやがるな……」


 天崎は自分の足首を確認して顔をしかめた。


 太陽の塔の頂上に向かっている途中、蛇に噛まれてできた傷跡だ。牙による穴が二つ開いてるような生易しいものではなく、骨が見えそうなほどガッツリと齧り取られていた。太郎が言っていたように毒を持っていないのは幸いだが、よくもまあこの状態で坂道を全力疾走できたものだ。


 小川の端に座り込み、裸足になった足を流水へ浸す。痛みと冷たさで、全身に電流が流れたような感覚を味わった。


 そして用意していた緑色の葉っぱを、足首の傷に押し当てる。


 村人の話では、この薬草を使えば数分で傷が治ると言っていた。原理は分からないが、粉末状にして飲めば失われた肉が再生し、薬草を直接傷口に当てれば傷が塞がるらしい。粉末の薬草を飲んだ後、傷を塞ぐために小川を訪れたのだった。


 太陽の塔を脱出した天崎たちは、一旦休息を取るため一番近い村まで足を運んでいた。いつ起きるか分からない太郎とマロンを宿で寝かせ、天崎は傷を癒すために村の小川へ。リベリアはもう一度太陽の塔へ飛んで行き、事後調査を行ってもらっていた。


 そろそろ戻ってくる頃かな、と思いながら小川で足を冷やしていると、まるで天崎の心を読んだかのように、リベリアが空から舞い降りてきた。


 地面へ足を付けると同時に、彼女は敬礼する。


「ただいま戻りました!」

「おう、お疲れ。どうだった?」

「太陽の塔は完全に崩壊していましたね。瓦礫の山になっています。簡単に周辺を見て回ったんですけど、敵チームも太陽の剣も見つかりませんでした。おそらく瓦礫の下敷きになってると思います。面倒だったので、掘り起こしたりはしませんでしたけど」

「別にいいよ。たぶん敵は元の世界に帰ったんだろうし、太陽の剣は真っ二つの折れちまったからな。使い物にならんだろ」


 言いながら、天崎はマロンの言葉を思い出していた。


 もともと太陽の剣を手に入れようとしてたのは、ただの保険だったはずだ。自分たちで使うわけではなく、他のチームに奪われないために入手する。それが真っ二つに折れたというのであれば、少なくとも当初の目的は達成されたということだ。それに加えて敵チームを一つ殲滅できたのは、結果としてはプラスだろう。


「ま、伝説の剣をゲットできなかったことは、少し残念だったけどな」

「天崎さんって、意外と中二病ですよね」

「うるせっ。お前に言われたくねえよ」


 などと言い合いながら、リベリアも靴を脱ぎ始めた。


 ジーンズの裾を捲り上げ、天崎と同じように両足を小川の中へと突っ込む。想像以上に冷たかったのか、全身を震わせたリベリアが、舌を噛んでしまったような苦い顔をして「ちべたっ!」と叫んだのだった。


 そのまま彼女は天崎の隣に腰を下ろした。


「これは私の想像なんですけど、太陽神っていうのは、実は太陽に一番近い塔そのものだったんじゃないでしょうか? そんな気がします」

「あー……それはあるかもな。ダンジョン内にあった蛇の抜け殻は、ただの中ボスだっただけで。太陽の剣を手に入れるために、月の鏡が必要ってのも頷ける」

「おそらく月の鏡で太陽の塔を眠らせていたのでしょう。もともとは天に届くほど高い塔で、頂上まで辿り着けないはずでしたが、月の鏡で眠らせたことによって攻略可能な低い位置まで降りてきた。私が月の鏡を割ってしまったので、途中で起きてしまったんでしょうね」

