遅刻
サラマンのせいで学校に遅刻した……。
遅刻
学校に着いたのは、三時間目終了のチャイムと同時であった。
急げばもっと早く来れたのだろうが、小腹をたこ焼きで満たしたかったのと、学校の授業に大した価値観を持ち合わせていなかったから……致し方なしだわ。
「長い人生気楽にいけばいいのよ」
『……先ほどと意見が異なる。真奈美も矛盾中。なお、先ほどのたこ焼き代は真奈美のヘソクリ袋から回収完了。待機中』
学校の下駄箱で靴をはきながらそのコメントを読んだ。
「ちょっと待ちなさいよ。あれはイナリのおごりじゃなかったの?」
『お金は異次元より転送したが、おごりとは一言も言っていない。先ほどの会話をムービーで再現可能』
目の前にたこ焼き屋でのやり取りが再現される。……確かにイナリは一言もおごりとは言っていない……。表示していない……。
「でもダメよ。お金は元に戻しなさい。なぜなら、あんたの馬鹿主のせいでとんだ目にあったんだから。450円でも安いくらいだわ!」
『了解』
イナリはやけに素直に要求をのんだ。
「真奈美のヘソクリが隠してある本棚左から二列目の雑誌、イケメン上半身裸の切り抜きが挟まっている232ページに千円札返却完了。待機中」
――な、な、なに言い出すのよ~!
「真奈美にとってイケメンの上半身裸は金銭と同等以上の価値と判断。私には真奈美の価値観理解不能~。しかし、上半身裸と下半身モッコリを求めるのは生物雌において当然と認識。データベース修正中。待機中~」
「――べべべつに! も、も、モッコリなんて求めてないわよ!」
なんてこと言わせるのよバカ!
顔も耳も真っ赤になるじゃない! 普段ならイナリが赤面修正処置をしてくれるはずなのに~。
『真奈美が興奮するのを確認。興奮中とデータベース修正中~。観察中』
「――興奮なんかしてない! いい加減にしなさい!」
大きな声でイナリを叱り、赤い顔をしたまま教室へ早足で向かった。
イナリが笑いを堪えているようで、またまた腹が立つ~!
純な私をからかわないで!
教室へ入ると、カナがすぐに私を見つけ、歩いてきた。
「おはよー、カナ」
「おはよう……じゃないわよ。もう4時間目よ? それより聞いたわ。昨日は大変だったのよね?」
昨日? ……ああ、ディアブロのことか。
「別に大変ってほどでもなかったわ」
私も則子も無事だったし。大変と言ったら今朝の方がよほど大変だったわよ。
あの馬鹿が地球を滅ぼしかけるし、ブラックホールが近づいてるとか言いだすし、イナリがベラベラ人のプライベートを暴露するし、思い返すだけで腹が立つ! 赤くなる!
「へえー、則子も言ってたけどマナって度胸あるのね」
「ないないそんなもの」
変に詮索されるのも嫌だから、素っ気なく応える。別の話題にしなくちゃ……。
「そんなことないわ。真奈美はいざってときに凄いんだから」
そう言って近付いて来たのは、則子だった。
「昨日はありがとう」
「いいって、気にしないで」
改まって感謝されるとこっちが困るわ。
「でも、ディアブロ君ってそんなに女癖が悪かったのね。私も気をつけなきゃ」
カナがそう言う。
――あんたは大丈夫よ。
『……真奈美の思考回路は酷い。友達なくすぞ。警告中』




