宇宙のルール
サラマンの勝手気ままな行動に、真奈美は怒りを覚えるのだが……。
宇宙のルール
勝手に人の星にきて、勝手にその星で好きなことをする。それってただの侵略じゃない!
宇宙には秩序とか法律なんてものはないわけ?
「ある。強いものが秩序。法律。弱いものは強いものの道具であり、餌。現に人間が宇宙へ出る理由は自己の永続と繁殖が目的。サラマン様と同様」
「そんなことないわよ! 地球以外でも住める星を探しているだけだわ」
「では、もし人間が宇宙に出て、ようやく住める星が見つかりました。そこに国産和牛が繁殖していました。食べますか?」
「うん」
しまった! 即答してしまったわ!
これじゃ侵略、略奪と同じじゃない~!
「……落胆中。つまり、人間が人間のルールで行動をする。宇宙人は宇宙人のルールで行動をする。強いものが優位になる。地球でも宇宙でもそれは同じ」
確かに……、強いものには選択権がある。でも弱いものには選択権はない……食われるしかない。
宇宙弱者は誰も守ってくれないんだわ……。
「それ相応の価値あるものと引き換えれば守られることもある。人間社会のお金」
気がつくとイナリが目の前にお金や宇宙人を立体映像にして並べて必死に説明をしていた。私はそれをただ呆然と見て歩いた。
カラスは生ゴミを食べて満腹になったのだろう。大きな声を上げて飛び立った。
「地球の鳥達はどうなっちゃうの?」
「真奈美の制御装置でわかる範囲で説明すると、人間には全く影響無し。見分けつかず。しかし、全ての鳥はサラマン様の異次元へ転送済み。そこは鳥のユートピア。鳥インフルエンザもない。当然、鳥人間コンテストもヒヨコ釣りもない。鳥にとって理想の地」
「でも、鳥達が本当にそこの暮らしがいいと思うかしら。環境も変わるのだし……」
慣れない異次元では……病気や衰弱する筈だわ。
「心配無用。地球と同じ環境。なぜならサラマン様は異次元内に銀河系と全く同じものを複製して作成可能。地球もどきを作って人間や猫やイタチなど鳥の天敵を削除するのは容易。それどころか、現在の地球のように、ブラックホール接近の恐れすら皆無。待機中」
イナリはいつも……さらりと聞き捨てならぬことを言う。
「なんですって? ブラックホール?」
「厳密には超新星出来損ないブラックホール。オリオン座のベテルギウスは現在ブラックホールとなり、地球へ向けて光速に近い速度に加速し接近中」
「う、嘘おっしゃい! 昨日の夜もオリオン座は綺麗に見えたわ!」
「超次元戦艦嘘言わない。地球でオリオン座の爆発した様子が確認できるのは640年後。ただしブラックホール接近は現在も加速中のため、詳細不明。解析中。只し、人間には無害」
「なんでよ、その頃には宇宙へ逃げられるの?」
全員が脱出するにはかなり時間と労力が掛かるはずだわ……。
「とっくに絶滅している。同種で知的生物同士が争う遺伝子を持つ種は、これまで繁栄後に急に絶滅事例のみ。的中率……おっと、真奈美はその時も生きているため、絶滅は撤回。真奈美が私の護衛を受け続ける限り人間は絶滅しない。待機中」
商店街をぶらぶら歩きながら考えた。
その時に私がまだ生きてる? 一人で? なんでよ!
「以前にも説明済み」
「嫌よそんなの! 私だってみんなと一緒に歳をとって……普通に死にたいわ」
「自ら死を望む思考回路は私には理解不可。ただし真奈美の思考回路を解析理解は容易。今は考えても無意味。歳をとってから悩んでも遅くないと判断」
「なによ、問題の先送り?」
「悩んでも得るもの皆無。それよりも早く授業へ戻るのが賢明と判断。待機中」
イナリがそう言うと、私はとっさに腕時計を見た。
――そうだった、てっきり今日は休みだと勘違いしていた~!
「あっちゃー。あの馬鹿のせいで、もう二限目も始まっちゃうわ。早く学校へ転送して!」
『私の任務は真奈美の護衛。出席率や成績は任務外。待機中』
……イナリのこのコメントが……今日一番カッチーンときた。