「今さらだけど、最初からリベリアが頂上まで飛んでいけば、簡単に入手できたんじゃないか?」

「結果論ですよ、それ」


 と言って笑うリベリアに対し、それもそうかと天崎は頭を掻いた。


 太陽の剣が蛇の牙みたいに突き刺さってるなんて予想はできないし、そもそも太陽の塔がとぐろを巻いた状態で、同じ場所にあったかどうかも疑問だ。眠っている状態と目を覚ました状態では、明らかに塔全体が変形しているようだったし。


「ま、なんにせよ全員無事でよかったよ」

「……無事とは言い難いんですけどね」


 少し棘のあるリベリアの返しに、天崎は疑問に思う。確かに太郎とマロンはまだ目を覚ましていないため無事とは断定できないが、しかし怪我などはしていないはずだ。


 そう反論しようと、天崎はリベリアの方へ顔を向ける。

 彼女は何故か小さく頬を膨らまし、その目つきは少し怒っているようだった。


「どうしたんだ?」


 リベリアが不機嫌になった理由が分からず、天崎は純粋に訊ねた。

 分からないんですか? とでも言いたげに、リベリアは露骨にため息を漏らした。


「天崎さんに一つお訊きしたいことがあります。どうして敵の魔導士さんを助けようとしたんですか?」

「魔導士? 通路を落ちてった、あの女の子のことだよな? 俺は助けてなんかないぞ」

「両手が塞がってたから結果的にはそうなったかもしれませんが、側にいた私にはそう見えていましたよ。天崎さんは両手がフリーの状態なら、間違いなくあの魔導士さんを助けていたと思います」


 そうだろうか? と疑問に思いつつ、天崎は自分の手の平を見つめた。


 しっかりと思い返してみれば、リベリアの言葉が正しいのだと、天崎自身も気づいた。確かにあの時、自分は魔導士に向けて手を伸ばそうとしたような気がする。そして助けられなかった後、それに対して悪態をついたはずだ。


「なんで助けようとしたのかといえば……特に意味なんてないぞ。ただ反射的にそうするべきだと思っただけだ」

「敵なのに、ですか?」

「俺とあの魔導士は、あそこで初対面だっただろ? 頭では敵だと理解してても、直接攻撃されたわけでもないのに、心から敵対しろっていう方が難しいだろ」

「助けた後、どうせ殺さなくちゃいけないのに?」

「俺は二手も三手も先読みできる生き方はしてねえよ」


 というか、何故こんな話になったのだ? どうして自分は今、リベリアに尋問みたいなことをされているのだろう。リベリアの意図と、求めている答えが分からない。


 頭に疑問符を満たしながら、天崎はリベリアの顔を恐る恐る覗き込んだ。


 小川の対岸を見つめている瞳には、もう怒りの色は窺えない。とはいえ、今度はとてもつまらなさそうに口を尖らせていた。


「そうですよねー。天崎さんは、可愛い女の子を助けるのが趣味みたいなものですからねー」

「いや、待て。俺にそんな趣味はないんだが」

「ま、そこが天崎さんの素晴らしいところなんですが……」


 と言って、リベリアは体育座りをするように脚を曲げた。


 膝に頬を押し付けて、天崎の方へ顔を向ける。さっきまでの怒りの感情はどこ吹く風。リベリアは天崎と眼が合ったことを喜ぶように、笑みを浮かべていた。


 感情がころころと変わる奴だな。と、天崎は思った。


「そういえば、こうやって天崎さんと二人きりで話すのは久しぶりですね」


 また全然違う方向に話題が飛んだなと思いながらも、天崎は素直に答えた。


「そうか?」

「そうですよ。たぶん初めて服を買いに行った時以来じゃないですか?」


 普通に週五以上で顔を合わせているため、そんな感覚はまったくなかった。


 リベリアと出会ってから今日までを、頑張って思い出してみる。


 確かに、二人きりという意味ではその通りかもしれない。部屋で朝食や夕食をたかりに来る時は必ず円がいるし、少し前に遊びに行った時は五人だった。そもそもお互いの活動時間が真逆のためか、一緒に何かをするということ自体が少ない。リベリアは初めて服を買いに行った時と言ったが、それ以降は一緒に買い物に行ったこともなかった。


 そこまで考え、天崎の頭上で豆電球が光った。


 もしかしてリベリアは、自分と一緒に買い物に行きたいのではないか? 何か欲しい物があって、それをねだっているのではないか?


