それでも、すき 〈2〉
教室にはいると、なっちはわたしと仲良しの木下と談笑していた
木下がなにかおもしろいことを言ったのか色つきリップをぬった口元を覆いながら
なっちはけたけたと笑っている
木下もわたしとおんなじでかわいい子には目がないから、
なっちに話しかけられて浮かれているらしくしきりに口元をニヤつかせていた
木下となっちは特別仲がいいわけじゃない…はずだけど
少なくとも今のわたしにはふたりは友達みたいに見えた
うらやましいよ、くそったれ
「ねえ、木下!トイレいこう」
行きたくもないトイレを促すと、
木下は「あ、うん」と言ってなっちをはなれて
わたしの方にきた
なっちとの会話に終止符をうつ
木下にとってはただの嫌がらせだけど
そうでもしないと、うらやましくって頭がどうにかなっちゃいそう
わたしの方がすきなのに、なっちのこと…なんて。
トイレに着くと、つれだされた腹いせに木下は
「いやァ、ニナに話しかけられちゃった。いいでしょ。」と言ってきた
得意げな言い方が鼻につくけれど本当にうらやましいのだから
怒るのもかえってむなしく思われて素直に頷く
「それで、なに話してたの?」
「えっとね、ドラマの話」
「なに、この前ハマってるって言ってたへんな深夜ドラマ?」
「そうそう。でもニナもおもしろいって。感性が似てるのかなうちらって」
たまたまおなじドラマがすきなくらいで調子にのるな、と言いかけてやめた
HR始業の予鈴がひびく
「えぇ、予鈴。早く出ようこんなところ」
いち早く駆け出した木下に続いて、トイレをあとにする
こんなところ、だなんて木下は言ったけれどわたしはあのトイレがすきだ
日当たりが悪くて陰気くさくって薄汚くて。
わたし達みたいな日陰の存在にはぴったりの場所
わたし達、だなんてひとくくりにしては木下は怒るだろうか
でも、少なくともわたしはあそこがすき
中二のクラス替えで同じクラスになった鈴夢となっちが
仲良くなってからはほとんどないけど
中学1年生の頃はあそこでなっちともよく話した
いちばん奥の壁に寄りかかって、
さっきみたいに予鈴が鳴るまでくだらないおしゃべりを続けた
たしか、あの頃のなっちはクラスに仲良しの子がいなかったんだったけ
それでよく、わたしや、木下とも一緒にいた
もう1年以上まえの話だけど。
なっちは、おぼえているだろうか