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ドラキュティックタイム  作者: 秋山 楓
第3話『エンゼル・ヘンジェル』

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間 章 とある惰天使と堕天使の会話

「……ここはどこでちか? 白くて何もないでち」


「お互いの意識が混じり合った精神世界なりよ。今はクルクルがアンタに頭突きしている最中なり。どんなに長く会話しても、現実世界では一瞬しか経過していないから安心していいなりよ」


「ふーん。年寄りはこんなこともできるんでちね」


「口の利き方には気をつけるなりよ、クソガキ」


「それで、精神世界にまで干渉してきて、ミルミルに何の用でちか? っていうか、アンタ誰でち?」


「クルクルは純正な天使なりよ。この地区のパトロールを任されて、五十年前に下界へ降りてきたなり」


「そうなんでちか。全然気づかなかったでち」


「そりゃあ、ずっと眠っていたから仕方のないことなり」


「つまり駄目天使の駄天使ってわけでちね?」


「自覚はあるから反論はしないなりけど、一つだけ訂正させてもらうなり。駄天使ではなく惰天使なり」


「意味が分からないでち」


「理解してもらおうとは思ってないなりよ」


「くだらない話をするだけなら帰らせてもらうでちよ」


「そう慌てるななり。少し話をしようなり」


「ミルミルは見知らぬ老人と話すことなんて一つもないんでちけど?」


「どうして堕天したなりか?」


「やれやれ、今時の老害は他人の話に耳を傾けないんでちねぇ」


「年上に礼儀を払えないゆとりに言われたくないなり」


「五十年も眠っていたアンタが、よくゆとりなんて言葉知ってるでちね……」


「で? 堕天した理由は、他人に話したくないことなんなりか?」


「話したくないというよりは、話しても無意味だから時間の無駄って感じでちね」


「時間はたっぷりあるなり」


「それでこの精神世界でちか……。じゃあ話すでちけど、アンタは天使の在り方について疑問に思ったことはないんでちか?」


「天使の在り方?」


「天使は製造されてから、すぐにアカデミーに入学させられるでち。そこで兵隊としてのイロハを学んで、卒業後は下界の平和を守るべく、使い捨ての駒として尽力するだけでちが……それになんの意味があるんでちか?」


「意味なんてないなりよ。天使はそのために、そういう風に造られた存在なりからね」


「思考停止して開き直ってるところが、また癇に障るでち。ミルミルにだって、一つの個体としての意志があるでち。やりたいことも手に入れたい物もあるでち。なのになんで、助ける義理もない無関係な下界の民のために、命を賭して戦わなければならないんでちか? どう考えてもおかしいでちよ」


「それで堕天したなりか?」


「そうでち。アカデミーも途中で抜けてきたでち」


「ん? アカデミーを卒業してないってことは、アンタ今いくつなんなりか?」


「生まれてから五年でち」


「かーっ! クソガキだと思ってたら、まだまだ赤ん坊じゃないなりか!」


「うるさいでち」


「あんな立派な亜空間を造れるのに、もったいないなりね。卒業試験じゃ、優秀な成績を修められたと思うなりよ」


「その考えに嫌気が差したって、なんで分からないんでちかねぇ。耄碌してるでちか?」


「耄碌はしてないなりが、眠気でぼんやりとはしてるなりよ。でも、今の会話でだいたい分かったなり。アンタ、『傲慢』の個性を与えられた天使だったなりか」


「『傲慢』?」


「やっぱりアカデミーを卒業してないから知らないなりか。兵隊となる天使は、生まれてからすぐにいろいろな個性を与えられるなり。本当の意味での機械的な人形じゃ、取り締まりにも融通が利かなくなるなりからね。ちなみにクルクルに与えられた個性は『怠惰』なり」