 そういうことなら話は早い。値段の上限はあるが、今度プレゼントしてやるか。


 いやぁ、何か久しぶりに女の子の気持ちを理解できた気がするなぁ。

 などと自己完結し、得意げに頷いた天崎だったが……。


 再びリベリアの表情を確認した瞬間、心臓がドキッと跳ね上がった。

 先ほどと変わらず柔和に微笑んでいるリベリアの顔が、あまりにも美しかったからだ。


 夕日に照らされた肌はオレンジ色に染まり、その輪郭があやふやになる。

 わずかに濡れた瞳には、反射した光で輝きに満ちていた。


 彼女は吸血鬼だ。そんなことは知っている。

 けど、人間とか、吸血鬼とか、『完全なる雑種』とか、そんなものの前に……、

 リベリア=ホームハルトは、成人前の未熟な女の子だった。

 どこにでもいる、ごく一般的な普通の女の子だった。


「……どうかしましたか?」


 黙り込んでいた時間があまりにも長かったためか、リベリアが不思議そうに首を傾げた。


 声を掛けられ、天崎はハッと我に返った。それと同時に、慌てて顔を背ける。リベリアの顔に見惚れていたと正直に答えるのは、妙に気恥しかった。


「いや、なんでもない……」


 照れ臭すぎて、誤魔化し方が雑になってしまった。


 お互い無言のまま、少しだけ時間が過ぎていく。

 リベリアは手持無沙汰に小川の流水を蹴り上げながら。

 天崎は暗くなっていく空を見上げて、傷の回復に専念しながら。


 そして足首の痛みが消え、見た目も元に戻った頃、リベリアが再び訊ねてきた。


「天崎さんって、今後どうする予定ですか?」

「どうするもこうするも、高槻の指示に従うだけだよ。あいつが起きるまで、この村に滞在することになるとは思うけど」

「あぁ、いえ、そういうことではなくて、この異世界の攻略が終わった後の予定ですよ。ゲームは私たちが優勝するとして、元の世界に帰ります。その後、天崎さんはどういう生き方をするのかなって」

「俺の進路を訊いてるのか?」

「ま、そういうことですね」


 問われ、天崎は考えを巡らせるように空を仰いだ。


 改めて問われても、明確な進路を決めているわけではない。天崎はまだ高校二年生だ。そろそろ決めなければならないとはいえ、現時点では漠然とした考えしかなかった。


 そう前置きし、天崎は答えた。


「高校卒業した後は、大学に行くと思うよ。親からも大学くらいは出とけって言われてるからさ。さらにその先は、たぶん就職することになると思うけど……さすがに五年以上先の人生設計はしてねえなぁ」

「いつまでおののき荘にいます?」

「事情がない限り、高校卒業まではいると思う。そっから先はなんとも言えないな。受かる大学にもよるし。近場ならそのまま滞在するってのもありだけど、県外だったらさすがに引っ越しするしかないからな」

「そうですかぁ」


 答えを聞き終えたリベリアが、消沈気味に項垂れた。

 何か不満でもあるのかと、今度は天崎が問う。


「いえいえ、別に不満があるわけではありませんよ。天崎さんには天崎さんの人生がありますから、私が横から口を挟むわけにはいきません。ただ天崎さんがおののき荘を出て行った後のことを考えると、ちょっと寂しくなるなぁと思って」

