第8章 惰天使クルクル
問われるがまま名乗った天崎は、ひとまず腰を据えて話がしたいと思い、クルクルを自分の部屋へ来るように誘った。しかし不満顔を見せたクルクルは、歩きたくないなりと全身で拒否する。まるで木に張り付いたカブトムシ並の力強さだった。
仕方なく背負って運ぶという条件を取りつけ、天崎とクルクルはおののき荘へ移動することになった。たった百メートル程度だし、クルクルの体重は雲のように軽かったので、特に支障はなかった。
おののき荘の全体像を見るやいなや、背中のクルクルが驚きの声を上げた。
「あれ? なんでおののき荘がこんな所にあるなりか?」
「こんな所って?」
「クルクルはおののき荘の床下で眠っていたはずなり。なのに目を覚ましたら空き地になってたし、おののき荘は変な場所に移動してるし、訳が分からないなりよ」
「二ヶ月くらい前だったかな。前のおののき荘は、吸血鬼に破壊されちまったんだよ。んで、大家さんが近場に新しくおののき荘と同じアパートを建てたんだ」
「吸血鬼?」
訝しそうに呟いたクルクル。
肩越しでも分かる。クルクルは今、おののき荘の一室をじっと凝視している。
「そこに住んでる吸血鬼なりか?」
「やっぱり分かるんだな。……いや、やったのはアイツの兄の眷属だよ。もう日本には来ないと思うから、心配しなくていい」
「ふーん」
どういう意味での返事なのかは計りかねるが、背中から伝わる大きな欠伸が、特に興味もないことを示しているようだった。
「っていうか、前のおののき荘の床下で寝てたってことは、あの瓦礫の下敷きになってたってことなのか!?」
「そういうことになるなりね」
「……よく無事だったな」
どころか、よく目を覚まさなかったものだ。けっこう派手に破壊されたはずなんだけど。
「それで、君はなんでおののき荘の下で眠ってたんだ?」
「お兄さんの疑問は、たぶん逆なりね。なぜならクルクルは誰もが認める惰天使だから……わー、久々の畳なり!!」
歩きながら会話をしていたのがマズかった。
自室の扉を開けた瞬間、背中から飛び降りたクルクルが畳の上へとダイブした。突然の闖入者にギョッとする円を尻目に、クルクルは畳に頬ずりし始める。
「やっぱり畳はいいなりねぇ。これぞ日本家屋って匂いがするなり。というわけで、おやすみなり」
「いや、寝ようとするんじゃねえよ。って、なんで円は布団を敷こうとしてるの!?」
「いらないの?」
「あなたが神なりか!!」
布団の中へ身を滑らせたクルクルが、コンマの早さで寝息を立て始めた。
「マジか……」
「あ、大丈夫なりよ。脳は寝てるなりけど、意識はちゃんと起きてるなりから」
「やりにくい……」
仰向けのまま掛布団から顔を出しているクルクルは、目を閉じて鼻提灯を膨らませているのにもかかわらず、はっきりと受け答えできているようだった。
こういう奴なんだなと諦め、天崎は布団の脇で胡坐をかいた。
「話の続きなんだけど、なんでおののき荘の下で眠ってたんだ? 俺の疑問が逆ってどういう意味なんだ?」
「クルクルはおののき荘を寝床に選んだ訳じゃないなり。クルクルが寝ている所に、おののき荘を建ててもらったなりよ」
「…………は?」
「体内時間だと……五十年くらい前になるなりかねぇ。クルクルは仕事のために下界へ降りてきたなり。天使のお仕事は知ってるなりか? 下界に存在してはいけない存在を検挙したり、時には排除したりするなり。けど、この通りクルクルは怠け者なり。仕事なんてこれっぽっちもしたくなかったなりよ」
「仕事したくないなんて、許されるのか?」
「許されるわけがないなり。だからクルクルの寝床の隠れ蓑として、当時知り合いだったチエちゃんにおののき荘を建ててもらったなりよ」
「チエちゃん?」
思い出した。
遠江チエ。確か大家の名前だ。
「そういえば、チエちゃんはまだ元気にしてるなりか? たぶん八十歳近くになってると思うなりけど」
「元気だよ。ただ、今は用事で地元に帰っちまってるけど」
「そうだったなりかぁ。生きてるうちにまた会いたいなりねぇ」
縁起でもないこと言うんじゃねぇ。とは思うも、クルクルは布団の中で眠ったまましみじみ言うものだから、返答に困る。
「ん? ってことは、五十年間も眠り続けてたってことなのか!?」
「そうなり」
スケールの大きさに、天崎は唖然としながら肩を抜かしたのだった。
起き抜けに、あと五年と駄々をこねるのもよく分かる。
「それで、お兄さんはどうしてクルクルを起こしたなりか? おののき荘が移転したのを教えてくれたのは感謝感激なりが」
「どうしてって、そりゃ……」
と言いかけて、言葉に詰まった。
自分はどうしてクルクルを起こしたのだろう。そりゃあ、こんな年端も行かない子供があんな野ざらしな場所で眠っていたら、声を掛けるのは当然だ。
じゃあ何でクルクルを見つけようと思ったのかと問われれば……。
なんでだっけ?