「それで、ミルミルの個性は『傲慢』だって言いたいんでちか?」


「堕天する天使の割合は、『傲慢』がダントツで多いなりよ」


「あっそ。どうでもいいでち」


「うん。どうでもよかったなりね」


「結局、アンタは何がしたいんでちか? ミルミルを説得させたいんでちか?」


「説得というよりは、場合によっては手助けしてあげてもいいなりよ」


「手助け?」


「アンタ、あのメガネのお兄さんを拉致ってどうするつもりだったなりか? 力を奪って、悪魔まで堕ちるつもりだったんなりか?」


「悪魔まで堕ちるつもりはないでちよ。天界からの追手が来た時に、撃退できる力が欲しかっただけでち」


「でもこうも短時間でクルクルに見つかっては、先が思いやられるなりね」


「減らず口ばかり叩くクソジジイでちねぇ」


「力を奪った後は? まさか下界を支配する予定とか言わないなりよね?」


「言わないなり。ミルミルはただ……人間のように生きたかっただけでちよ」


「人間のように?」


「別に贅沢したいとか、誰かを虐げたいとかは思っていないでち。天使みたいに運命に縛られた存在じゃなくて、自分で考えて、自分で行動して、自分で自由を勝ち取る生き方がしたいだけでち」


「それなら堕天する必要もなかったなりねぇ。クルクルみたいに、天界の目を欺いて、五十年も自由に眠り続けることだってできるなりから」


「それとこれとは話が違うでち。ミルミルは別に、ずっと眠っていたいわけじゃないでちからね」


「ふーん。ってことは、下界の民に危害を加えるようなことをするつもりはないと言うわけなりね?」


「基本的にはそうなるでちね。けどミルミル自身にも想像できない力を得るわけでちから、誤って他人を殺してしまうことはあるかもしれないでち」


「なるほど、なるほど」


「何を一人勝手に納得してるでちか。気持ち悪いでちね」


「いやね、もしよかったら、クルクルと取り引きをしないなりか?」


「手助けなのか取り引きなのか、はっきりしてほしいでち。これだから痴呆の始まった老いぼれとは話したくないんでちよ」


「生意気な口の利き方は後で指導するとして……手助けしてやることが、こちらが提示する取り引きの条件ってことなり」


「意味が分からないでちね。取り引きってなんでちか? 早く言うでち」


「本来堕天使は問答無用で排除対象なりが……アンタが下界の民に危害を加えないと約束するのならば、クルクルは見て見ぬふりをしてあげるなりよ」


「職務怠慢でちね。純正の天使がそんなことでいいんでちか?」


「こればっかりはクルクルの個性なりからねぇ。もし仮にアンタを排除したら、クルクルは天界に報告しなければならないなり。その際に五十年もサボっていたことがバレて、お咎めを食らうなりよ」


「自業自得じゃないでちか」


「うるさいなりね。で、どうするなりか?」


「まだ手助けの内容を聞いていないでち」


「言ったなりよ。クルクルは見て見ぬふりをする。それが手助けなり」


「手助けになってないでちよ! ただ何もしないだけじゃないでちか!」


「何なら、今すぐにでもアンタを排除してやってもいいなりよ。クルクルはアンタを排除した報告でお咎めを食らうのと、アンタが下界で問題を起こして天界にバレることを天秤に掛けるだけなり。下界で大人しく暮らすって言うんなら、クルクルと取り引きした方が賢い選択だと思うなりがね」


「…………」


「黙り込んじゃって、どうしたなりか?」


「その取引を成立させるには、一つだけ問題があるでち。あの『完全なる雑種』のお兄さん、ミルミルを許してくれそうにないでちよ」


「それは例外なり。メガネのお兄さんから力を奪うのと、『完全なる雑種』のお兄さんを排除するのは目を瞑るなりよ」


「いいんでちか? お仲間さんを見殺しにするようなマネして」


「は? 何言ってるなりか。別に仲間でもなんでもないなりよ。ただ目的が一致して、行動を共にしてただけなり」


「ふーん……ま、そういうことならいいでちけどね。その条件、承諾するでち」


「じゃあ取り引き成立なりね。クルクルは適当にやられて寝てるなりから、後は自分でなんとかするなりよ」

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