「まだ一年以上も先の話だろ」

「百年近くも生きている私にとっては、一年なんてあっという間ですよ」

「確かに、年を取るにつれて一年が早く感じるっていうもんな」

「誰がお婆さんですか!」

「言ってねえよ」


 よく分からないところで癇癪を起すリベリアだった。

 そして彼女は、すぐ物憂げに顔を伏せる。


「私も天崎さんと同じ『完全なる雑種』になってしまったので、故郷には帰れません。今はまだいいのですが、おののき荘を出た後はどこでどうやって生きていこうか、今から考えているのですよ」

「なるほどな」


 他人事ではあるけれど、天崎はリベリアの心境がよく理解できた。


 吸血鬼の寿命がどれくらいなのかは、天崎も知らない。というかリベリアもすでに人間の一生程度を生きているため、相当長いであろうことは容易に想像できる。人間の友人を作ったところで先に逝ってしまうし、いつまでも同じ場所に留まっているわけにもいかない。


 かといって『完全なる雑種』になったリベリアは、兄から勘当された身だ。今さらのこのこ故郷に帰ることはできないだろう。そうなるとリベリア本人も言った通り、今はいいが数十年後には居場所を失ってしまう。


 なんとかして、リベリアを『完全なる雑種』から純粋な吸血鬼に戻してやることはできないか……。しかしそれだと、成人の儀とやらで、再び兄を食べることを強要されるかもしれないし……。


 などと考えていると、不意に気づいた。それは今さらな事実だ。


 リベリアは純粋な吸血鬼ではなく、ほぼ吸血鬼の『完全なる雑種』だった。

 そう、『完全なる雑種』なのだ。天崎と、同じ。


 ある可能性に至り、天崎は恐る恐るリベリアの方へと首を回した。


 リベリアのことを普通の女の子として認識してしまった理由。それは、彼女が純粋な吸血鬼ではなくなったからではないだろうか?


 出会った当初のことを思い出してみる。


 一緒にデパートへ服を買いに行った時、リベリアの全裸を目撃し、挙句の果てには胸まで揉んだはずだ。その時は、本当に一ミリたりとも欲情することはなかった。普通の人間が、ペットを撫でるのと同じように。


 その理由は、天崎が『完全なる雑種』だから。

 これ以上人間以外と交わることを許さない、彼の本能のようなものだった。


 では、『完全なる雑種』になった今のリベリアに対してはどうか。


 普通の女の子として認識しているのもさることながら、たかがビキニ姿を見ただけで恥じらうほどには意識してしまっている。一緒に並んで座っているだけで、通常時より心拍数が上がってしまっている。


 こんなの、もう疑いようがない。天崎が否定しようが関係ない。

 天崎の中でリベリアは、ただの『人外』という枠から一歩はみ出た存在になっていた。


 ふと、リベリアと視線が合った。天崎は思わず顔を逸らしてしまう。

 しかしいつまで経っても彼女は口を開くことなく、黙ったままだった。


 何故一言も発しないのか不思議に思い、天崎はリベリアを一瞥する。

 彼女は怪訝そうに眉を寄せながら、天崎の顔をじっと見つめていた。


「俺の顔に何かついてるのか?」

「いえ……天崎さんのレベル、なんかバグってません?」

「は?」


 指摘され、天崎は意識を自分の中へと向ける。

 そこでようやく気づいた。自分のレベルが1になっていることを。


「え……なんでだ?」


 疑問を発するも、答えは出てこなかった。


 ほんの少し前まで、天崎のレベルは6だったはずだ。出発地点の森から最初の街までの草原で上げた分のレベル。それ以降、天崎はモンスターも敵プレイヤーも倒していないため、ずっとそのままだった。


 まさか定期的に経験値を取得していないと、レベルが下がる仕様なのか?