「……悪い。少し考えさせてくれ」
「ふざけてるなりか?」
「布団貸してやってるだろうが」
「ごめんなり」
意外と素直な奴だった。
死んだように静かになったクルクルを横目に、天崎は自分の行動を深く考える。
旧おののき荘跡地に行ったのは、ミルミルが墜落した原因を確かめるためだ。予想通り、まさか本当に天使が眠っていたとは思わなかった。
では、もし天使に出会ったら、自分はどうしたかったのだろう?
……当然、今の天崎の行動目的は、安藤を見つけ出すこと一点のみだ。
「訊きたいことがある。天使の仕事だっていう、下界に存在してはいけない存在を排除するって、どういう意味なんだ?」
「どういう意味も何も、言葉通りの意味なりよ。ありとあらゆる事象は、川のように一定の方向へ流れているなり。その川の流れを意図的に塞き止めるとか、川の水を干上がらせるとか、逆流を促すとか。それらの存在を監視・連行・排除の三つにランク分けして、世界の秩序を保ってるなり」
「……難しいな」
「お兄さんも学生なら、学校で物理や化学は習ってるなりね? 世界ができたのと同時に生まれた、今では当たり前の法則を乱す者って解釈でいいと思うなり。ちなみに長い人間の歴史の中で監視や連行対象は少なからずいたなりが、排除に至った人間は一人だけなり」
「誰だ?」
「ヴラド三世なり」
その名を聞いた天崎は、少なからず動揺した。
無意識のうちに、自分の胸を押さえてしまう。
「ヴラド三世はダメだったみたいなりね。人間から吸血鬼になっただけならまだしも、意図的に『完全なる雑種』になろうとしたなり。世界のルールを乱してしまった彼は、天界より罰が下った……って教科書に書いてあったなりよ」
「ヴラド三世が『完全なる雑種』になろうとした?」
どういうことだ? と思うも、答えは簡単だ。
完全な存在だと謳う『完全なる雑種』になろうとしたヴラド三世は、存在してはいけない存在と見做され、天使に排除されてしまった。その直前、後世で悲願を達成させるために、己の意識を天崎の家系に植え付けた、ということなのだろう。
「どうやら、お兄さんも『完全なる雑種』みたいなりね。今まで排除されなかったってことは歴史をしっかりと紡いだ『完全なる雑種』のはずだから、排除対象にはならないはずなり。っていうか……う~ん?」
天崎の血統を看破したクルクルが、訝しげに唸った。
「よく見たら、お兄さんの中に血統とは違う別の意識があるなりね。今は眠っているみたいなりが……誰なりか?」
「これは……」
言葉に詰まる。
クルクルが視たのは、吸血鬼の血統に紐づけられたヴラド三世の意識に間違いない。だが、これをどう説明したものやら。場合によっては、天崎もろとも排除対象にされかねないんじゃないか?
