納豆残して叱られる
樋伊谷真奈美は、恐怖の四両目にまた乗り込み、おっさんを見つけて……ホッと安心する。
納豆残して叱られる
次の日、遅刻はしなかったのだが、堂々と電車の四両目に乗った。
痴漢できるもんならやってみなさいって顔で周りのおっさん達を見渡す。そして昨日のおっさんを見つけた。
……生きていた。ホッと胸をなで下ろす……んん?
なんで痴漢の心配なんかをしているんだ私は――! 被害者なのに~!
手には包帯をしている。目が合うと、そのおっさんは昨日のように怒るどころか、すごすごと人混みに隠れて行った。
異次元で時間停止していたというが、どんな感覚だったのだろう。
……とりあえず無事だったのならどうでもいいか……。
今日も電車で小説が読めて幸せだった。……でも、ここにいる誰かが私の事を言いふらしていたらどうしよう……。
『問題があれば、それらを全て削除予定。待機中』
視界にそう文字が映った。
――削除なんて残酷なことばかりしてはいけないわ――!
一体どういう思考回路なんだか……頭が痛い。声に出さずにそう考えるだけで、あいつには伝わる。
『なぜ君ら二足歩行生物は削除に抵抗する。君は今朝、納豆菌を何十万と見殺しにした。納豆菌は君のために役に立つ。つまりは君の味方なのに何十万も無駄に殺した。殺すことに抵抗がないのであれば、君に対しての敵ならなおのこと。それを残酷と言うとは理解に苦しむ。待機中』
――私たち人間はあなた達ロボットみたいに単純じゃないの! 人の命は尊重しなくてはならないのよ。ロボットには分からないだろうけど……。
『君達二足歩行型生物の方が単純。単純な思考にはより多くの矛盾が生ずる。それに私はロボットなどではない。次元戦艦だ。待機中』
……全く、どっちが単純なんだか。
私は目に映る文字ではなく、小説の文字に目を移した。
遠まわしに、朝食の納豆を残したことを怒っていたのだろうか――?