 普通のRPGだったらプレーヤーが途中放棄してしまいそうな仕様だが、ここは造られた異世界。天崎たちが住む現実世界とは違う常識があってもおかしくはない。


 レベルが下がったからといって、身体に異常が出ているわけでもなさそうだ。後でマロンにでも訊いてみるか。と、楽観視していた天崎だったが……。


 彼が考えているよりも、事態は深刻だった。


 突然、ドーーーン! と轟音が響き、天崎とリベリアの間に稲妻が落ちた。

 衝撃に耐えられず反対側に一回転する天崎と、反射的に身を引くリベリア。


 地面に片膝をついた天崎は、慌てて空を仰いだ。上空には雲一つなく、茜色の晴天が広がっている。つまり今の稲妻は自然発生したものではない。魔法だ。


 急いで周囲を見回す。稲妻の発生源はすぐに見つかった。

 少し離れた場所で、マントを羽織ったマロンが杖の先端をこちらに向けて立っていた。


「あっ、マロンちゃん! 目が覚めたんですね!」


 嬉しそうに声を上げるリベリア。

 それとは対照的に、天崎は表情を強張らせていた。


「おい、高槻。どういうつもりだ? 危ねえだろ」


 言葉では強く出ているものの、天崎も内心では安堵していた。このまま目を覚まさなかったらどうしようと心配していなくもなかったからだ。


 だからマロンが起きたことは、天崎も純粋に喜びを感じていた。


 今の稲妻は冗談か何かだったに違いない。もしくは寝起きの運動といったところか。実際、怪我を負ったわけではないし……。


 という考えが甘かったことに、天崎はすぐ気がついた。

 剣呑とした表情のまま、マロンはまったく杖を下ろす様子がない。

 そして彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「天崎。悪いけど、あんたにはここで死んでもらうわ」

「は?」


 突然の殺害宣告に理解が追いつかず、天崎は呆然と口を開けるだけだった。


 と、その時である。マロンの杖先から再び稲妻が奔り、天崎の足元の地面を抉った。いや、今のは避けなければ完全に当たっていた。マロンの異様な雰囲気を察知し、もしもに備えて身構えていたからできた芸当だった。


 そのままマロンは、天崎に向けて二・三回ほど稲妻を放つ。幸いにも稲妻は杖先から一直線に飛んでくるため、天崎はそのすべての攻撃を回避できていた。


「ちょっと待てよ、高槻! 事情を説明しろ!」


 必死の思いで問いかけると、マロンの攻撃が止まった。

 ただ杖を下ろすことはなく、剣呑とした顔はそのままだったが。


「……そうね。何も知らないままリタイアするのも不憫だから、簡単に説明してあげるわ」


 何故か上から目線で、マロンは話し出した。


「さっき目を覚ました時に、私の雇い主から連絡があったの。あんたと酒井君、運営からチートの疑いがかけられてるわ」

「チート? なんでだよ」

「私が眠っている間の出来事だったから、雇い主から来た連絡をそのまま話すわね。酒井君、太陽の剣を真っ二つに折ったんですって?」

「それはそうだが……まさか伝説の武具は絶対に壊れないような仕様になっていて、それを易々と破壊したからチートだと思われてるのか?」

「私も同じ伝説の武具の、月の鏡を破壊しましたよ」


 横からリベリアのフォローが入る。確かにそれなら、リベリアだけ疑いから外れている説明にはならない。


 しかしマロンは残念そうに、ゆっくりと首を横に振った。


「別に伝説の武具に絶対壊れないなんて効果はないわ。月の鏡は最強の幻覚魔法ってだけで普通に壊れるし、太陽の剣も無理な使い方をしていればいずれは折れる。それでも、『クロウディア』内で最硬レベルの武器であることには違いないけど」

「じゃあ、なんで……」

「リベちゃんは()()()()()()()()()()()。酒井君は()()()()()()()()()()()()()。生身で攻撃を受けて剣の方が折れるって、常識的に考えてあり得ないでしょ」