返答に窮していると、クルクルは「変なの」と言って興味を失ったようだった。
いや、クルクルは「誰?」と言った。つまり天崎の中に別の誰かがいるのは判っても、それが誰なのか個人を特定することはできないのだろう。天使の能力の限界……というより、クルクルがヴラド三世個人と面識がないのなら、当然といえば当然である。
無論、天崎も教えるつもりはなかった。
「というか、『完全なる雑種』になることが排除対象なのか……」
戦々恐々としながら、天崎はリベリアのいる一階の方へと視線を落とした。
ヴラド三世と同じく、彼女も意図的に『完全なる雑種』になった身だ。
「あの吸血鬼も『完全なる雑種』みたいなりね。なんでこんなに多いなりか?」
「……まさか排除対象だって言うんじゃないだろうな?」
「お兄さんと一緒で、今まで排除されていないんなら大丈夫なんじゃないなりか? 天使は今現在の真実を読み取る能力に長けているなりが、過去や過程までは分からないなり。ヴラド三世は、最初に『監視』というランク付けされていたから排除に至ったなりよ」
つまり監視されておらず、一気に『完全なる雑種』になったから大丈夫だった?
それとも天崎の血を吸ったため、天崎家の子孫みたいな位置づけになったから?
……分からない。何も分からないため、今のところ無事なので排除対象にはなっていないだろうと、天崎は結論付けた。
とりあえず、今は安藤が優先だ。
「話を戻すぞ。例えば……下界に悪魔がいたら連行対象になるのか?」
「さすがに悪魔のクラスによるなりねぇ。隣に住んでるサキュバスくらいじゃ、連行どころか監視対象にすらならないなりよ」
確かに空美は、自分のことを下級魔族と言っていた。
では絶大な力を持つ悪魔なら、どうなのだろうか?
「えっと……魔界を管理するほどの大悪魔とか」
「そもそも魔界の悪魔が下界へ侵入することはできないなりよ」
「そうなのか?」
「お兄さんが蟻の巣の中に入るのと同じなり。無理やり身体をねじ込もうとすれば、巣を壊してしまうなりね? だから巣の大きさに見合った存在になる必要があるなり。悪魔だったら下界の生物に転生するとか、天使だったらクルクルみたいな幼児の身体を製造するとか」
「じゃあ悪魔が人間に転生しただけじゃ、連行対象にはならないんだな?」
「そうなりね。その悪魔が世界の秩序を崩壊させようとか企んでるなら、話は別なりが」
世界の崩壊を企む? 安藤が? 鼻で笑ってしまった。
むしろ安藤の目的は真逆だ。世界が平穏でなければ、人間社会の正確なデータは取れないだろう。もちろん、魔界からの指示が急に変わったという可能性も否定できないが。
「安藤は天使の連行対象じゃなかった? なら、なんでいなくなった? 『認識改変』みたいな今までの現象は、いったい何の仕業なんだ……?」
「クルクルとしては、お兄さんがどうしてそんなことを訊くのかが知りたいなりよ」
「…………」
問いかけられ、思考が切り替わった。
果たして正直に話しても問題はないのだろうか?
クルクルが言うには、安藤は連行対象に当てはまらない。逆に、もし万が一にも安藤が世界崩壊を企んでいるなら、天使と協力して止めなければ。
「実は……友達が突然いなくなったんだ」
そう切り出し、天崎は一連の騒動をクルクルに説明した。
先週、空から天使が落ちてきたこと。人間に転生した悪魔の友人が忽然と姿を消したこと。その友人のことを誰も覚えていなかったこと。それどころか、最初から存在しなかったような扱いだったこと。
眠っているクルクルの耳に、本当に届いているのか不安に思いながらも、天崎は今日までの出来事を簡潔に話した。
話を聞き終えたクルクルは、目を閉じたまま答えた。
「ふーん。確かに『認識阻害』と『認識改変』みたいな現象なりねぇ。クルクルが五十年も仕事をサボってたから、新しい天使が派遣されたのかもしれないなり」
その表情は、まるで自分を信用していない会社に不満を抱いているような顔だった。
どう考えたって、五十年もサボっているクルクルに非はあると思うのだが……。
「お兄さんの考察通り、天使に連行された者はその存在を消されるなり。ただ歴史に名を遺すほどの偉人や、書物関連まで消去するのは難しいなりけどね」
「やっぱりか……」
これでほぼ確定したようなものだ。
安藤は、天使ミルミルに連れていかれた。知り合いの記憶からは消されたものの、生徒名簿に名前が残っていたり、携帯に通話履歴があったのがその証拠だ。
でも、何故? 連行対象でもない安藤を、何故ミルミルは連れ去ったのだ?
