白兵戦!
壁を通り抜けて現れた正体不明の敵! 絶体絶命か!?
白兵戦!
黒い塊のように見えたが、よく見るとその姿は黒い礼服のようなものをまとった人間の姿……前に会ったこともある。
「――って、あんた! サラマンじゃないの! なにが正体不明物質よ~!」
指をさしてそう叫んだ。
『――!』
イナリが沈黙した。
「やあ、樋伊谷真奈美。ひさしいな」
壁からすり抜けて入ってきたサラマンは、目の前で立ち止まり、細長の目でこちらを見る。
思いっきり手にした斧で、その不法侵入者をぶちのめしたのは、本能だったのよ……。
「アベシ!」
急に顔を斧の側面で打たれ、サラマンは艦橋内で二回転して転倒した。
『――?』
イナリは……なにがなんだか分からないようで、なにも言わない――。
「こ、コラ! 急になにをするお譲ちゃん! 私だぞ? サラマン・サマーだぞ。大宇宙における神的存在であるこの私の顔を忘れたと言うのか?」
「なにがサラマン・サマーよ! 急に地球に侵略にでも来たの? それなら上等だわ。地球は私が守る――!」
また核弾頭八千発分の破壊力がでる斧でぶちのめす!
この程度でくたばるような人間……? ではないのだろう。
「アンギャ~!」
「来るんだったら来るでメールくらい出来る筈でしょ!」
「イタタ。い、いや、サプライズって楽しいじゃないか! それに超次元戦艦80318の任務遂行力をテストするいい機会かなあ~と思って……」
私はまた斧を頭上へと振りかざす。この斧……凄く手になじむわ。ジェイソンもビックリよ――。
「わーまて、悪かった! 謝る。この通りだ!」
サラマンは必死に片手を出し開いてそう言った。
――まったく、こいつら宇宙人の思考回路が……全く理解出来ないわ――。
『制御回路復帰。私が敵と判断したのは我が主サラマン・サマー様と確認。サラマン様ようこそ地球へ。お越しいただき感激の極みでございます。真奈美、ご無礼のないように。斧の出力解除実施――。あ、真奈美、サラマン様への暴力は禁止。強制抑制実施。間に合わず。処理不能、処理不能』
「なによ、まだイナリはボケたままじゃない!」
「ボケてなどいない! 制御回路復帰確認。私の異次元へ他の物質が強制侵入した時の異次元制御変更処理に制御装置の処理能力を奪われただけ。普段通り。待機中」
出来の悪い言い訳にしか聞こえない……。
「まあいいわ。敵じゃないんなら早くこの重苦しいパワードスーツを他の服に戻しなさいよ」
「了解。制服強制着装。――完了」
一瞬で元の制服姿へと変わった。
サラマンは斧で叩かれて赤くなった頬っぺをさすりながら立ち上がった。
「処理が遅いぞ超次元戦艦80318。そんなことで私が与えた任務を遂行出来るのか?」
「申し訳ございません! サラマン様!」
私は艦橋内のソファーに座った。
――こいつら馬鹿だ。
茶番ってこういうことを言うのかしら……。
「で、サラマンは一体何しに来たのよ」
「真奈美、サラマン・サマー様に向かって失礼。地球での礼儀では目上の方には敬語を使うべきと判断。教育中」
イナリのそんな声に耳を傾けたりしない。
「そうだった。こんなことをするために忙しい私がこの地に赴いたのではなかった」
サラマンは真奈美の反対側に現れた大きな黒い革張りの……社長が座るような高級椅子に座りながら言った。
「マナミ銀河の真奈美が住む惑星を視察に来たのだ。いずれマナミ銀河も我が勢力下に落ちるだろう」
「はあ? なによそれ。侵略?」
「真奈美、敬語を使わないと失礼。翻訳中――」
イナリは、私が言った事をわざわざ言い直す。
「ああ~大いなるサラマン様! それは私たちの住む銀河系がサラマン様の御ために役立てるということでしょうか。わあ嬉しいわ。こんな素晴らしいことは他にあるかしら。と真奈美は申しております」
「うむ!」
サラマンはテーブルへ現れたコーヒーを口に運びながらそう頷く。
……もう馬鹿馬鹿しくて手に負えないわ。
「結局、暇つぶしに来たってことね……」
「その通りだ。これから地球を案内してもらおう。どうせお前も暇だろう」
「ちょっと失礼ね! 私にはこれから授業があるんだから!」
こんな奴と付き合ってられるか~!
「おおせの通り、真奈美は暇をもてあそんでおります。それでは地上近辺まで移動させていただきます。降下中」
テーブルに頬杖をついてその声を聞いていた。……私の発言は無視らしい。
あとで覚えてらっしゃい――!