「それは酒井の頭が異常に硬かったからだろ? ステータスにも、アイツの防御力の高さは見えてたはずだし」

「この際、ステータスの高さは関係ないわ。頭で太陽の剣を破壊できるプレイヤーは常軌を逸脱している。おそらくチートだろうと運営が判断したのよ」

「えぇ……」


 それは理不尽だろうと、天崎は唸った。


 当然ながら、太郎はチートなど使っていない。持っているものはその身一つであり、ただ頭の硬さだけで太陽の剣を折ったのだ。もちろん天崎自身、太郎の出鱈目具合は全面的に認めているが。


「それに天崎、あんたもよ」

「俺も!? まったく心当たりなんてないんだけどな……」

「私も最初にスルーしてたのが悪いんだけど、あんた本当にどうやって『クロウディア』に来たのよ。私はあんたなんか召喚したつもりはないのに」

「それは……リベリアの『完全なる雑種』の血に引かれたって、結論が出ただろ」

「それはあくまでも推測でしょ? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。というか、もうそんなのは関係ないの。問題なのは、召喚されたわけではないのにここにいるっていう事実」

「そんな……」


 天崎自身ただ巻き込まれただけなのに、それはあまりにも暴論だと思った。


 ただゲームの運営側の立場になってみれば、筋が通っていることも理解できた。呼ばれてもないのに勝手に来た天崎は、やはり異物以外の何物でもないだろう。ゲームをスムーズに進行したい運営が、バグを取り除きたいと思うのは当然だ。


 天崎が奥歯を噛みしめていると、マロンが唐突に肩を落とした。


「こんなことになるんなら、嘘なんか付かなきゃよかったわ」

「嘘?」

「現実世界に帰るためには、死ぬかクリアするしかないってやつ。やりようによっては、実はいくらでもあるのよね。一人くらい仲間は多い方がいいと思っちゃったのが仇となったわ」

「後悔しても今さらだろ。俺もとっくに気づいてたしさ」


 それでも天崎が帰らなかった理由は、いくつかある。

 安藤とのやり取りで『クロウディア』の方が時間の流れが早いと知ったこと。

 太郎を呼んでしまった責任。

 優勝者には賞金が出るという情報。


 週末の軽い異世界旅行という感覚で、天崎は早々に受け入れていたのであった。


「……で、チートの疑いがある俺と酒井を排除しろっていうお達しが来たわけか」

「そういうこと。しかも実力で倒せば、ゲームとは別に懸賞金も出るって話だから、潔く死んでくれない? 元の世界に戻ったら、なんでも奢ってあげるわよ」

「……酒井は今、どうしてる?」

「まだぐっすり寝てるわね。酒井君はあのステータスでしょ? どうやって倒すか決めかねてるから、まずはあんたからよ」

「そうか……」


 すでに話し合いでどうにかなる域ではなさそうだった。マロンの顔も殺る気満々で、微かに笑ってすらいる。天崎だけなら簡単に倒せるという、余裕の表れだろう。


 そこに活路はあった。

 突然、天崎が真横へと駆け出した。


「あっ、天崎さん!」

「ちょっと待ちなさい!」


 動揺したマロンが、慌てて杖を振った。しかし杖先から発生した稲妻は、民家の壁に阻まれてしまう。


 天崎はそのまま、全速力のダッシュで村から出ていく……と見せかけ、村の外周を大きく回って宿屋へと突入した。店主NPCには目もくれず、太郎が寝ている部屋へと急ぐ。


 案の定、太郎はまだ一度も目を覚ました形跡がなかった。


「起きろ、酒井! 逃げるぞ!」

「がー……がー……」

「全っ然起きないなコイツ!」


 太郎の寝つきの良さは天崎も知っていたが、今は悪態を付かざるを得なかった。


「天崎! 観念しなさい!」

「くそっ!」


 フェイントを入れたはずなのに、マロンはもう追ってきたようだ。


 宿屋の入り口から聞こえた声に慌てた天崎は、眠っている太郎の首根っこを掴んで強引に持ち上げる。そしてガラス窓を突き破って地面へ降り立つと、靴を忘れたまま一目散に村の外へと逃げていくのであった。

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