「でも……」
天崎の疑問を引き継ぐかのように、クルクルが唐突に瞼を開けた。
しかし自信なさげに告げられたクルクルの言葉は、天崎が予想だにしていないものだった。
「そのミルミルって奴は、本当に天使だったなりか?」
「そりゃあ天使だった……はずだ」
すでに記憶は薄れているものの、目の前のクルクルと似た出で立ちだったはずだ。
それに『認識阻害』と『認識改変』。天使でないというなら、何だというのだ。
「なんでミルミルが天使じゃないって思うんだ?」
「クルクルの存在に引き寄せられたってのは分かるなりが、そもそも空から落ちてきたってのが意味不明なり。天使なら飛べばいいなりからね」
「た、確かに……」
「それに、そのミルミルって奴は真下にいたクルクルにまったく気づかなかったなり」
「クルクルだって知らなかっただろ」
「それはクルクルが眠っていたからなりよ」
眠っていたというクルクルはひとまず置いといて、ミルミルはどうして足元のクルクルに気づかなかったのか?
結論は――、
「天使じゃなかった……から?」
「その可能性は大いにあり得るなり。天使だったら気づかないはずがないし、それ以外の種族ならクルクルを発見することは不可能なり。お兄さんみたいな『完全なる雑種』か、天使がそこに居ると思い込んで目を向けない限りは」
いや、でも、まさか、そんな……。
天崎の頭の中で、混乱が巻き起こる。もうほとんど覚えていないとはいえ……アレは天使ではなかった?
「ほらほら、お兄さん。純正な天使であるクルクルを見て、思い出すなりよ。クルクルとミルミルって奴に、どこか違いはなかったなりか?」
「思い出せって言われてもだな……」
上半身を起こして腕を振るクルクルを、天崎はじっと見つめた。
髪の色、背中の翼、着ている物。どれを取っても、違いなんてないように思える。
「あっ。確かミルミルは、クルクルみたいにずっと眠ってたわけじゃなかったな」
「それはクルクルだけなりよ。怠けたら天界一と恐れられるクルクルを甘く見ないでほしいなり」
あまり威張れることでも褒められることでもないとは思うのだが。
他に何かなかったか、記憶を掘り返してみる。
近くで爆発音があって、見に行ったら白い子供が瓦礫の上に立ってて、それで……。
「飯を要求……してきたな」
「飯?」
「あぁ。出会って早々に、飯を食わせてくれって言ってきたはずだ。そんで、その日の夕食をほとんど食べられた」
「それは変なりね。天使は下界で物を食べる必要がないなりよ。腹が減るなんてことはないなり」
「何も食わないで生きていけるのか?」
「じゃなきゃ、クルクルは五十年も眠り続けていられないなり」
「確かにな……」
そこでクルクルは、何か勘づいたかのように口を開けた。
「もしかして、そのミルミルって奴に性別はあったなりか?」
「女の子……だったはずだ。いや、女の子だった。今思い出したよ。実際に見せつけられたからな」
「はい、アウトなり。あー、もう! 面倒くさいことになったなりね!」
心の底から気怠そうに嘆いたクルクルが、布団の上へと大の字に倒れ込んだ。その顔はまさに、面倒ごとに巻き込まれたような辛気臭さだった。
ミルミルの性別が判明しただけで、どうしてここまで嫌気が差したのか。
天崎は説明を求める。
「どうしたんだ? ミルミルが女の子だと、何かマズいことでもあるのか?」
「天使に性別はないなりよ。個体によって男の子寄りか女の子寄りかはあるなりけど、基本的にはみんな同じなり。ちなみにクルクルは男の子寄りなりけど……ほら」
そう言って立ち上がったクルクルが、ワンピースの裾を掴んで捲り上げた。
あまりの唐突な行動に、天崎は思わず目を逸らしてしまう。天使って奴は、みんな羞恥心を持ち合わせていないのか? しかもなんでノーパンなんだよ!
