飛び交う罵声
教室の前は野次馬が壁を作っており、中に入れない状態だった。
飛び交う罵声
「ちょっと、どいて、中に入れて!」
人の壁はちょっとやそっとでは動かない。
呆れたことに……半分以上が女子生徒だった。キャーキャー黄色い叫び声と、男子の低い声が廊下に響いてくる。
「やっちまえ太郎! いかすかねえ転校生なんてボッコボコにしてやめさせちまえー!」
「名前で呼ぶなっていつも言ってるだろ! 苗字で呼んでくれ!」
「……やれやれ、僕は暴力をふるうなんて野蛮なことは嫌いなんだが、……仕方ない」
ディア君の声だわ!
本当に殴り合いでも始まるんじゃないかしら……。ここからじゃ全然見えないっ!
「もう、中はどうなってるのよ! 入れてよ!」
そう言った瞬間――、
目の前の女子の壁がフワアっとすり抜け――、
続く男子の壁もフワアっとすり抜けて――、
制服の上着を脱ぎ捨てた二人のイケメンの間に突然飛び出していた!
「はっ!」
睨み合う二人の間に立たされ、周りの全員が突然現れた私を見る……。みんなの視線を一同に浴びて私は……顔が赤くなり胸がキュンキュンした!
「なんだ君は? なにしに出てきた!」
なんだって私は……樋伊谷真奈美だわ。
橘君ににらまれると……、男前過ぎて……やだやだ、癖になりそう~!
『音声レベルゼロですよ真奈美さん。聞こえてません。観戦中』
「もしかして、喧嘩を止めに来たんじゃないよね」
ディア君まで私を睨み付ける――青い瞳がやっぱり素敵――。
周りの野次馬も黙り、教室内が静かになった――。なんとしても喧嘩を止めなきゃ!
「二人とも喧嘩はやめて!
――私なんかのために――!」
一瞬の静寂後、周りの女子や男子から聞き取れないほどの罵声が飛んだ――。
「キー! なにあの女、馬っ鹿じゃないの!」
「誰もあんたのために喧嘩したりしないわよ! ドブス! ドブン! ドボン!」
「いい加減なこと言うと、はったおすわよ!」
「全くだ! 自分の顔を見て物を言えゲロハゲ野郎! 待機中!」
――急に周りからの罵声を浴びて、私は耳を塞いだ。
ちょっと言ってみたかっただけなのに~。みんな酷いわ!
「とりあえずどいてくれ。喧嘩のじゃまだ」
「そうそう、近くにいて巻き添えを食ったら大変だ」
こんな時でもディア君……優しい。
喧嘩の強さはしらないけど、ちょっと優勢かしら。……でも次の一言には耳を疑った――。
「醜い顔が余計酷くなる」
頭の中で――なにか崩れる音がした。
『ガンガラガッシャーン。再現中。4リットルのヤカンを落とした音がベストマッチ! 演出中』
……。
「そこをどけ!」
また橘君がそう言う。
「嫌だ! どかない!」
私にだって意地がある……。そもそも周りを男子が円状に取り囲んでいるのだ。どきたくったってどきようがないわ!
「じゃあ……怪我するなよ!」
そう言いながらディア君が一歩踏み出たとき、教室の外から大きな声がした――。
「止めなさい!」
先生の声でもない。
だがその声の大きさと、貫禄で教室はまた静寂を取り戻した。
「ちょっと、誰よ。私の時は誰も聞いてくれなかったのに~!」
『知名度の違い。また、橘太郎とディアブロ・ゾンタの喧嘩の理由は、そもそもこの女が原因』
教室を囲んでいた人の壁が開き……、則子が歩いて入ってきた。
則子は静かに言った……。
「一人の女子のために争うのはいいけど、喧嘩なんて男らしくないわ!」
……そうかしら?
男らしいと思っていた……。
「勝負するならソフトボール……じゃなくて、――野球でやりなさい!」
――!
――?
――@
『右から順に、橘太郎、ディアブロ・ゾンタ、真奈美。待機中』




