次なる作戦か?
真奈美と則子を乗せたエレベーターは1階へと下りる。『チ~ン!』
次なる作戦か?
「でも、これからどうするかよ……」
「ええ」
則子は落ち着きを取り戻していた。
エレベーターを出ても、大勢黒いスーツの男がいるにきまっている……と思ったのだが、一階に着き扉が開くと、そこに怪しい男は一人もおらず、受付嬢と数人の客がいるだけであった。
「やった、誰もいないわ!」
則子が先に出てそう言った。
「ちょっと――拍子抜けね」
首をかしげながらあとに続いて出る。
『数分前に真奈美と則子型粘土細工を反対方向へ陽動実施。数十人の男がまんまと引っ掛かり現在も鬼ごっこ展開中』
……なるほど。
こうして二人は近くの駅まで誰から追われることもなく辿り着けた。
「ここまで来れば大丈夫ね」
「学校内にまでボディーガードを連れてこないかしら?」
則子はまだ心配している。
「平気よ。それに学校だったらなんとかなるわ」
そう言うと則子も笑顔でうなずいた。
「そうよね。今日はありがとう。真奈美っていざって時に凄い度胸があるのね。見直したわ」
「なんのなんの。この間のお返しが出来て良かったわ」
「じゃあ私はまた部活に戻るから」
則子はまた学校へ行くホームへと向かった。
「こんな日ぐらい……部活なんてサボればいいのに」
「則子にとって部活は生活の一部と判断。運動にて筋力増強は真奈美にこそ必要。最近質量増加傾向。走って帰ることを推奨中」
「こんなところから走って帰れるか!」
異次元から思い出したかのように語りかけてくるイナリにそう答えた。家まで裕に20キロはある。
私は則子の反対側のホームへ向かった。
しつこい男は嫌われる――。
そうはっきり言ってやりたかった。
私が強くそう再認識したのは次の日の登校時であった。
また下駄箱に小さな箱と手紙が入っていたのだ。
「なによこれ! またあいつの仕業かしら……」
呆れながら手紙を読むのだが、昨日ほどのトキメキはない……。
『昨日はボディーガードが勝手なことをしたようで、すまなかった。これはほんのお詫びのしるしさ。PSまた話を聞かせてくれ。あと、気の強い女の子は好きだよ』
――え? ええ!
好きだと書かれている所を見た途端――、またしてもイナリの強制血圧抑制処置にお世話になってしまった――!
『昨日の今日でまた興奮状態になる真奈美に落胆中。待機中』
「でも、これは――明らかに私への好意のしるしだわ~」
やだ、耳まで赤くなるじゃない!
『色彩補正調整実施。赤くなっても肌色を維持するよう変色措置。カメレオンの原理応用中』
そんなイナリの措置もそっちのけで、小さな箱を開けた。
「うわ、綺麗!」
昨日のとは明らかに輝きの異なるペンダントが収まっている――。
……そう言えば……昨日のは厚紙の箱だったような気がするが、今日のはちゃんとしたテファニーのロゴが入った箱だわ!
「もう、ディア君ったら。しつこいんだから~!」
笑いが抑えきれない! ……銀色だけど。
ニヤケ顔のままでそのペンダントを身に付けると、イナリが囁くように小声で言った。
「私もディアブロはしつこいと判断。何故なら今回のも……贋作。それで喜ぶ真奈美には傑作」
「……贋作で……傑作?」
興奮が冷めぬまま……ワナワナ怒りへと変化していく……。
「今回の材質含有率判明。鉛とスズ。通称ハンダ。爆笑中」
唸り音のような超次元戦艦の笑い声が頭の中をこだまする……。
「ハンダってナンダ?」
私がそう呟くと、さらにイナリの笑い声が大きくなった。