「おー、つるつる」
顔を背けていると、驚きと感心に満ちた円の声が聞こえた。
誰かに咎められるわけでもないかと諦めた天崎は、クルクルの股間を確認する。
そこには……本当に何もなかった。男性器も女性器もなく、まるで脇のように、両脚への分岐点でしかなかった。
「性別が……ない? いや、そんなバカな。記憶はけっこう曖昧になってるけど、ミルミルは間違いなく女の子だったぞ」
「だから言ってるなり。そのミルミルって奴は天使じゃないなり」
「じゃあ、なんだって言うんだよ」
「答えは簡単なり。クルクルと同じような特徴をしているのに、食欲があったり性別があったり。そんなもの、考えられる可能性は一つなり」
そして肩を落としたクルクルが断言した。
「堕天使なりよ」
「堕天使?」
クルクルの言う惰天使とは違い、こちらには少なからず聞き覚えがある。
聖書では、神に反逆した罰として天界を追放された天使、もしくは自分の意思で神から離反した天使だと記されている。また、悪魔は堕落した天使であるとも。
「ってことは、俺と会ったミルミルは悪魔だったのか?」
「それはないなり。天界から墜ちた天使は、まず『堕天使』という別の存在になるなり。その時点で食欲と性別が顕現するなりが、天使としての特徴や能力はそのままなりね」
「つまり『認識阻害』や『認識改変』があったってことは、悪魔までには至ってないってわけか」
「そうなり。そして、そこから『悪魔』という種族まで墜ちるのか、それとも『堕天使』としてそのまま生きていくかは、個体の意思で選択できるなり。ま、クルクルには堕天使の考え方なんて分からないなりけどね」
そう言い終えるやいなや、クルクルは小馬鹿にしたような態度で鼻で笑った。
「にしても、堕天したのに天使を名乗るとか、仕事をしに下界へ来たとか、天使は下界へ降りる時は人気のない所に落ちるとか、嘘ばっかりなりね、そのミルミルって奴は。よほどプライド高いのがお見受けできるなり」
「ちょっと待て。仕事をしに来たってのが嘘なら、なんで安藤は連れ去られたんだ?」
「んなこと知らないなり。でもお兄さんの友達って、悪魔の転生体なりよね? なら、そこに理由があるんじゃないなりか?」
その通りだ。
仮にミルミルが堕天使なら、下界をパトロールするというのは間違いなく嘘である。しかし安藤を連れ去る理由がなくなったわけではない。何か別の目的があったはずだ。
天崎が考え込んでいると、クルクルが頭を抱えて唸り声を上げた。
「あーん、もう! なんてタイミングの悪いところで起こしてくれたなりか!」
「あんまり大声を出さないでくれ。さっきからどうしたんだよ」
「理由がどうあれ、下界を自由に闊歩している堕天使は問答無用で排除対象なり。天界の汚点なりからね。このまま放置してたら、いずれ天界から使者が来て大規模な捜索が始まるかもしれないなり。そんなことになったら、クルクルが五十年もサボっていたことがバレてしまうなりよぉ!」
「自分のせいじゃねぇか。そもそも、なんで今までバレてないんだよ」
「クルクルはサボりのプロなりからね」
親指を立ててドヤ顔しても、何一つすごいとは思わなかった。というか、コイツこそ堕天使なんじゃないかと、天崎が思い始めたくらいだ。
「ま、なってしまったことは仕方がないなり。五十年ぶりに仕事するなり」
「もしかして、一緒に安藤を捜してくれるのか!?」
「お兄さんのお友達が、そのミルミルっていう堕天使に捕まってるなら、結果的にはそうなるなりね。もし違ってても、それ以上クルクルは手伝わないなりよ」
「いや、それでいい。可能性は一つずつ潰していきたい」
とはいっても、天崎にはすでに確信があった。安藤はミルミルと同じ場所にいる。
思いもよらぬところで手掛かりを見つけた天崎は、布団の上で大きな欠伸をかますクルクルと、無理やり握手を交わしたのだった。